中国共産党(中共)首魁の訪米を控え、中共の官製メディアは、近年の反米トーンを一変し、「米中友好」をアピールする一連の記事を掲載した。これについて時事評論家は、中共首魁の習近平は、中国国内の予想以上の圧力によって対米姿勢を軟化せざるを得なくなっているが、これは中共の戦略的欺瞞だと指摘した。
米中関係がどん底へ悪化している中、習近平は11月15日にサンフランシスコに赴き、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でバイデン米大統領と会談する予定だ。中共の官製メディアは、米中関係の改善に期待する記事を相次いで掲載し、国内の小粉紅(共産党のイデオロギーに染まる若い民族主義者)と外界に大きな違和感を与えている。
官製メディアの新華社通信は、「中米関係を正しい軌道に押し戻す」と題する連載記事を掲載した。人民日報は、第2次世界大戦で中国軍とともに戦った米国義勇軍「フライング・タイガース」の精神を利用して、「米中両国民の友好は今後も栄え続ける」とまで述べた。
11月12日、中共国営テレビ(CCTV)は、フィラデルフィア管弦楽団の総裁に書簡を送り、50年前のフィラデルフィア管弦楽団の中国訪問が、米中文化交流の「アイスブレーカー」だったとし、米中友好が次の50年に続いてほしいと表明したと報じた。
しかし、8月15日付けの中共中央委員会の機関誌「求是」に掲載された習近平の文章には「西側諸国の近代化は、戦争、奴隷売買、植民地化、略奪などの血なまぐさい犯罪に満ちており、膨大な数の発展途上国に深い苦しみをもたらしてきた 」と書かれている。
時事評論家の唐靖遠氏はラジオ・フリー・アジアに対し、中共がトーンを180度ひっくり返したのは、中共執政者が、米国が主導する世界秩序を尊重しているのではなく、戦略的な欺瞞に過ぎないと述べた。
中共首魁が訪米を発表する前、中国軍制服組トップの張又侠(ちょう ゆうきょう)軍事委員会副主席はロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。これは異例のことだ。
唐氏はこのように指摘した。
「習近平の訪米にあたり、国内の世論やプロパガンダの基調は変わる可能性が高い。プーチン氏に、中ロが協力して世界秩序を破壊し、米国に対抗するという両陣営の対立パターンは変わらないことを伝える必要がある。つまり、現在の中米関係の緩和や新たなパートナーシップを築くといった宣伝は、戦略的な欺瞞であり、一時的な利害関係のためのものだ」
唐氏によれば、中共首魁が対米トーンを軟化させたのは、国内の圧力が予想以上だったからだ。不動産企業や金融機関の連続的な倒産、輸出入の激減、国民の不満が高まっている。ロケット軍、海軍など複数の軍種の司令官まで失脚した。軍部の粛清がまだ終わっておらず、国防相の後任も決まっていない。李克強前首相の死去により、鄧小平流の「改革開放」路線と、現政権の「国進民退(国有経済の増強と民有経済の縮小)」路線の対立が激化している。
中共は米国を中心とする一極世界を覆したいのだが、世界各国に包囲された重圧を和らげるため、米国を刺激しないように「東昇西降(中共が台頭し、西側が倒れる)」「世界秩序が変わる」「新しい多極的世界秩序を作る」などの表現を控えめにする可能性があるが、中共はその目的を諦めないだろう。
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