アルフレッド・ヒッチコック監督による米映画『鳥(The Birds)』は、1963年の作品。無数の鳥が人間に襲いかかる映像は、動物ホラー映画の先駆けとして注目された。
映画のオールドファンであれば、中国で現実に起きている以下のような光景をみて、今から60年前の映画『鳥』を思い出した人もいるかもしれない。
このような光景が通常の自然現象の範疇に入るか否かは、わからない。ただし、ここで一つの事実を伝えるなら、こうした普段とは全く異なる光景を目にした中国の民衆は、もはや不安を通り越し、得体が知れないほどの恐怖さえ感じているということだ。
「空を旋回する鳥の大群」
今月13日、広西省防城港市の村の上空を旋回する「鳥の大群」を捉えた動画が話題になった。鳥の種類は明らかではないが、映像を見る限り、スズメなどの小鳥ではなく、ある程度の大きさをもつ鳥であるらしい。空を旋回する鳥の群れは、同時期の吉林省でも見られた。
これを目にして、中国の民衆が抱く恐怖心とは何か。
古い映画のように鳥が人間に襲いかかってくるわけではないが、この中国に「とんでもない天変地異が起きるのではないか?」ということである。それを中国人の多くが、多かれ少なかれ感じているのだ。
ナマズの動きと地震発生との関係性を、科学的に証明することは難しい。しかし中国は今、経済の破綻、失業者の爆発的増加、疫病の蔓延、異常気象による農業への打撃など、どれをとっても国の根本を揺るがす大問題を抱えている。
そのようななか、中国の民衆はまさに、数十年にわたる共産主義の無神論による洗脳で封印されてきた「天」を敬う伝統的思考に立ち返るとともに、中華の大地に「天の怒り」が下されることを(それが必然とは知りながら)ひたすら恐れているのだ。
そうした「天の怒り」は、中国の歴代王朝の終末がそうであったように、およそ大規模な天災や疫病の蔓延、大飢饉による飢餓と流民の発生など、極めて具体的で激しい「かたち」となって現れる。
地上の皇帝が徳を失って国が乱れたとき、天はそれへ厳罰を下し、王朝を交替させてその姓を易(か)える。こうした中国の「易姓革命」は、西洋のレボリューションよりもはるか以前から、この東方の地に定められた規範であった。
そうした天罰の時を目の前にして、今の中国の人々は、普段は見られない生物の動きや気象の変化に対しても、非常に敏感になっている。
「これは天変地異の予兆か?」という感覚は、彼らにとって、自身の生死の問題にもつながるという意味で極めてリアルな実感となって迫ってくるからだ。
(11月13日、広西省防城港市のある村で、上空を旋回する大量の鳥たち)
水の中から湧き出る「泡」
14日には、遼寧省丹東市の「志願軍公園」を流れる川の底から、絶えず「泡」が湧き出る珍しい現象がみられた。
いまから1年ほど前にも、同じ川で同様の「泡の現象」が起きていたことを示す動画もある。今回の目撃者は「初めて見る現象で、原因がわからない」と話している。
通常であれば、川底から泡が浮かんでも、それが人々の不安や恐怖につながることはない。ただし、今の中国人は、たとえ小さいことでも何か異変を目にすると「もしや、これは?」と思いやすくなっているのだ。
(11月14日、遼寧省丹東市の「志願軍公園」を流れる川から、絶えず「泡」が出る現象)
実際、こうした異様な光景から、今年各地で続いた大雨や暴風雪などの異常気象などを連想することで、「大地震の前兆ではないか?」「何か天変地異が起きるのではないか?」と言い知れぬ恐怖を覚える中国の民衆も少なくない。
こうした「世論の高まり」を受けて、防城港市や丹東市の地震観測部門は、いずれも「地震とは明らかな関係はない」と回答している。
しかし、それを聞いて、今の中国の民衆が安心できたわけではない。彼らは、当局の公式発表を全く信じていないからだ。
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