中国の反スパイ活動は自身の利益に損害を及ぼしかねない

2023/08/10
更新: 2023/08/10

中国共産党(中共)は国民に反スパイ活動への参加を促しており、ナショナリズムを煽り、中共の権威主義的支配を強化する狙いがある。しかし、国家安全保障への注力は、中共自体に悪影響を及ぼす可能性があると専門家らは指摘している。

国内外での諜報・治安活動を監視する中央機関である中国国家安全部は、稀に見ることだが、中国のSNS 「WeChat(ウィーチャット)」 に公式アカウントを開設し、7月31日に運用を始めた。

国家安全部は「スパイ対策には社会全体の総動員が必要!」 と題した最初の投稿記事の中で、大衆がスパイ対策に参加することを 「普通」 とするシステムを構築する必要があると述べた。

「現在、スパイ活動への対策は依然として厳しく複雑な課題である」とし、「国家安全保障機関が特別な対スパイ機関の役割を果たすだけでなく、国民の広範な参加も必要とする」と記している。

専門家たちは、中共の外国スパイの脅威に関する警告について、中共が情報収集のために海外に大規模なネットワークを展開し、そのハッカーが米国政府機関の電子メールアカウントに侵入した事例を指摘した。

台湾国防安全研究院の蘇子云氏は、「中共は外部スパイの脅威を利用してナショナリズムを煽り、国民に政権への忠誠を促している」と述べた。

蘇氏によると、国家安全保障は中共の政治的安全保障として理解されるべきだという。

副作用

7月に施行された中国の反スパイ法の拡大に伴い、中共は大衆をスパイ活動に参加させるよう呼びかけた。

この法律によれば、反スパイ捜査を行う当局は、データ、電子機器、個人財産に関する情報にアクセスすることができる。

特に、この法律はスパイ活動の定義を 「国家安全保障と利益に関連するすべての文書、データ、資料、物品」 にまで拡大している。とはいえ、何が国家安全保障に該当するのかは明記されておらず、中国の外国企業、研究者、ジャーナリストにとって、より敵対的な環境になるのではないかという懸念が生じている。

曖昧な文言の法律が施行される前から、外国企業はすでに厳しい監視の目にさらされてきた。中国警察は3月、ニューヨークの企業情報会社ミンツ(Mintz)の現地従業員5人を拘束し、北京の事務所を閉鎖した。外交部は 「違法営業」 と非難し、その後オフィスを家宅捜査し、従業員を尋問した。

また、中国外交部は3月下旬、日本の製薬会社アステラス製薬の社員を 「刑法およびスパイ防止法に違反するスパイ活動を行った疑い」で拘束したと発表した。岸田文雄首相は中国政府に対し、日本国民の釈放などを強く求め続ける姿勢を表明した。

蘇氏は、このスパイ防止法の拡大は中共に害を及ぼす可能性が高いと述べた。中共中央政治局は、中国がパンデミックによる景気減速からの回復もおぼつかない中、引き続き開放し、投資を積極的に受け入れることを外国企業に保証しようとしている。

ブルームバーグの報道によれば、モルガン・スタンレー社は、中国が国内に保管されている大量のデータへのアクセスを厳格化したことを受け、200人以上の技術開発者を中国から転出させている。

在中国の欧州連合 (EU) 商工会議所が6月に発表した報告書によると、外国企業が既存の投資やサプライチェーンの一部を中国国外に移すなど、「企業の信頼感が著しく悪化している」 という。

蘇氏は 「反スパイ法は中共自体に大きな副作用をもたらすだろう」 と述べた。

安全対策の強化要請

中国経済が低迷する中、中共は国民の注目を外国スパイの脅威に向け、中共中央政治局はここ数か月間にわたって対諜報活動の呼びかけを強化している。

7月14日に北京で開かれた国家情報機関会議では、党中央がスパイ活動の展開「隠れた戦線」の支持を表明した。

この会議は、中国の不透明な政治体制の中で警察、裁判官、スパイを取り仕切る党中央政法委員会の陳文清書記が主催した。会議では、国家安全システムの中で貢献した役人を表彰し、「スパイ活動の展開『隠れた戦線』を非常に重視し、支持する」 と強調した。

その上で、中国の習近平国家主席が掲げる「国家安全保障の全体構想」を「断固として実行」するよう求めた。

米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は、対中諜報活動の再建に 「進展があった」 と指摘した。

「10年ほど前、中国はCIAの多くの行動を差し押さえ、十数人のCIA関係者が逮捕され、さらには処刑されたが、今は再建したのか」と司会者のケリー(Mary Louise Kelly)が質問した。

バーンズ氏は「我々は進展を遂げており、ここ数年、他の手段で入手できる情報を補完する強力な人的情報能力を確保するために、近年、懸命に取り組んでいる」と応じた。

この発言は、中国政府を激怒させた。中国外交部はバーンズ氏の発言に「自国の安全保障を守るために必要なあらゆる措置を取る」と強調した。

ここ数十年で中国最強の指導者である習近平氏は、国家安全保障システムと能力を強化するよう指示した。

中国はすでに、国内外の企業の監視、国家安全保障を脅かすと判断した者への処罰、そして全国規模の監視システムの構築などに多くの資源を投入している。中国当局が社会の治安維持に費やした金額は、2020年において国防予算を上回る規模となった。

習近平氏は5月の国家安全保障会議で、中国が直面する外部の脅威が「より複雑」になっていると述べ、中国は「極端なシナリオ」に備える必要があると警告した。

公安部は、国民に対して反スパイ活動への参加を促すため、反スパイ訓練を実施し、その内容を教育機関や宣伝機関に組み込む必要があると述べた。

ニュース、放送、テレビ、文化、インターネット情報サービスは、社会全体を対象とした反スパイ活動の宣伝と教育を行うべきだという。

豪州を拠点とする中国人学者の李源華氏は、今回の中国反スパイ活動は、中共の支配をさらに強化するためのものだと述べた。

また、北京の首都師範大学教育学院の元歴史学教授である李氏は「スパイ(に対抗する)という口実で、(中共は)誰もが敵になり得る雰囲気を作り出そうとしている」と語った。

「中共は国民を含め、全てのものを支配しようとするのは独裁政権の本質だ。それを実現するためには、中共が安心感を得られるように、国民を敵対させ、相互に監視させることだ」と指摘し、「目的は、つまずいた権威主義的支配を守ることである」とした。

呉旻洲