プロレタリア文化大革命(1966~76)は、数千万人の餓死者を出した大躍進政策の失敗により一線を退いていた毛沢東が、劉少奇からの権力奪還を企図して仕掛けた武力闘争であった。
その闘争の先兵となったのが「紅衛兵」と呼ばれ、また自らもそう名乗って狂信的なマオイストとなった10代の学生たちである。
「紅衛兵」の暴力や破壊行為は文革初期の頃にとくに激しく、クギのついた棍棒をふるって、自分の学校の教師を殴り殺すことが「革命的」であるとされた。それはまさに、殺人を称賛する狂気そのものであった。
その時代、教科書の章立てや試験問題はほとんどが、赤いビニール表紙の「毛沢東語録」の文言から始まっていた。今では、当時の「紅衛兵」の多くが70代の高齢者となっている。
そして、あろうことか半世紀以上前の中国で行われていた「洗脳・宣伝教育」が、21世紀の現代中国で繰り返されている。
すでに2021年9月より、中国の小学校から大学院までの全ての教育課程の教科書に「習近平の政治思想」を盛り込んだ教育改革が始まっている。
このほど、中国のとある小学校の数学のテストの写真がSNSに出回り、物議を醸している。そのなかに、中国人が心の奥底に閉ざして久しい、文化大革命のころの「味」が濃厚とみられるからだ。
例えば、数学のテスト問題には、数学とは全く関係のない「習(近平)語録」や中国共産党の政策が多く引用されているのだ。
また「平均数」を答える問題では「二十大の精神」などの中国共産党の政治スローガンや「文化への自信」といった、中国共産党規約に出てくる言葉が多く出現する。数学とは何の関係もなく、また問題の文章としてもその必要性がない用語である。
また数学のグラフ問題は「サイバー空間における運命共同体」に関する習近平のスピーチから始まっていた。
この「習近平思想」の履修義務化に加えて、日増しに強まる社会や経済への統制などからしても、文革時代を直接知る人であろうがなかろうが「まるで文化大革命の再来だ」という嘆きを漏らす人は少なくない。
その前途には、暗澹たるものしかないからだ。
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