神宮外苑再開発を考える 「街づくり」合理的な判断を

2023/10/25
更新: 2023/10/26

明治神宮外苑の再開発に反対運動が起きている。私は、使いやすく、景観が美しくなるこの計画に期待している。ところが、反対論は「木を切るな」などの感情論ばかりで、合理的な理由が見えない。これだけではなく“環境配慮”を名目に、都市の再開発が止まる例が、全国で多発している。その状況を変えなければならない。

歴史が織り込まれた場所

私は東京生まれの東京育ちだが、明治神宮外苑は東京で特に好きな場所だ。秋の色づいた銀杏並木が美しい。ここは明治神宮などが所有する土地で、聖徳記念絵画館という明治の業績を称えた絵を展示した建物を中心に整備された空間だ。

ここは明治期には青山練兵場だった。日露戦争の後には、軍人5万人、東京市民数十万人が参加する戦勝記念閲兵式が行われた。大喪の礼もここで執り行われ、大正15年(1926年)10月に、大部分が国から明治神宮に払い下げられた。

銀杏並木に囲まれた広い道路は、1923年の関東大震災後、帝都復興院総裁として活躍した後藤新平がモデル道路として設計した。その道路は車線が整備され、歩道も広く取られている。本来ならば、これが東京の道路の新基準となるはずだったが、予算の制約によりその計画は全面的には実現しなかった。

この地域には伊藤忠商事の本社ビルが立地する。かつて、陸軍エリート出身で伊藤忠商事の会長を務めた瀬島龍三が中心となる講演会に参加したことがある。その時85歳だった瀬島は、年を感じさせる柔和な雰囲気を漂わせていたが、その背筋はまっすぐで、品位にあふれ、頭の回転も早かった。

瀬島は戦争中の経験を語り、雑談の中で、伊藤忠本社をここに決めた理由に触れた。伊藤忠は1980年からこの地に本社を構えている。

「私たち軍人は、商売の人より地図を見るからね。本社を建てる際に地図を見て現地を歩いた。陸大(旧軍の陸軍大学校)があったことから青山を知っていたのと、ここは地盤が堅く、交通の弁が良かった。国道246号線が目の前にあるし、大地震があった場合に外苑の空間に逃げられる。大手町とか、丸の内よりも安全と思った。私の提案に、会社の人は『その危機管理の視点はなかった』と賛同してくれた。風水的にもいいそうだ。私はその視点はなかったけれど」。その緻密な思考で物事を決定する姿勢に、深い感銘を受けた。

明治神宮外苑には、歴史と多くの人々の深い思いが折り重なっている。それが、この地を特別なものにしている。

古く、未整理の空間

神宮外苑並木の写真(神宮外苑まちづくり協議会ホームページより)

神宮外苑を散策すると、あることに気づく。古びており、非効率な構造。つまり、営利とは相性が悪いのだ。

この空間に野球場が3つもある。明治神宮野球場(通称:神宮球場)、神宮第2球場、そして絵画館の前にも軟式野球場がある。軟式野球場があるために、この空間の中心にある絵画館に、並木通りからまっすぐ進めない。1926年に建てられた神宮球場や1947年に部分的に完成した秩父宮ラグビー場は、改築を重ねても古さは否めない。そして、時代遅れの遊園地がある。空間が有効的に使われていない。

東京全体がそうなのだが、まちづくりが無計画なのだ。歴史を紐解くと、日本の敗戦後に、GHQが神宮外苑前の広場を接収し、野球場を作り、それが残って軟式野球場になっている。軍や内務省が式典に使ったために、GHQが嫌がらせをしたのかもしれない。そしてここに一部施設のあった華族の教育機関であった学習院を縮小させ、その跡地に秩父宮ラグビー場や第二球場を急ごしらえで建てた。戦後の混乱の名残が残っている。

