【プレミアム報道】ビッグテックが米国の電気と水をいかに消費しているか

2024/04/29
更新: 2024/04/29

米連邦政府のネットゼロ政策によって、輸送、暖房、その他の必需品が電力依存にシフトされようとしている中、アメリカ経済で最もホットな成長部門のひとつが、電力需要を飛躍的に増大させる構えを見せており、赤字に追い込まれつつあるエネルギー・インフラにさらなる負担を強いている。

「インターネットの頭脳」と呼ばれるデータセンターには、何列ものサーバーがぎっしり詰まっており、産業用倉庫とでも言えるものだ。銀行の記録、オンライン小売業者、ソーシャルメディア・プラットフォームからNetflixの番組や個人のiPhoneビデオに至るまで、あらゆるものの背後にあるデータを処理、通信、保存する。

2023年の米連邦準備制度理事会の報告書は、「データセンターはクラウドコンピューティングに不可欠であり、それによってユーザーがデータ・リモートアクセスを利用できる」と述べ、データセンターを「デジタル化が進む世界の情報バックボーン」と呼ぶサイエンス誌の記事を引用した。

多くのアナリストは、不動産市場で最も急成長しているセクターの1つとして、データセンターを賞賛しているが、この業界の電力と水に対する飽くなき欲求に対する地域社会の抵抗が高まっているため、すぐに壁にぶつかる可能性があると指摘している。

「他の商業用不動産セクターでは建設パイプラインの減少が見られる一方、データセンターの開発は過去最高に達している」と、商業用不動産アドバイザリー会社であるニューマークが1月に発表したレポートで述べている。

「しかし、一部の地元自治体からの抵抗が強まっていること以外に、土地や電力の利用可能性、サプライチェーンの課題、建設の遅れによっても、成長はますます制約されている」

レポートによると、人工知能(AI)やその他のテクノロジーの急速な成長が需要に拍車をかけている。

この業界は、アマゾンウェブサービス(AWS)、マイクロソフト・アジュール、グーグル・クラウド、メタなどのクラウドコンピューティングの巨大企業が牽引している。また、保管スペースを第三者に貸し出すコロケーション企業と呼ばれるデジタル大家も含まれる。エクイニクス、デジタルリアルティ、サイラスワンなどだ。

データによる電力需要は2030年までに倍増

データウェアハウスは2022年に17ギガワット(GW)の電力を消費し、これは米国の総消費量の約4%に相当する。2030年までには35GWに倍増すると予測されている。

情報システムと通信で理学博士号を持ち、技術インフラ管理会社アメラスの創業者であるエリック・ウッデル氏は、データセンターを 「エネルギー・ホグ(豚) 」と呼んだ。「今や、AIアプリケーションのためのデータセンターはもはや豚ではなく象であり、あなたの裏庭に住んでいる」とエポックタイムズに語った。

ウッデル氏は、世界第2位の資産運用会社であるバンガードで25年間データセンターを管理してきた。

「平均的なデータセンターにあるわずか10ft2(0.93m2)スペースが、平均的な家庭の約10倍の電力を消費する」と彼は語る。

「従来のデータセンターは莫大な電力を消費しているが、AIコンピューティングは、CPU(中央処理装置)ではなくGPU(グラフィックス処理ユニット)ベースのシステムを使用する。GPUは、複雑な数学的関数をより適切に処理するように調整されている。しかし、そこには落とし穴がある。同様の装備のCPUシステムよりも、5倍から10倍の電力を消費することだ」

2017年3月17日、米ユタ州にある米国家安全保障局(NSA)のユタ州データ収集センター。15億ドルを投じて建設されたこのデータセンターは、世界最大とされる (George Frey/Getty Images, Alain Jocard/AFP via Getty Images)

このような電力需要の大幅な増加は、今後数年間で電力不足や計画停電が頻発すると予測されている送電網に負担をかける。これは、電力会社が石炭やガス火力発電所を停止し、積極的に風力や太陽エネルギーへの移行を進める中で、送電網への需要が高まっているためだ。

クアンタ・テクノロジーズ社が2月に発表した地域大手電力会社PJMのケーススタディによると、今後の数年間で、平均的な冬のピーク需要時に、6826メガワット(MW)もの負荷軽減を引き起こす過負荷が機器に発生すると予測された。負荷軽減とは、システムの崩壊を防ぐために消費者への電力をカットすることで、停電とも呼ばれる。

PJMは、卸売業者として中部大西洋岸東部の12の州にサービスを提供している。

「この分析によって、2028年の夏に30のバルク送電施設(230kV以上)が過負荷になることが明らかになった。この主要な要因は、新しいデータセンターに関連する高い負荷の増加によるものだ」と報告書は述べている。

2020年8月16日、米カリフォルニア州レドンドビーチの高圧送電線下の公園で遊ぶ犬。カリフォルニア州では、猛暑による電力系統の逼迫に伴い、計画停電が指示されている (Apu Gomes/AFP via Getty Images)

