今月7日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルへの大規模攻撃に踏み切った。
そのことを受けて海外に住むイスラエル人は、自身も戦闘に参加するため、帰国へ向けての準備を始めている。それと同時に、イスラエルにいる外国人も、危険を避けるためイスラエルからの出国を急いでいる。
在外の中国人が「帰国できる妙案」
しかし、イスラエルに発着する一部のフライトが運航を見合わせるなどしたため、帰国を希望する海外のイスラエル人も、イスラエルから出国したい人も、それぞれ途方に暮れている現状がある。
8日、イスラエルに取り残されたある中国人女性が、在イスラエルの中国大使館に電話をして「中国へ帰りたいのですが、帰国便が取り消されたのです。何か方法はありませんか?」と助けを求めた。
この中国人女性の電話に対する中国大使館の答えは、実にそっけないものだった。「そんなことは、自分で解決して」。自国民が危険を感じて困っている時に、在外の中国大使館とは、まことに冷たいものである。
さて、これの関連投稿がSNS上に出ると、さまざまなコメントが寄せられた。そのなかに、なかなか核心を突いた印象的な回答があった。
「たった一言『打倒、習近平!』と罵ってやればいいよ。そうすれば(中国政府が)あなた専用の特別な帰国便を用意してくれるから。(骂一句 “我要推翻习近平” 会给你出专机回国)」
なるほど、これは名案(迷案?)である。どうしても中国に帰りたい場合には、最も手っ取り早く、しかもお金のかからない方法であることは否定できない。
もちろん、このような中国政府の「特別待遇」を受けた場合、希望通り中国に帰国した後、投獄されて恐ろしい拷問を受けることは覚悟しなければならないだろう。
影の薄くなった習近平氏
この「名案」は、もちろん冗談である。ただし、中国共産党と習近平氏に関して、この冗談は「半分が本当のこと」なのだ。
いま中国の国家主席で、中国共産党の総書記である習近平氏は、季節外れの陽炎(かげろう)のように存在感が薄くなっている。とにかく表情が全くなく、飛行機のタラップを降りる足元もふらついているようなのだ。
そんな今の習氏を、周囲の側近である無能なイエスマンたちがどこまで本気で支えるかは、甚だ疑問である。
ちょうど1年前の2022年10月16日。英国マンチェスターの中国領事館前で、香港の民主化を求める在英の香港人が中国当局へ抗議する集会をおこなっていた。習近平氏をアンデルセン童話の「裸の王様」に見立てた抗議の看板を掲げていたが、集会そのものは平和的な、通常のものであった。
そこへ館内から出てきた複数の領事館員が、抗議者1人を敷地内へ引きずり込み、殴る蹴るの暴行を加えた。先頭を切って飛び出してきたのは総領事である鄭曦原氏、その人であった。
当時59歳の鄭総領事は、年甲斐もなく大暴れするとともに、習近平氏を「裸の王様」にして揶揄した看板をめちゃめちゃに破壊した。警備していた英国警察が領事館の敷地内に入って、一方的に暴行を受けていた抗議者を救出している。
1年前に、英国で起きたことの真意
かりそめにも一国の外交官である総領事が、このようなゴロツキまがいの行動をとるとは全く理解し難いが、一つだけ、その謎を解くカギがある。
鄭曦原氏は、習近平氏を揶揄した「裸の王様」の看板を破壊した。それはひとえに、習近平氏に自身の忠誠心を見せるパフォーマンスだったということだ。
逆に言えば、あのとき鄭総領事が先頭を切って飛び出し、派手に「大暴れ」して見せなければ、習氏のお気に入りになるチャンスを逸することになったのである。
総領事の鄭曦原氏は、その後、本国へ召還された。しかし、この時の「大暴れ」が失点となって罷免されたのではなく、むしろ四川省の地元へ帰って、習近平氏の名誉を守るために奮戦したことで「英雄扱い」されたという。
話を元へ戻すが、中国人が海外で「打倒、習近平!」を叫べば、中国政府が仕立てた特別機で帰国できるという「冗談」に隠された真意は、そこにあるということだ。
習氏を罵倒すれば罪人。習氏の面子を守って「大暴れ」すれば英雄扱いである。ただし、その習近平氏の影が一段と薄くなっている今、いままでのような阿諛(おべっか)が、どこまで功を奏するかは分からない。
「お気に入り」で出世した、悪しき前例
かつて1989年の六四天安門事件の際に、当時上海市の党書記であった江沢民は、鄧小平の「お気に入り」になったという一点だけで中央政界に入り、国家主席、党総書記および党中央軍事委員会主席という三大頂点に昇りつめた。
江沢民が、全く無能な愚者であることは、中国国民の誰もが知っている。それでも、最高権力者のお気に入りになることで「江沢民のような愚か者でも、頂点まで出世できる」という悪しき前例をつくってしまった。
いま習近平氏の周囲に群がるイエスマンたちは、自身の出世への打算はあっても、本心から習氏に忠誠を尽くしている人間ではない。
耳の痛い諫言をする本当の忠臣を排除し、イエスマンだけを周囲に揃えたのは習氏自身である。そのことに起因する巨大な不安が、いま習近平氏に襲いかかってきているはずだ。
なぜなら中国は今、全土において機能不全に陥っている。能面のよう固まった今の習氏の表情が、その心中の苦悩を反映しているといってよい。中国共産党の中国は、いま崖から真っ逆さまに墜ちているところなのだ。
ともかく、まさか冗談を本気でやるとは思えないが、「打倒、習近平!」を叫んで特別機で帰国することは避けたほうがよいだろう。
ある意味において、今後の中国よりも、そのままイスラエルにいたほうが、まだ安全であるかもしれない。中国はこれから、砲弾の雨よりも恐ろしい状態となるからだ。
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