プレミアム報道 火力発電を止め温暖化を食い止めたい再エネ擁護者たち

【プレミアム報道】「石炭火力にとどめ刺す」米富豪が5億ドル寄付、再エネ推進の裏側で何が?(中)

2023/12/30
更新: 2024/01/03

信頼性のチキンレース

テキサス公共政策財団の政策ディレクター、ブレント・ベネット氏は、電力会社が信頼性の高い電力系統から低い電力系統に切り替えていくプロセスを「信頼性のチキンレース」と呼んだ。

「彼らは風力発電太陽光発電の増設を正当化するために、多くの駆け引きをしなければならなくなっている」とエポックタイムズに語った。

ベネット氏によれば、電力会社は互いに「あいつらからエネルギーを取り戻す」と言い合っているような状態だという。

「風力発電と太陽光発電の割合が少ない限りは、彼らはそれでやっていける。しかし、テキサス州の電力危機のようなより深刻なケースになると、緊急用の備えが突然、完全になくなってしまうことになる」とドローズ氏は述べた。

テキサス州では2021年に冬の嵐によって停電が発生し、州民が暖房を使えなくなったため、低体温症による数百人の死者が出た。その際、州の電力会社は、数週間あるいはそれ以上にわたり、送電網の崩壊寸前まで追い込まれた。 

2021年2月16日、ウィンターストーム「ユリ」による停電中、バーベキューグリルで暖をとるカーラ・ペレスさんとエスペランサ・ゴンザレスさん。(Go Nakamura/Getty Images)

最終的に、テキサス州の電力会社は緊急計画停電を実施し、電力系統のバランスを調整するのに十分な電力量を供給し、さらなる大惨事を防ぐことができた。しかし、専門家は、ギリギリで運用するのは非常に危険だと警告している。

2015年にジェームズ・ウールジー元CIA長官が米上院で証言した際、電力網が長期間ダウンした場合に米国人に何が起こるか問われ、こう答えている。

「飢餓、水不足、社会混乱によってどれだけの人が亡くなるかについての見積もりは基本的に2つだ。1年かそこらで米国人口の3分の2が亡くなる、あるいは、1年かそこらで米国人口の90%が亡くなるだろう」

そのようなリスクがあるにもかかわらず、政府の政策は、電力会社に石炭やガスの火力発電所の停止を早めるよう働きかけている。

「電力会社が風力発電と太陽光発電を増やすことに、すべてのインセンティブが働いている」とベネット氏は言う。

2009年4月15日、フロリダ州ゲインズビルにて、ゲインズビル・リージョナル・ユーティリティーズ社の作業員が、市内の送電網マップ上でソーラーパネルの設置場所を特定している。同年、ゲインズビル市は全米で最初に太陽光発電固定価格買取制度を導入した都市となった。(Joe Raedle/Getty Images)

なかでも、インフレ削減法の優遇措置は、施設建設のための助成金、融資、投資額控除や、エネルギー生産を補助するための生産税控除などに、約4000億ドルを提供する。さらに、多くの場合、石炭やガスよりも風力や太陽光発電から供給される電力を優先的に購入するよう電力会社に強制する州法もある。

環境保護庁(EPA)の新たな規則は、二酸化炭素(CO2)の排出制限と回収を義務付けるもので、要するに、電力会社は石炭やガスからの転換を迫られることになる。

ホワイトハウスは4月に以下のように発表した。

「バイデン大統領は、2035年までに炭素汚染のない電力部門を、遅くとも2050年までにネットゼロ排出経済を達成するという野心的な米国の目標を設定した」

「インフレ削減法と超党派インフラ法における歴史的な投資、および政権がとっているその他の行動の結果、米国はこの目標を達成する明確な道筋をたどっており、同時に消費者のコストを削減し、有害な汚染物質を削減し、気候変動を緩和し、新たな経済機会を創出している」

しかし、米国の送電網の信頼性を監視している北米電力信頼度協議会(NERC)は、需要調整可能な化石燃料発電所の急速すぎる閉鎖により、米国の電力インフラの大部分が不安定になると報告書で警告している。

NERCの信頼性評価担当ディレクター、ジョン・モウラ氏は、1月にエポックタイムズの取材に応じた際、「靴紐を結びながら走っている状況だ」と表現した。

2022年6月23日、ホワイトハウスのルーズベルト・ルームで行われた連邦・州洋上風力導入パートナーシップに関する会議で、風力タービンのサイズ比較表を指差すジョー・バイデン大統領。(Drew Angerer/Getty Images)

ベネット氏によれば、今や連邦規制当局でさえそのリスクを強調しているにもかかわらず、環境保護局は「遅い、もっと早く動け」と言っているという。

風力発電と太陽光発電はエネルギーコストの削減を約束しているが、多くの研究はその反対の予測をしている。

高騰するコスト

経営コンサルタントのマッキンゼーは、2022年の調査で、「2050年までにネットゼロ排出を達成するために必要な世界経済の変革は、普遍的かつ重大であり、物理的資産に対する年平均支出は9.2兆ドル(現在より3.5兆ドル多い)を必要とする」と述べている。「ネットゼロ」とは、温室効果ガスの排出量を吸収量や除去量との差し引きでゼロにするという考え方だ。

再生可能エネルギーへの移行が加速するにつれ、消費者の電気代は上昇の一途をたどっている。

米国のノースカロライナ州に本社を置くデューク・エナジー社は、石炭火力発電所を閉鎖し、再生可能エネルギーのインフラを構築する計画を開始した。

ワイオミング州では、電力会社ロッキー・マウンテン・パワー社の再生可能エネルギーへの移行に伴い、電気代が29%値上げされることに抗議すべく、住民が公聴会に集った。

米国有数の石炭産出国である同州では、2022年の発電量に占める石炭火力発電の割合が97%から71%に低下した。同時に、風力発電の割合が22%に上昇し、その差の大半を占めた。

ロッキー・マウンテン・パワー社は、値上げは石炭とガスの価格上昇によるものだと主張している。同様に、テキサス州のサウスウェスタン・エレクトリック・パワー社も、耐用年数を迎える前にパーキー石炭発電所の閉鎖を決定した理由として、石炭価格の上昇を挙げた。

(下)につづく

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。
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