水が引いたとは言え、まだ洪水被害の生々しい河北省涿州市内。しかし「その場所」だけは、街の路上に散乱していたゴミや泥もきれいに片付けられていた。
用意された「その場所」へ、河北省の省委員会書記(河北省のトップ)である倪岳峰氏とその一行が8月3日、ようやく視察に訪れた。倪岳峰(げい がくほう)氏は安徽省出身の58歳。現職に就任したのが2022年4月であるため、河北に赴任して1年4カ月である。
ようやく現れた、党の「お偉いさん」
その様子を、ある地元民の男性が携帯電話で撮影していた。すると、これに気づいた警護員が駆け寄り、撮影を阻止した。
撮影者は「なぜ撮らせてくれないんだ。水が来ていた時や停電していた時(倪書記は)なぜ来なかった。今まで何してた。なぜもっと早く来なかったのだ?」などと怒りを露わにした。
これに先立ち、被災状況が深刻な河北省涿州市の市長や書記(市委員会党書記、市の実質的なトップ)が姿を現さないことに不満をつのらせた民衆が、市長や書記の「捜索」をネット上で呼びかける運動が展開されていた。
この運動は、地元政府のあまりの不作為に不満を募らせた市民が、「市長はどこ?」「書記同志はどこへ行った?」という尋ね人広告をネット上に拡散させることによって、災害時に全く顔を見せない無能な政府を揶揄し、非難したのである。
護城河とは「北京を守るお堀になる」こと
「河北日報」によると、8月3日に視察で涿州市などを訪れた倪書記は、ダムの人為的な放水によって甚大な洪水被害が発生していることについて、あたかも自己犠牲的な「功績」をアピールするかのように「河北省は『護城河』としての役割を断固として果たす」と発言していた。
つまり倪書記は、河北省を水没させ、7400万人の住民を犠牲にしてでも「断固として首都(北京)を守る(堅決当好首都護城河)」と言ったのだ。習近平総書記へ向けた阿諛(おべっか)としては、まさに最高クラスの表現であると言ってよい。
ここで習総書記の「お気に入り」になれば、中央政界への昇進も夢ではない。58歳の地方官僚が、そのようにソロバンをはじいても不思議ではないだろう。
中国共産党という組織が、もはや思想や理念ではなく(まして本当の愛国心でもなく)完全に利害で動く集団になっていることは言うまでもない。そんな中共の大前提は「民衆を全く考慮しない」ということである。
もちろん倪氏のこの発言をめぐり、民衆からは「人民の命を顧みず、上に忠誠を示すことしか頭にない」などの非難が殺到していた。
北京の著名なジャーナリストである高瑜氏は、「河北省委書記(倪岳峰)はゴマすり上手だ。上を喜ばすために、河北省が『護城河』になることを求めた。河北省の人民を人間として扱っていないのは明らかだ。このような発言に、ひとかけらの人間性もない」と糾弾した。
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