【プレミアム報道】“ポピュリスト”批判跳ね除け真のポピュラーに..南米に爆誕したミレイ新大統領とは

2023/11/23
更新: 2023/11/23

「今日はすべての善良な国民にとっていい日だ。国の再建が始まったのだ」。南米アルゼンチンで11月19日夜、大統領選の決選投票が行われ、経済学者ハビエル・ミレイ氏が当選した。当確発表後の演説でミレイ氏がこう語りかけると、首都ブエノスアイレスは歓喜に沸いた。

中央銀行廃止など破天荒な政策提言で「アルゼンチンのトランプ」の異名を持つミレイ氏は、物価高騰や政治腐敗に対して大胆な改革を図ることを明言している。

政府の介入を最低限とし、個人の自主性を重視するリバタリアン(自由至上主義者)政権がラテンアメリカに誕生する。アルゼンチンのみならず、左派政権の多いラテンアメリカ全土に波紋を広げそうだ。長年の財政赤字やインフレ問題を抱えるアルゼンチンを、どのように舵取りしていくのか。

2023年11月16日、アルゼンチンのコルドバで行われた決選投票前の決起集会で、チェーンソーを振り回すミレイ氏の看板を掲げる支持者たち (Tomas Cuesta/Getty Images)

「影響力ある人物トップ」の経済学者

数理学や経済学で20年あまり大学で教鞭と取ってきたミレイ氏は、10年代に政治畑の道を歩み始める。19年には国内で「最も影響力ある人物」に選出される。20年には政党を結成し、21年には代議員議員(下院議員に相当)となる。

歯に衣着せぬ物言いで注目を集めたが、しばしば「ポピュリスト」との批判を浴びた。そして、わずか議員歴2年で大統領候補として出馬。得意な音楽やスポーツの経験も活かして、情熱的な国民性に自身の政治理念を訴えた。

力強く訴えたポイントは2つ。国民を苦しめるインフレの解消と、既得権益層の解体だ。これにについて、米マイアミ拠点の『PanAm Post』の政治アナリスト、ロデリック・ナバロ氏は、アルゼンチンを将来「世界の大国にするための土台を築く」ものだと分析する。

「彼はポピュリストではなく、本当にポピュラー(人気)な指導者となった。アルゼンチン衰退の時代に終止符を打ち、繁栄、安全、良識の新時代をスタートさせたのだ」

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの投票所 (Photo by ALEJANDRO PAGNI/AFP via Getty Images)

米ドル導入でインフレ解消 省庁数を半減

アルゼンチンの前年比インフレ率は、選挙期間中に142%という驚異的な数字を記録した。中央銀行のアナリストは、年末までに185%まで上昇すると予測している。外貨準備が不足し、国民のペソ通貨への信認が急低下する一方、連邦政府は支出超過で財政難にあえいでいる。

ミレイ氏の対策案は破天荒といえる。中央銀行を廃止し、米ドルを通貨として導入することでインフレ解消に臨むというのだ。大型仮想通貨ビットコインの導入にも前向きで、同氏の当選により対ペソでビットコインは高騰した。

公金支出の削減を掲げ、省庁数を半減させると公言。環境・持続可能な開発省や女性・ジェンダー・多様性省、ミレイ氏が「洗脳省」と糾弾する教育省をもなくすとした。政府の基幹となる内務省や外務省、防衛省は維持する。

風当たりはどうか。識者は、ミレイ氏が経済問題に取り組む上で、ラテンアメリカに深く根付いた社会主義イデオロギー「カストロ・チャビズム」からの強い反発に直面するとみている。

「ラテンアメリカでは、非社会主義大統領の失敗が続いている。変革はアルゼンチンで始まるが、カストロ=チャビズムの陰謀もアルゼンチンから始まった。21世紀の社会主義が敗退するかどうかは、ミレイ氏の手腕にかかっている」

ボリビアの元国防大臣で、現在はNPO法人インターアメリカン・インスティテュート・フォー・デモクラシーの代表を務めるカルロス・サンチェス・ベルザイン氏はエポックタイムズに語った。

かつては豊かな資源国 再起なるか

アルゼンチンは、かつては米国と並び立つ超大国で、20世紀初頭にはドイツやフランスよりも豊かだった。パリでは「アルゼンチン人のように裕福」という冗談が飛び交うほどだった。

しかし、その後の左派政権による衰退によって、その国名は「失敗の代名詞」となる。ノーベル経済学賞受賞者サイモン・クズネッツ氏の「世界には4種類の国しかない。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」と例えたほどだ。対比となった日本は、資源が乏しいものの超経済大国となった「成功の代名詞」だった。

アルゼンチン政治はフアン・ドミンゴ・ペロン元大統領の影響が大きい。ペロン氏は1946年から1955年、そして1973年から1974年まで統治した強権的なポピュリスト指導者だ。今般の大統領選の左派候補であるセルヒオ・マサ氏やアルベルト・フェルナンデス大統領も「ペロン主義者」と呼ばれた。

ラテンアメリカでは社会主義政権の誕生が続き、左派政権に配されていない国はエクアドル、パラグアイ、ウルグアイの3か国のみだ。「ミレイ政権爆誕」の報道は地域の左派政権指導層をどよめかせたかもしれない。

アルゼンチンの大統領に3回当選したフアン・ドミンゴ・ペロン氏とその妻エバ氏が描かれた旗を振る女性 (Photo credit should read EITAN ABRAMOVICH/AFP via Getty Images)

ミレイ氏は反共産主義の立場を明確にし、「共産主義者とは取引しない」と公言している。これには中国、ロシア、そして左派政権となるブラジルを名指ししている。

「我々は大陸の道徳的な道しるべでありたい。自由、民主主義、多様性、平和の擁護者でありたい。だから我々は、共産主義者や社会主義者とのいかなる行動も推進しない」ーー。選挙期間中、元FOXの名物司会者タッカー・カールソン氏の独占インタビューに答えた。

ミレイ氏の政党「La Libertad Avanza」は、「自由は前進する」という使命を掲げ、「国民が1900年初頭の豊かさに戻るための経済的、政治的、文化的発展を支援する新自由政策」を推進することを目指している。

インフレ、腐敗、通算9回目ものデフォルトーー。積年の左派政治による波乱に振り回されてきたアルゼンチン人は、変化を切望していた。ミレイ政権誕生は、このペロン主義の影響を覆す可能性を秘めている。

2023年11月20日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで新聞を読む男性。一面には大統領決選投票で勝利したハビエル・ミレイ氏が載っている (Photo by LUIS ROBAYO/AFP via Getty Images)

トランプ前米大統領からの祝福

ミレイ氏の勝利は、左派の荒波に揉まれてきたラテンアメリカ地域で「潮目が変わった」と評されている。米国のトランプ前大統領やブラジルのボルソナロ前大統領の誕生になぞらえたSNSへの投稿が内外に広まっている。

トランプ氏は自身のトゥルース・ソーシャルで、ミレイ氏は「アルゼンチンを再び偉大な国にするだろう」と祝福の言葉を述べた。

ボルソナロ氏も選挙の翌朝、ミレイ氏と電話で話している動画をXに投稿。「あなたの仕事はアルゼンチンの枠を超えている。そして民主主義を支持し、自由を愛する人々を代表している」と語った。

ミレイ氏は12月10日に大統領として正式就任する。報道によれば、ボルソナロ氏が就任式に招待されている。