今年のハロウィンは過ぎ去ったが、その時の上海の市民や若者たちによる仮装やコスプレが、今もネットで話題になっている。
かつて上海は「魔都」の異名で呼ばれた。初めて「魔都」の名称を著作に用いたのは、日本の小説家・村松梢風(1889~1961)だったというが、その名の通り、珍しい「お化け」の群れが今年のハロウィンで上海に出現したようだ。
ハロウィンの期間中、若者たちは上海の街に繰り出しては、現代中国の世相を反映していると見られる仮装を披露した。それらは、そのまま中国共産党体制に対する痛烈な風刺であり、為政者を茶化して揶揄するものとなった。
10月31日、上海の警察当局はついに「人の流れが多すぎる」ことを理由に、仮装した若者が多く集まる「人気スポット」について道路封鎖を敢行した。
ハロウィン期間中、大型遊園地の「上海ディズニーランド」のほか、「巨鹿路」「富民路」「長楽路」などのスポットが仮装した若者たちの集結地となった。
そこに集まったのは、「中国による愛国プロパガンダ映画の主役」「バットマン」「台湾の蔡英文総統に似たキャラクター」「大白(白い防護服の防疫要員)」「死にそうな顔の労働者」「鴨のネズミ」など様々だ。しかし誰が見ても、それらが中国の現状に対する「皮肉たっぷり」のコスプレであることが分かる。
若者たちはそこで「経済低迷による株式市場の下落」「すさまじい就職難」「司法の不公正さ」など、中国がかかえる社会問題を提示し、これを揶揄する仮装やパフォーマンスを披露していた。
例えば、中国で驚異的なヒット作となった愛国プロパガンダ映画「戦狼2」で監督と主演を務めたウー・ジン(呉京)に扮した人は、雖遠必誅(遠きにありても必ず誅せん)と書かれた看板を掲げて「口先ばかりの政府プロパガンダ」を笑って批判した。
また、監視大国・チャイナそのものである「監視カメラ」のコスプレをする人もいる。
手の込んだ仮装としては、かつての名作映画『覇王別姬』のなかに描かれた、文化大革命の批判闘争大会に引きずり出された京劇の女形スター・程蝶衣に扮して「市中引き回し」の場面を再現する演出もあった。なお、映画の劇中ではあるが、程蝶衣は最後に剣でその身を突いて自殺する。
さらには「くまのプーさん」など、習近平主席を連想させるコスプレする人。体じゅうに「白い紙」を貼って、昨年末に起きた「白紙運動」を一人で再現する人もいた。
実のところ、これらはハロウィンだからこそできる仮装だ。通常であれば、警察が飛んできて連行されるほどの「きわどいコスプレ」である。
10月28日の夜には、急死した李克強前首相を追悼する「花輪」でコスプレした人もいた。同じく、李克強氏にちなんで「我在上海,很想你死(私は上海にいる。あなたに死んでほしい)」と書かれたスローガンを掲げた人もいる。
この2人は、当局の「敏感なところ」に触れたためか、警察によって処罰されている。
ちなみに「我在上海,很想你死」について意味を捕捉しながら読むと、「私(李克強)は上海で静養中に心臓麻痺で死んだ。しかし、国民が本当に死んでもらいたいと願っているのは、あなた(習近平)ですよ」ということになる。
このほか、コスプレの「大白(防疫要員)」が警察にとがめられ、尋問や連行されているシーンも多くSNSに投稿された。
昨年12月初めまでの約3年間、中国で強硬に続けられた「ゼロコロナ政策」である。その悪役として人々の目に焼き付いたのが、この「大白」であった。
その「大白」をハロウィンでコスプレにしたら警察にとがめられ、連行された。そのことについて、ネットでは「あれは歴史的事実じゃないか。なのに、わずか1年でもう認めないというのか?」といった非難が多く寄せられている。
(警察に連行されていく、コスプレの「大白」。昨年までは、これが「国の任務」だったはずだが)
「大白」に限らず、「バットマン」や「スパイダーマン」を含む多くの仮装者が、警察によって追い払われる様子を映した動画もSNSに投稿されている。このような「正義の味方」の出現を、中国の警察は許したくないらしい。
関連投稿に寄せられたコメントのなかで、特に印象深かったのは、次の一文だった。
「上海のハロウィンは、表面上はカーニバルだが、その背景にあるのは民衆の心の傷だ。このような特別の日にしか、それを表に出して発散することができない。なんと悲しいことだろう」
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