また私は記者の視点から不動産ビジネスを見てきたが、今の不動産業は、空間を資産として最大限に活用しようとする。賃貸に加えて、イベント、商業施設、集客で人の流れを作る。神宮外苑にはそうした仕組みがあまりなく、古いままだ。「こんな東京の中心でもったいない」という感想を抱く。

この点において、現地を知るビジネスパーソンは同意してくれる。なぜ、この状況を変えて、再開発ができないのか不思議に思っていたが、どうやら地権者である国と明治神宮の財政難で、開発が遅れているようだ。この空間で、良き古さを残しながら、新しさを取り入れる必要があった。

そこで2022年、三井不動産、伊藤忠商事、U R都市機構が参加し、総額3490億円の再開発プロジェクトが始動した。すでに2021年のオリンピックでの国立競技場の周囲の整備は終わった。それに連動して三つの神宮球場を一つにまとめ、商業施設、ホテル、オフィスを含む高層ビルを作り、街の構成をすっきりしようとしている。また植樹によって、緑の量は現状よりも増える予定だ。

地権者の明治神宮は、借地権、空中権を三井不動産に譲渡し、費用を捻出しようとしている。

明治神宮はその神社本体の周りに、荘厳な内宮の森を持つ。神宮の運営費や、森の維持費の捻出も、外苑の整備や収益から得ようとしている。

計画を読むと、とてもよくできていると思った。私のおかしいと思ったところも解消されている。歴史や周辺地域に配慮し、緑を残し、植樹でより快適になる。木々も増え、重複施設も整理される。並木からまっすぐ歩いて絵画館に行けるようになる。商業施設もできて、空間がお金を生み出せるようになる。

感情的な反対運動「木を切るな」

再開発のイメージ(神宮外苑まちづくり協議会ホームページより)

ところが、この再開発計画は反対運動に直面している。今年9月に始まる予定だった樹木の伐採だが、東京都が計画の報告を求めたため、遅延した。

反対意見を調べると、合理的な根拠のない、感情論ばかりが並んでいた。多くの人が、神宮本体の内苑の森を切ると誤解している。また明治神宮を維持するための金銭的配慮、空間の経営という観点は少ない。「木を切るな」という主張を繰り返していた。今年3月亡くなった音楽家の坂本龍一氏が詳細な理由を言わずに「反対」を述べた。反対派はその言葉を強調している。

そもそも、明治神宮外苑は、大半は宗教法人である明治神宮の私有地だ。私有地の開発を公権力や部外者が規制するのは、財産権の侵害に他ならない。反対者の主張にはこの点を軽視しているように映る。反対意見を取り入れて計画が改善すれば良い。ところが、反対者は「やるか、やらないか」の単純な二分論に陥っている。

そして政治がおかしな動きを見せる。小池百合子都知事が、介入の気配を見せる。またあらゆる問題に「反対のための反対」を展開する日本共産党の地方議員たちが、反対運動に参加している。小池都知事は、健康被害の可能性はないのに水産物卸売市場の築地から豊洲への移転を延期させ、都政を混乱させた経緯がある。同じことをまた繰り返すのだろうか。

神宮外苑開発計画に関する新旧の図面(同)

各所で見られる環境を名目にした反対騒動

ある東京の区部の区議と都市問題について話をした。すると、最近は、この外苑問題だけではない。東京では都市の再開発案件が「環境への配慮を」という声と共に、頻繁に止まってしまうという。そしていつも、同じ顔ぶれの政治勢力が乗り込んでくるとのこと。

「確かに環境への配慮は必要だ。しかし、神宮外苑の反対運動のように『木を切るな。再開発を止めろ』と極論に走る人がいる。これは財産権の侵害だし、東京のリニューアル、そして発展を止めてしまう」とこの区議は話した。

神宮外苑問題は、原則としてこの地域の大半の土地を所有する明治神宮の判断が尊重されるべき問題だ。そして私が指摘したように、この場所は「古い」「非合理な施設配置」「お金を生まない」という問題がある。それを是正する今の再開発計画を、粛々と進めて欲しい。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。