不思議なことに、再生可能エネルギーへの移行は、表向きは気温上昇に対抗するためとされているが、クァンタの報告書によれば、「電力需要のピークが夏に減り、冬に増えている」と指摘している。これは、全米の天然ガス消費者の約3分の1を占める西海岸と北東部の州では特に憂慮すべきことだ。これらの州では、新築住宅でのガス暖房を禁止しており、これらの世帯が必要な暖房を電気に頼らざるを得なくなっているためだ。

ウッデル氏によると、PJMは2028年までに化石燃料による電力生産を1万1100 MWに止める一方で、新規データセンター負荷が7500 MWに増加することを予測している。この部門における残余の供給能力と新規需要との間には18.6GWの余力がある。

「18.6GWは、約300万世帯、つまりニューヨーク市の3倍の電力を供給することになる」と彼は述べた。「その影響は甚大だ」

データセンターアレイ

米国経済研究所のエコノミストであるライアン・ヨンク氏によると、世界全体のデータセンターは世界の電力の約3%を消費しているという。この消費は安定しており予測可能な傾向があるため、電力会社は拡大すればそれに対応できる、と彼は語る。

しかし、データセンターが1つのエリアに集中すれば、そしてそのエリアが化石燃料からシフトしている場合には問題が発生する。

ヨンク氏はエポックタイムズに対し、「個々のコミュニティにとって、データセンターが進出してくることについて、そして多くの場合そうであるが、特に集積されることについて本当に疑問がある」と述べた。

「データセンターは結局、一貫した電力を必要とするため、生産能力が十分に高い限り、送電網はかなり拡張できる。しかし、自然エネルギーへのシフトが進めば進むほど、ベースラインの需要が大きくなればなるほど、問題は大きくなる」

PJMとクァンタの調査が対象とする地域は、世界最大のデータハブを含んでおり、米国のデータセンターの約半分があり、世界のインターネットトラフィックの70%が通過すると推定されているため、重要な意味を持つ。

グーグル検索を行ったり、アマゾンで買い物をしたりすれば、バージニア州北部のラウドン郡にある約150のデータウェアハウスがあるデータセンターアレイと呼ばれる場所で取引が行われる可能性がある。

データセンターアレイは、1980年代にアメリカ・オンライン(AOL)が本社を置いたことから始まった。ワシントンへの近さ、世界一高密度な光ファイバー網の構築、比較的安価な電力の供給、地元の税制優遇措置などにより、瞬く間に他の企業を引き込んだ。

「この地域は、他のすべてに接続するために立地したい場所だ」と、ピードモント環境評議会(PEC)の土地利用担当ディレクター、ジュリー・ボルトハウス氏はエポックタイムズに語った。

「このようなデータセンターでは、誰もが互いに協力し合って構築している。すべてが互いに通信し合う1つの巨大なネットワークとして考える必要がある」と彼女は言う。

「90年代から現在に至るまで、私たちはビルを超大型化してきた。大きなビジネスキャンパスの一部で、わずか5MWの小さなビルから、今では20 ft2(186アール)の超大型倉庫タイプのビルになり、1棟あたり最大90MWを使用するようになった」。

PECの報告書によると、90MWは2万2千世帯の電力消費量に相当する。

バージニア州北部のデータセンター・ネットワークは2022年に拡大され、デジタル・ゲートウェイと呼ばれる開発を含むようになった。そこは、近隣のプリンスウィリアム郡にあるデジタルアレイとほぼ同規模の大きさである。この新しい開発には、37棟のビルと、それぞれ20万平方フィート(約19平方キロメートル)の14の変電所が含まれ、この地域全体でさらなる開発が進行中である、とボルトハウス氏は述べた。

現在のデータセンターと今後建設されるデータセンターによって、電力使用量は20GW以上増加すると、PECは報告書の中で述べている。現在、同地域のピーク時の総電力需要は23GWなので、バージニア州北部のデータセンターは、地域の電力需要のほぼ2倍、550万世帯分の電力を使用することになる。

地域社会にとっての問題は、自治体が開発を承認すると、電力会社はその開発にサービスを提供するために新しい発電所と送電線を建設しなければならないことだ。この新しいインフラのコストは、すべて料金支払者の電気料金値上げという形で、地域社会がその大部分を負担することになる。

「私たちが毎月電気料金を支払うということは、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、アップルなどの数十億ドル規模の企業に、巨額の補助金を与えていることになる」とPECの報告書は述べている。

その結果、データセンターが新しい施設を建設しようとすると、地元の抵抗にますます直面することになる。

抵抗している団体の1つが、バージニアデータセンター改革連合(Virginia Data Center Reform Coalition)であり、住宅所有協会、天然資源保護団体、歴史保存団体、気候活動家など約40の団体が参加する団体である。ボルトハウス氏が指導的役割を担っているこの組織は、データセンターの拡張を遅らせたり止めたりするための現地法の可決に取り組んでいる。

