「媽媽(ママ)私を置いて行かないで」 出稼ぎに行く親たち、留守児童の絶叫は続く=中国

2024/02/21
更新: 2024/02/21

中国には、両親が都市部へ出稼ぎに行ったため、祖父母や親せきなどの農村に取り残された「留守児童」と呼ばれる幼い子供たちが6100万人以上(2015年時点)いると言われている。

また、出稼ぎに行く親に連れられて、都市部を転々とする子供も4千万人にのぼる。このような子供たちは、生活環境が極めて劣悪で、教育も満足に受けられない状態のため、大きな社会問題となっている。

出稼ぎに行く両親、取り残される子供

旧正月に家族が集まり、ひと時の団欒を楽しむことはできた。しかし、お正月気分がまだ抜けないうちに、新たな別れはもう始まっている。多くの親たちは、再び都市部へ出稼ぎに行かなければならない。そうして今年も、留守児童の悲しみの声が、駅やバスターミナルに響き渡っている。

今月14日、ある地方の駅で、出稼ぎに行く母親と別れた後、「ママがいい!」と悲痛な叫び声を上げて女児は泣き崩れた。その姿は、人々の涙を誘って余りあるものだった。

2月14日、中国の旧正月休暇が終わり、母親と別れた後に「ママがいい!」と悲痛な叫びを上げる女児。(動画よりスクリーンショット)

そんな娘の姿を遠くに見て、母親も胸を締め付けられ、顔には涙があふれていた。それでも一家の生活のために、涙をこらえて故郷を離れる列車に向かうしかない。

その後、女児の鳴き声も次第に止んだが、その目は母親への限りない恋しさでいっぱいだった。女児は、 母親の姿が完全に見えなくなるまで、ただ黙って見つめていた。

この動画を見たネットユーザーは、次のようなコメントを残している。

「私も幼いとき、その少女と同じだった。だから私は絶対に、子供を産まないと決めた」

「僕も留守児童だった。だから、決して自分の子供は留守児童にさせないと誓っている」

(2月14日、中国の旧正月休暇が終わり、出稼ぎに行く母親と別れた後、「ママがいい!」と悲痛な叫び声を上げる女児)

毎年繰り返される「別れの悲歌」

こうした留守児童が、出稼ぎに行く親から引き離される悲歌(哀歌)は、ここ数十年にわたって中国各地で毎年、繰り返されてきた。

留守児童である山西省呂梁市の張美豔ちゃん(9歳)は、中国の「子供の日(児童節、6月1日)」の前日、3年ぶりに母親と再会した。

しかし、美豔ちゃんが媽媽(ママ)と一緒にいられたのは、わずか半日だった。

母親は仕事のため、また娘と別れなければならない。美豔ちゃんは「ママ、行かないで」と泣きながら走り、母親を載せたバイクを1キロも追い続けた。ついに美豔ちゃんは疲れ果て、地面に倒れ込んだ。

これが、その時の写真だ。3年ぶりに再会した母親とともに過ごした時間は、わずか半日である。この家族にどのような事情があるにせよ、子供にとっては、あまりにも残酷な運命と言うしかない。

「ママ、行かないで」。泣き叫びながら、母親を載せたバイクを1キロも追い続けた山西省の留守児童・張美豔ちゃん(9歳)。(動画よりスクリーンショット)

増える留守児童の集団自殺

このような「留守児童」という現象は、中国特有のものといってよい。

1980年代以降、都市化の波のなかで、農村の余剰労働力が大量に都市部に流れた。

しかし、中国人がもつ戸籍は、農村部の住民と都市部の市民とで厳格に分けられている。日本のように、個人の意思でどこへでも自由に移転することはできない。特に、農村戸籍の住民が都市の市民になることは、わずかな例外を除いて、ほとんど不可能である。

そのような背景から、戸籍が農村部に固定されているため、農村で暮らすしかない出稼ぎ労働者の子供たちは「時代の孤児」となり、数え切れない悲劇を生み出してきた。

留守児童のうち、4.3%が「両親からの電話が年に1回未満」という調査結果もある。養育は祖父母のもとでなされたとしても、親子の断絶は、もはや修復不可能にもなっている。

親子のふれあいやコミュニケーションが欠乏する留守児童は、その発育においても、感性の低下、破壊的な性格、敵意の増幅などがみられる。

さらには、情緒的に憂鬱や焦燥になりやすく、性格が偏屈で卑屈、自信のない子供に育つ傾向があるという。

(中国の留守児童。この幼い子たちを残して、親は出稼ぎに行ってしまう)

心理学者の葦志忠氏が、昨年行った調査研究によると「留守児童の8割が、様々な心理的問題を抱えていることが明確に示された」という。

また、広東省の未成年犯罪者管理所が提供した調査研究データによると、刑務所に収容されている未成年の犯罪者のなかで、留守児童は20.1%を占めているという。

また、犯罪記録のある成人の農民工(農村戸籍をもつ出稼ぎ労働者)のうち、8割が留守児童だった経験をもつことが広州大学の研究で明らかになっている。

近年では、留守児童に関連する餓死事件や自殺、さらには集団自殺事件が増加している。

例えば、2015年、貴州省畢節市で、4人の留守児童が家の中で農薬を飲んで集団自殺した。
2012年、留守児童5人がゴミ置き場の中で死亡していたことが発見された。
2012年、江西省では3人の留守児童(女児)が自殺未遂を起こしている。
2010年、陝西省で5人の留守児童(小学6年生)が農薬を飲んで集団自殺を図ったが、未遂に終わった。

しかし、このように外部に知られるケースは氷山の一角でしかない。今の中国で、一体どれほど多くの子供たちが、その小さな体と心を崩壊させられているか知れないのだ。

中国の留守児童の問題が国際社会に注目され、内外からの批判が高まるにつれて、近年、中国メディアは留守児童の話題に触れなくなった。

報道されなくても、もちろん留守児童がいなくなったわけではない。

(目覚めたら、出稼ぎに行く両親が家を離れた後だったとわかり、泣き叫ぶ留守児童の女の子。この子は、両親がいよいよ家から離れることを知っていたため、一晩に7回も目が覚めたという)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。