【寄稿】台湾有事、韓国軍の介入を期待する米当局 日米韓台の同盟はありうるのか

2024/02/25
更新: 2024/02/29

空母、台湾防衛態勢に

1月29日、沖縄周辺海域で日米共同訓練が挙行された。日本からはヘリコプター空母いせが参加したが、驚くべきは米国から正規空母2隻すなわちセオドア・ルーズベルトとカールビンソンが参加したことだ。

実はこの日、読売新聞オンラインは「中国軍艦4隻 台湾の四方にも常時展開、台湾有事米軍接近を阻止する狙いか」との記事を掲載しており、1月13日に台湾総統選で反中派の頼清徳が選出されて、中国海軍が台湾封鎖の暴挙に出る危険性に備えて、米国が空母2隻を台湾周辺に派遣したと推察されよう。

というのも2022年8月には、中国海軍は台湾を取り囲む形で軍事演習を行い、空母遼寧と山東が出動した。対する米海軍は空母レーガンを台湾周辺に展開させていたが、中国が空母2隻を派遣したのを知ると、レーガンを撤退させざるを得なかった。米国はチキンゲームで中国に敗れた形になったのである。

2月9日 米国家安全保障会議のワトソン報道官はインド太平洋戦略の公表から2年になるのを前に声明を発した。ウクライナ戦争やパレスチナ紛争などの難題を抱える中にあっても、この2年間、日米韓の連携強化などに取り組んできたことに触れ、インド太平洋地域の安全保障を「引き続き優先していく」と述べた。

ここで重要なのは日米韓の連携強化を強調している点であろう。というのもインド太平洋戦略の最重要地域は台湾である。台湾がもし中国の手に落ちれば南シナ海全体が中国の内海となりインド洋と太平洋は引き裂かれてしまう。これは米国のインド太平洋戦略の破綻を意味する。

従ってウクライナ戦争やパレスチナ紛争が激化している現状にもかかわらず、台湾周辺に米空母2隻を展開させているのである。その上で日米韓の連携強化に努めてきた実績に触れている。

これ、すなわち台湾防衛に日米のみならず韓国を加えて日米韓台の事実上同盟関係を模索していると見ることが出来よう。

行き詰った米国の対中政策

バイデン大統領は今までに4回、マスコミから「台湾を守るか?」と聞かれて、いずれも「イエス」と明言している。しかし、いずれも、その直後に側近が「米国の対中政策は変わっていない」と説明している。

米国の台湾を巡る戦略は「あいまい戦略」と呼ばれ、中国が台湾に侵攻した場合に、米軍が台湾を守るかどうか、あいまいにしておく戦略である。これは1970年代に米国が、中国を承認したため「台湾を守る」と明言できなくなり、やむなく採用した苦肉の戦略である。

当時の中国は陸軍大国であり、台湾に侵攻するための海軍力や空軍力がなかったから、そもそも中国の台湾侵攻は不可能だった。従って米国は台湾防衛を明言する必要もなかったのである。

しかし1990年代以降、中国は海軍と空軍を大幅に拡充し、もはや中国の台湾侵攻は絵空事ではなく現実的な脅威として語られるに至った。バイデンが台湾を守るかと問われてイエスと答え、側近がその都度、否定するという茶番劇そのものが米国のあいまい戦略の破綻を象徴しているのである。

トランプは台湾を見捨てるか?

昨今、トランプ前大統領の人気が米国では高く、11月の大統領選で返り咲く可能性が出てきた。予測不能が売りのトランプが政権に復帰したら、どうなるのか?いわゆる「もしトラ」の議論が随所で沸き起こっているが、台湾も例外ではないらしい。

つまり、台湾ではトランプが大統領に復帰すれば中国と交渉して、米国製品の購入と引き換えに中国による台湾併合を容認してしまうのではないか、との危惧が囁かれているという。

アメリカ・ファースト、交渉主義、予測不能というトランプの特質から割り出された懸念ではあるが、もしそうなれば米国のインド太平洋戦略は先に述べたように破綻してしまう。同戦略はトランプ政権1期目にトランプ自身が指示して策定した戦略であるから、トランプが自身の功績を否定する真似をするわけはなかろう。

トランプは2016年、大統領選に立候補した時点では、外交や安全保障について無理解な人物だった。なにしろ「日本と韓国から米軍を撤退させる」と公言して憚らなかったのだ。そんな彼にインド太平洋戦略を入れ知恵したのは誰あろう、当時総理であった安倍晋三である。

2016年8月に安倍総理(当時)はケニアで開かれたアフリカ開発会議で「自由で開かれたインド太平洋」構想を公式に提唱した。実はこれ以前からインド太平洋戦略は囁かれていたのだが、国際会議で大々的に主張されたのは、これが初めてである。

従って同年11月の米大統領選で当選したトランプに翌12月にニューヨークであった時、安倍総理は大統領就任前のトランプにインド太平洋戦略について十分な説明ができる余裕と準備があったはずである。

安倍総理の明快な説明に魅せられたトランプは2017年11月にベトナムのダナンで開かれたAPEC首脳会議で「自由で開かれたインド太平洋」ビジョンを表明した。2018年5月には米軍は「太平洋軍」を「インド太平洋軍」と改称し、2019年6月には初のインド太平洋戦略が公表されたのである。

中朝露vs日米韓台

だがトランプのインド太平洋戦略では、韓国の役割は期待されていない。トランプ自身は在韓米軍の撤退を真剣に考えていた。インド太平洋戦略で韓国を活用しようと考えたのは、現大統領のバイデンである。だが、当時の韓国の大統領は親北、親中、反米の文在寅(ムンジェイン)であり、米国の台湾防衛に協力する気持ちは皆無だった。

2022年5月に親米派の尹錫悦(ユンソニョル)が大統領に就任して風向きが変わった。文政権時代には見送られてきた日米韓共同訓練が復活したのである。これは対北が建前なのだが、米国の本当の狙いは台湾防衛に韓国軍を活用することだ。

台湾有事に際して米軍が直接介入すれば、米中戦争になり核保有国同士の戦争は核戦争にエスカレードしかねないから、米軍の介入はできない。日本に介入して貰いたいところだが、日本は集団的自衛権の行使を一部しか容認していないから、法的に不可能だ。

ところが韓国は集団的自衛権を100%行使できるのである。韓国は台湾防衛に関与するとは、明言していないが、韓国を主敵と明言した北朝鮮が中国の台湾侵攻に参戦する姿勢を強めつつある現状では、韓国もまた台湾防衛に関与せざるを得なくなると見られる。

東アジアの情勢は中朝露vs日米韓台の構図を描きつつあるのである。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。