新しい場所を探す

その結果、開発業者は土地、安価なエネルギー、豊富な地下水を求めて他の場所を探し始めた。対象地域はジョージア州アトランタ、オハイオ州コロンバスだ。ワイオミング州シャイアンも、大規模なデータセンター開発を承認している。

データセンター開発業者は、海外の拠点も探している。BBCは2023年6月、「データセンターはアイルランド共和国の全電力の約5分の1を使用しており、これは同国の都市部で使用される電力の合計に相当する」と報じた。

これらのデータウェアハウスによるアイルランドのエネルギー消費量は、2021年から2022年にかけて31%増加し、2015年からは400%増加したとBBCは述べている。

ロシアがウクライナに侵攻する前は、シベリアのような極寒地にデータセンターを設置することも検討されており、その一部には原子力発電の供給が豊富な地域もあったとウッデル氏は語る。「しかし、地政学的な懸念から、それはなくなった」

最終的には、電力網が一般市民の需要を満たせなくなるため、各国はデータと生活必需品(暖房や病院など)のどちらかを選択せざるを得なくなり、政府がこの業界に制限を設けるようになるだろうとウッデル氏は考えている。

「モラトリアムになるだろう」と彼は語った。「ヨーロッパと英国では電力が足りないため、新しいデータセンターの建設を一時停止している」。また、地域資源の枯渇には電気だけでなく、水の使用も含まれる。

データセンターでは、狭いスペースに大量の電力を集中させるため、空冷だけでは軽減できないほどの熱を発生する。その結果、サーバーの過熱を防ぐために大量の地下水を消費する。

2019年11月7日、米ユタ州イーグルマウンテンに建設中のフェイスブックの新データセンター。施設は97万平方フィートの建物で、500エーカーの敷地にある (George Frey/AFP via Getty Images)

例えば、グーグルは、2022年に主にデータセンターの冷却のために56億ガロンの水を消費したと報告している。これは、2021年に使用したものよりも20%増加した。

FEDの報告書によると、2021年の水消費量に関してデータセンター業界は上位10位にランクインしていた。

水中データ 「ポッド 」のメーカーであるサブシー・クラウドの最高技術責任者(CTO)であるオーウェン・ウィリアムズ氏によれば、産業機械や自動車、飛行機にエネルギーが入力されると、そのエネルギーは物理的な動き、つまり 「仕事 」に変換される。

「データセンターについて言えば、コンピュータの中ではまったく仕事が行われていない」とウィリアムズ氏はエポックタイムズに語った。「エネルギーが機械に入り、その機械で仕事が行われていない場合、入ったエネルギーはすべて熱として再び出ていかなければならない」

「サーバーに入るエネルギーの100%はサーバーから取り除かなければならない。熱を蓄積させておくと、基本的に燃え尽きてしまう。コンピュータの高密度化にともない、この熱を除去する要求が非常に厳しくなっている」

通常、コンピュータに電力を供給するために使われる電力に加え、冷却のために平均40パーセントの電力が必要とされる。これは電力網にさらなる負担をかけ、その過程で地元の地下水を大量に消費する。

海中データセンターは成功するか?

マイクロソフト、サブシークラウド、そして中国の競合他社などの企業は、解決策を見つけたと考えている。深海ポッド内にデータセンターを沈めようというのである。

これらの企業は、水面下数千フィートの沿岸海域にデータセンターを収容できる新しいテクノロジーを開発した。

コンピューターチップの通常の動作温度は70℃を超えているので、熱帯の海域でも「水とチップの間には非常に大きな温度差があるため、余分なエネルギーを使わなくてもチップから熱を逃がすことができる」とウィリアムズ氏は述べている。

マイクロソフトが深海の圧力でタンクがつぶれないように、5インチ(12.7 cm)厚さの鋼鉄壁でデータタンクを建設したのに対し、サブシークラウドは、特許を取得した非腐食性の液体でタンクを満たし、液体環境でも機能するソリッド・ステート・ドライブを使用している。これには2つの機能がある。

「第一の機能は、熱を非常に効率的に伝達することだ」とウィリアムズ氏は語る。「2つ目は、ポッド内の圧力を外側と同等に維持することで、これには、海底ポッドの壁の厚さを1インチ(2.54㎝)のわずか4分の1にする必要がある」

技術系企業に海中での代替案を検討させるには説得力が必要だったが、海中ポッドの需要は「現時点では非常に大きい」と彼は言う。

「大企業が私たちに、そして政府にも声をかけてくれていることはとても幸運なことだ。事実、世界の人々は、エレクトロニクスやAIなどの利用を縮小したいとは思っていない」

水中データポッドは、増大するデータセンターの需要を賄うために必要な土地、電力、地下水を削減するのに役立つかもしれないが、最終的に、世界のデータ産業がその成長を促進するために膨大な電力を必要とすることに変わりはなく、電力網に負担をかけ続けることになるだろう。

ウッデル氏によれば、近い将来、ハイテク産業はデータ処理における劇的な新効率を革新するか、さらなる成長を阻む現実的かつ規制的な障害に直面するかのどちらかを迫られることになるという。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。