【中山泰秀元防衛副大臣に聞く】習近平が画策する台湾有事シナリオ 日本版台湾関係法の早期制定を

2023/09/15
更新: 2023/09/14

中国経済が低迷するなか、中国共産党による台湾侵攻のリスクは一段と高まっている。自民党の麻生太郎副総裁は8月の台湾訪問で、日米は「戦う覚悟」が求められていると発言した。

中山泰秀元防衛副大臣は8月下旬、エポックタイムズの取材に対し、日本版台湾関係法を制定すべきと強調。有事の際に予想されるシナリオを紹介し、日本は早急に対策を講じるべきだと訴えた。

——麻生太郎自民党副総裁の台湾での講演についての受け止めは。

首相経験者が日本の大切なパートナーである台湾を訪問したことは大きな意味を持つ。日本の防衛力、特に有事の際には台湾をしっかりと支援することを強調した発言は、国内外で大きく報道され、幅広い賛同を得た。

日本の防衛力を他国で発揮するためには、様々な法的制約や憲法上の課題を克服しなければならない。麻生氏の発言はそれらを解決しようとするシグナルだと捉えている。

元内閣総理大臣としての高い見識を生かし、与野党を巻き込んで、台湾防衛で自衛力の行使を可能とする立法を前に進めてほしい。

リモート取材に応じる中山泰秀元防衛副大臣(Wenliang Wang/大紀元)

——日本も米国のような『台湾関係法』を作るべきか。

米国と台湾の間には、台湾の自衛力を支援することを定めた『台湾関係法』が成立しているが、残念ながら日台間にはそのような法律がまだない。

岸信夫氏が「日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会(日台若手議連)」という、日本と台湾の若手政治家の交流促進団体を設立した時、私はちょうど台湾関係法委員長を務めていた。

経済的・文化的交流の更なる充実に加え、台湾との関係強化を鑑みて、21世紀に起こりうるさまざまな状況・場面に対応できる『台湾関係法』を構築していくべきだ。

——中国共産党の軍事的脅威は高まる一方だ。台湾有事の際に日本が直面する軍事的リスクとは。

私が習近平主席の立場なら、台湾への侵略戦争を起こすときはミサイルを撃ち込むのではなく、台湾周辺に中の艦艇や海警船、民兵の船などを展開させ、台湾に対する包囲・封鎖作戦を実施すると思う。

そうなると台湾は厳しい状況に置かれるだろう。輸出入を含めた船の往来ができなくなり、制空権まで取られると、空の交通も遮断される。通信遮断の観点から、海底ケーブルが切断されることも当然想定される。

日本も他人事ではない。日本が消費する原油の9割、天然ガスの6割はバシー海峡など台湾周辺海域を通って運ばれてくる。そのルートが中共軍に封鎖されると、日本のコスト負担が急激に高まる。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的に物価が高騰し、日本も深刻な影響を受けている。台湾でも有事が発生すれば、日本は経済的にも物価的にも困難に直面するだろう。

軍事衝突が発生した場合、米国がどのように初期対応を行うかも重要だ。万が一、中共軍が米軍に攻撃を仕掛けた場合、日本は『日米安保条約』の一環として米軍の艦船を守る必要性が生じてくる。

米軍の戦闘機や爆撃機が任務を終えて帰投する際、それを追撃する中共軍の戦闘機が日本の防空識別圏に侵入することもあり得る。さらに、沖縄の米軍基地や本州の基地、自衛隊の施設などが攻撃されることも想定され得る。

さらに、中共軍が行動を始める前に、相手の攻撃能力を封じるためのサイバー攻撃を仕掛ける可能性がある。サイバー空間や宇宙空間を利用して衛星を破壊し、ネットワークを麻痺させ、我が国の反撃能力を奪おうとするだろう。

中露の連携も警戒しなければならない。過去10年における中共軍とロシア軍の関係は強化される一方だ。南西方面の防衛に注力する一方で、ロシアが北海道や北方領土周辺で行動を起こす可能性もある。

また、日本国内にいる工作員を動員し、撹乱工作を実施することもあるかもしれない。過去にはオウム真理教の地下鉄サリン事件が起きている。油断は禁物だ。

米国のブリンケン国務長官や米軍の上層部は3年前、台湾有事は6年以内に起こると予想していた。私は、大阪関西万博が行われる2025年あたりが一番リスクが高まる時期だと見ている。あくまで政治家個人としての予測だが、色々な想定をしていくべき時期に入っている。

——バシー海峡のようなチョークポイントが中共軍に支配された場合、日本にはどのような経済的リスクがあるか。

経済的リスクは高まり、物価高騰も起きるだろう。実弾を一発も撃たなくても、台湾が包囲されれば、中東から来る日本船は迂回することを余儀なくされる。それだけで石油燃料価格が高騰し、株価にも影響が出て、世界経済はとてつもない混乱に陥るだろう。

「腹が減っては戦はできぬ」という言葉が示すとおり、戦時では食料が一番重要なファクターとなる。8年前、クリミア半島がロシアに占領されたときから、ウクライナは8年かけて地下要塞を作り、食料を確保してきた。有事に直面したとき、私たちはあらゆる影響を考えて、リスクをヘッジするための投資をしていかなければならない。

——台湾総統選を来年1月に控えるなか、中国共産党の世論戦の影響とは。

世界中の人々がインターネットを通して互いに繋がる今日において、情報戦や影響力工作はますます容易になっている。偽情報も増え、詐欺などの被害件数もうなぎ登りだ。北朝鮮はサイバーハッキングチームを持っており、他国から暗号資産を盗み取って、ミサイル開発などに当てている。

現代において有事が発生すれば、真っ先に影響力工作が行われるだろう。それに対抗するためには、事前にトレーニングを積む必要がある。SNSで出回っている文字や動画が果たして本物なのか、常識に基づいて見極める力をつけなければならない。しかし、最近ではディープフェイクのような巧妙な偽情報も作られており、大きな脅威となっている。

日本は近年、「待つ」防衛だけでなく、いわゆる「アクティブサイバーディフェンス(ACD)」という考え方に基づく能動的、機動的な防衛力の議論も進みつつある。それが具現化しつつあることは、まさに20世紀から21世紀にかけての一つの変革といえる。

宇宙、サイバー、電磁波のような新しい戦闘領域におけるゲームチェンジャーとなる技術もカギとなる。そのような先端技術を理解し、応用できるだけの人材を育成しなければならない。政治家や防衛に携わる戦略家もそれらの技術を理解し、知見を広げる必要がある。

テクノロジーは倫理とも切り離せない関係にある。いつの時代にもテロリストは存在し、テクノロジーを悪用しようとする国家は存在する。彼らにどのように対抗していくかを真剣に考えなければならない。

(つづく)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。