「両会」での直訴者を弾圧する地方政府 拉致、監禁、殴打、拷問による自殺未遂者まで=北京

2024/03/13
更新: 2024/03/12

今年、3月4日~5日に北京で開幕した2つ重要会議「両会」。全国政治協商会議(政協)は10日まで、全国人民代表大会(全人代)は3月中旬まで開催される。

その間、開催地の北京では、例年以上の厳戒態勢が敷かれ、北京の街頭には大勢の警官や警備員、市民ボランティアなどが出て、総がかりで同じ市民の一挙一動を監視している。

各地の反体制派や人権活動家は、現地警察によって厳重に監視され、地方からの陳情民の北京入りを阻止するため、地方政府が血眼になっている。地方政府にしてみれば、腐敗などの地方の「汚点」を中央に直訴されることは何としても避けたいからだ。

陳情者を捕らえる「暴漢」たち

その両会まえの2月から、北京の内外を問わず陳情経歴をもつ多くの民衆が、北京の陳情局の周辺や重要会議の会場近くに来ている。

彼らは皆、社会の不条理に打ちひしがれ被害を受けた庶民であり、地元では解決されない問題を訴えようと、なけなしのお金を集めて旅費を工面し、必死の思いで北京へ陳情に来た人々なのだ。

しかし、陳情者が北京へ行くことを、地元の警察は全て察知している。そのため陳情者のなかで少なからぬ人が当局からの暴力や、地方から北京に送り込まれた要員による拉致や強制送還、不当拘束されての残酷な拷問に遭っている。

なかには、当局に拉致されて以来、まったく連絡が途絶えた人や、当局者による拷問に耐えかねて自殺しようとする市民もいる。

湖北省十堰市からの陳情民、尹登珍さんの場合。両会の前に北京入りしたものの、地元から送り込まれた「陳情阻止要員」に捕まり、湖北省の地元へ強制送還された。そのあと彼女は小屋に監禁され、そこでの拷問に耐えかねて自殺(未遂)まで起こしている。

尹登珍さんの娘は「母親は、今も不法に監禁されている」として、NTD新唐人テレビに対し、次のように明かした。

「(陳情のため)北京入りした母は今月2日夜、市内バスに乗っていた時に、車内で北京の警察による身分証検査を受けた。そのまま警察署へ連れていかれ、その後、地元からの陳情阻止要員に身柄を引き渡された。母は、翌日には地元の湖北省へ強制的に連れ戻され、小屋に監禁された。母親は、何日も食事を与えられなかった。水も飲めなかったので、必要な薬(抗がん剤)を服用することもできなかった」

「母親は昨年6月にも、路上で(当局者によって)殴打されたことがある。その時に、肋骨を4本折られた。今は傷も少し良くなって、松葉杖に頼れば歩けるようになっていたが、地元の陳情阻止要員はわざと、昨年折れた母の肋骨の箇所を踏みつけたり、母を殴ったりした。あいつらは本当にクズだ。拷問に耐えかねた母は、自ら腕を切って自殺までしようとした」

また、福建省出身で体に障害をもつ陳情者、雷宗林さんの場合はこうだ。雷さんは2月29日、北京の(福建)省民政庁に所用があって行ったところ、警備員に突き倒され、頭を地面に打ちつけた。それから、警備員はなんと運転手に「この男(雷さん)を車で轢け」と指示したという。

そう命じられた車の運転手であったが、さすがに良心の呵責もあって、それはできなかった。雷さんを轢きそうになったギリギリのところでハンドルを切り、直撃を避けたのだ。それでも、雷さんの全身は車の下に入ってしまった。

「拉致要員」を送りこむ地方政府

毎年恒例のことだが、北京で重要会議があるときには、その開催にあわせて、地方政府から受けた不当な扱いや地方官僚の不正などを中央に直訴するため、全国各地からの陳情者が北京に殺到する。

陳情そのものは、中国公民の正当な権利であり、違法性は全くない。

ところが、中央へ陳情されることによって「隠蔽しておきたい地方の問題」が、中央政府へ知られてしまうことになる。また、陳情局に訴える民衆が多いほど、地方政府の「失点」となる。それらは、端的に言えば地方官僚の出世に響く。そのため、地方政府にとって陳情者は厄介者なのだ。

そこで、地方から北京へやってくる陳情者を阻止し、地元へ強制送還するために、地方政府から専門の「拉致要員」が北京へ送り込まれている。そのうえ、北京の公安と地方の公安当局が結託して、陳情民の排除に努めている。

重要会議が近づくと、地方政府は「要注意人物」の監視を強化し、彼らの上京に神経を尖らすことになる。陳情者の家の前に貼りついて四六時中見張ったり、集合住宅の玄関ドアの前に、監視要員が寝転んでいることもある。

陳情を予定しながら、そのまま自宅軟禁される人も少なくない。「北京へ行ったら殺すぞ」と陳情者を脅迫する地元警察もある。

地元での妨害をすり抜けて、なんとか無事に北京へたどり着いたとしても、苦難はまだ終わらない。地方政府は陳情者を阻止すべく「屈強な拉致要員」を北京にまで派遣しているからだ。

そのため、陳情者が北京駅や宿泊先などから強引に拉致されて、地元に連れ戻されるケースも多く報告されている。

雨の日、北京にある「国家信訪局」前に並んだ陳情民の長蛇の列、2023年9月。(NTD新唐人テレビの報道番組よりスクリーンショット)

中国の東北地方から北京にやってきたというある陳情者は、アポロニュースネットに対し「北京の陳情局に勤める一部の受付担当者は、すでに地方政府によって買収されている。陳情局に登録する陳情民の情報を、その地方当局に流している」と明かした。

陳情局の内通者から知らせを受けた地方政府は、要員をすぐに派遣する。その場合、当該地方からの陳情民が陳情局を出ようとするところを待ち伏せし、車に押し込んで拉致するという。下の動画にもあるように、本当に車に押し込んでしまうのだ。

「問題を解決しないで、問題を提起する人を解決する(不解決問題、解決提出問題的人)」

この有名な言葉通りのことが、正当な権利として陳情する民衆の身に、普遍的に起きているのである。

(2023年4月3日、国家信訪局(陳情局)の前で男2人によってタクシーのなかへ無理やり押し込まれて拉致される常州鐘楼区の陳情民の徐明亜さん)

(屈強な男たちが、女性を無理やり車に押し込もうとしている。地方政府の拉致要員によって、陳情民が拉致される場面とみられる)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。