災害準備、体験学習は有効 東京消防庁・本所防災館を訪ねて

2023/11/28
更新: 2023/11/27

「天災は忘れた頃にやってくる」。日本は地震などの天災が頻発する国だ。しかし、そこに暮らす私たちはこの警句のように日々の生活でその危険を忘れてしまう。東京消防庁の本所防災館(墨田区北部、隅田川東岸)に行き、災害を疑似体験で学べた。それを振り返りながら私たちそれぞれの命、そして社会の守り方を考えたい。

地震の揺れを体験、東日本大震災を思い出す

本所防災館には地震体験コーナーがある。そこの振動発生装置で私は地震の揺れを体験した。横揺れの震度7、そして縦揺れの震度6の2パターンだ。前者は1923年9月の関東大震災での東京での最初の揺れ、後者は2016年4月の熊本地震での熊本市内での最初の揺れだ。

本所防災館の地震シミュレーター(筆者提供)

私は地面が揺れると事前に分かっていたので私は初めから座っていた。しかし振動が始まると、気味悪さと不安を感じた。立っていたら、大人でも転ぶだろう。実際の地震と同じように揺れは数十秒だったが大変長く思えた。また直下型地震では、体が上下に動かされ、それも気味が悪かった。疑似体験で精神が動揺するのだから、未体験で大地震に直面すると、誰でも大変なショックを受けることだろう。

2011年3月の東日本大震災を、私は東京の自宅マンションで体験した。その時の揺れた際の不安を思い出した。この地震は東京では震度5強だが揺れに家が潰れるのではないかと思って、建物を出て庭で静まるのを待っていた。また震災直後に取材で福島や東北に行った。住民の方から、地震や津波の被害の怖さを聞いた。しかし東日本大震災から12年が経過し、私は自らの貴重な体験を、この揺れまで忘れていた。

忘却は良いこともある。災害の体験は記憶に強く残り、恐怖を抱いて生き続けることは辛い。しかし忘れることで災害への警戒が薄れてしまう。こうした体験で、経験者には再警戒、そして未経験者には体感による知識の獲得がもたらされる。とても意義深い。

地震体験は、東京の池袋、立川にもある防災館でできる。また各地の自治体でも体験できる設備を持つところがある。機会あれば、読者の皆様も、実際に体験してはいかがだろうか。

火災、暴風雨、都市水害の危険を体験で学ぶ

この地震体験を含めて合計4つの体験学習を、この防災館で受けた。

2番目は火災の体験だ。真っ暗な廊下で水蒸気による煙が発生する。その中を歩きながら、出口を探す体験だ。私は急いで無理に進んだために、頭を壁にぶつけてしまった。火事で脱出する歩き方を、事前に学んだ。煙を吸わないように身をかがめ、一つの手を前にして障害物にぶつからないようにして、もう一つの手を壁につけて確認して進む。急ぐべきだが、慌ててはいけない。私は、それをしないで進んでしまった。

3番目は、風水害の体験だ。雨合羽と長靴を貸してもらい、完全防水の上で、人工的に作る風速30メートル1日降水量50ミリの暴風雨を体験した。その風と雨で立っているのが難しく、隣の人と会話ができないほどだった。このレベルの暴風雨は地球温暖化のためか、集中豪雨が多発して日本では、珍しくなくなりつつある。こうした暴風雨の際に、外出することは危険だと、体で理解した。

4番目は、都市水害の体験だ。水害で冠水したときに鉄の扉、車の扉を開ける場合に、どの程度の力が必要かを実際にドアを開けて試した。実際の水はないが、冠水10センチ、20センチ、30センチの重さを体験した。30センチになると、大人の男である私も開けることは難しかった。30センチの冠水の場合に鉄や車の扉には、300キロ以上の負荷がかかるという。閉じ込められる前に、早く脱出しなければならないことを理解した。

今年は関東大震災100年

いずれの体験でも、ビデオやプロジェクションマッピングによる詳細な説明があった。そして以下の3つの順に、それぞれの災害で説明があった。「1・災害はどうして起きるの?」「2・起きたらどうなるの?(二次災害は?)」「3・起きる前にするべきこと、起きたらするべきこと」が示された。これは、災害で私たちが常に配慮すべき問いかけだ。

ちょうど100年前に起きた関東大震災を経験した当時29歳の女性の手記をまとめたビデオを体験学習の最初に見せてもらった。避難で道が混雑して、女性たちの家族は動けなくなり、火災に巻き込まれてしまう。関東大震災の約10万人の死者のうち、9万人が都市の火災によるものだ。

その女性は、地震や火災についての知識がなかった。そして災害での事前準備の大切さと、人々の共助のありがたさを後世に伝えるために手記に残したという。これは時代を超えて、参考になる体験と教訓だろう。

ここは世界各国から人が訪問している。私と同じ見学時間には、フランス人、中国人が来ていた。フランス人は「自分の住むパリには地震がない。そのために学校教育にもない。今日の知識は全て新鮮で驚いた」と話していた。中国人も「中国では最近、子供が地震などの天災での対応が教えられるようになっている。日本人が、昔の経験や知識を伝えるのは、とても良いことだ」としていた。

東京の本所地区(墨田区東部、隅田川西岸)は、昔から都市災害に直面した。少し歩くと回向院があった。ここは明暦の大火(1657年)の約10万人の死者を弔うために作られた。関東大震災、東京大空襲でも多数の死者が出た。そうした歴史を思うことも、体験を印象付けた。

近日中に起こる災害、準備に必要な考えとは

日本は地震多発国だ。近い将来に東海地震、南海沖地震が発生する懸念がある。地震などの大規模災害は、近日中に、日本に住む誰しもが経験するはずだ。

配慮と備えが必要だ。そして体験学習は、災害が現実になった場合の心の動揺、被災の拡大を少なくするはずだ。前述の問いは、事前に考えるべきことだろう。

1・災害はどうして起きるの?
2・起きたらどうなるの?(二次災害は?)
3・起きる前にするべきこと、起きたらするべきこと

これらを事前に知り、準備することで、災害への対応は違う結果になる。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。