分析:超長期国債発行に見る中国の財政的窮状

2024/05/24
更新: 2024/05/24

5月13日、中国国務院はビデオ会議を開催し、超長期特別国債(償還期間が20年、30年、50年のもの)の発行に関する動員を行った。中国当局は3月の『政府活動報告』で、今年から数年にわたって超長期特別国債を発行し、「国家の重大な戦略実施と重点分野の安全能力の構築」に用いる計画を発表した。今年はまず1兆元(およそ22兆円)を発行し、政府性基金予算に組み入れるが、赤字には計上しない。

2023年の第4四半期には、当局が1兆元の国債を増発し、無償給付の形で地方政府に分配した。名目は「災害後の復旧・再建と防災・減災能力の向上」であり、元本と利息の返済は中央政府が負担する。この1兆元の国債は特別国債として管理されるが、赤字として計上されたため、2023年の全国財政赤字は3.88兆元から4.88兆元に膨れ上がった。中央政府の財政赤字は3.16兆元から4.16兆元に増加し、財政赤字率は3%から約3.8%に高まった。

これらの動きを受けて、世論は中国共産党が「中央政府のレバレッジをかけている」と考えているようだ。その理由として挙げられるのは、以下の3点だ。

1. 地方政府の債務リスクが高まり、債務処理に追われていること。
2. 国債は地方債に比べて市場のニーズが高く、資金調達コストが低いこと。
3. 中国の政府債務構造は欧米諸国と正反対で、中央政府の債務が少なく地方政府の債務が多いという特徴がある。そのため、地方のレバレッジを減らし、中央のレバレッジを増やすことが現実的な方策と見なされている。

いっぽう、本稿では、単に多額の国債を増発し中央のレバレッジ比率を上げるだけでは債務の付け替えを行なっているに過ぎず、効果は限定的であり、困窮した現状から脱することはできないと論じる。

第一に、中央政府がレバレッジを掛けることは、一般人や企業、地方政府がすでに債務引き受けの余裕を失っていることを示す。

GDPに占める負債総額の比率を数字で表したマクロレバレッジ比率を見ると、一国の債務水準がわかる。中国政府系シンクタンク「中国国家金融・発展実験室(NIFD)」のデータによると、中国のマクロレバレッジ比率は2023年には287.8%に達し、2022年末と比べて13.5%上昇した。2019年末と比較すると、実に41.2%の上昇だ。

中国のマクロレバレッジ比率は新興市場国の平均水準を大きく上回っており、アメリカや他の先進国とほぼ同等だ。しかし、(1)2008年末から現在まで、中国のマクロレバレッジ比率の増加速度は先進国と新興市場国の平均水準をいずれも大幅に上回っていること、(2)中国の一人当たりGDP(2023年は1.37万ドル)はアメリカの約6分の1に過ぎないことを考えれば、中国のマクロレバレッジ比率は歪な状態にあることがわかる。

2023年第4四半期において、家計部門のレバレッジ比率は63.5%を計上し、先進国の平均水準に匹敵する。中国国家統計局のデータによると、2023年の国民一人当たりの可処分所得は3.92万元である。しかし、中国人民銀行のデータによれば、2023年末の個人住宅ローン残高は38.17兆元、住宅ローンを除いた個人消費ローン残高は19.77兆元、運転資金などの借入残高は22.15兆元であり、総計で80兆元を超えている。単純計算すると一人当たり5.7万元の負債を負っていることとなり、これは一人当たりの可処分所得を大きく上回っている。家計部門のレバレッジ比率は2008年の17.90%から現在の63.50%に至るまで2.5倍以上の伸びを見せており、これ以上増える余地はほとんどないと言えるだろう。

2023年第4四半期において、非金融部門のレバレッジ比率は168.40%であり、世界的に見ても高い水準にある。かつて銀行の大口融資先だった不動産業はバブルの崩壊により、破滅的な状況に陥っている。また、非金融部門の負債には、地方政府の隠れ債務である「城投債」も含まれているが、「土地財政」が事実上の破綻に陥った今、持続可能性を失っている。

その他の民間企業も活気がなく、借入を避ける傾向が強い。国有企業にはまだ借入を行う余力があるものの、限度がある。総じて、非金融部門にはレバレッジ率を引き上げる余地がほとんどない。この状況は、企業投資の継続的な減少として顕著に現れている。

マクロレバレッジ比率は、家計部門、非金融部門、政府部門の3つから構成される。家計部門と非金融部門のレバレッジ比率がこれ以上伸びない状況において、中国共産党が借入増加をベースに経済成長を刺激しようとするならば、頼れるのは政府部門だけだ。さらに、地方政府の債務リスクが高まるなか、レバレッジを掛けられるのは中央政府しかない。

二つ目の観点として、確かに中央政府のレバレッジ比率は低いものの、中央政府の負債率は既に地方政府の債務率を上回っており、中央がレバレッジを掛けるのは一時的な応急処置に過ぎない。

中国財政部のデータによれば、2023年12月末時点での国債残高は30兆3255億元だった。いっぽう、2023年の中央一般公共予算収入は9兆9566億元、政府性基金予算収入は4418億元であり、2023年の中央政府の表面債務率は289%に達する。これは、30兆3255億元(国債残高)を10兆3984億元(中央一般公共予算収入9兆9566億元+中央政府性基金予算収入4418億元)で割った値である。これは非常に高い数値であり、2023年の地方政府の債務率222%(40兆7372.93億元(地方政府債務残高)÷18兆3505億元(地方一般公共予算収入11兆7218億元+地方政府性基金予算収入6兆6287億元))を上回っている。

地方政府には表面的な債務以外にも巨大な隠れ債務があることは広く知られているが、中央政府も同様である。例えば、鉄道省から改組された国鉄集団は、2023年12月31日時点で6兆1300億元の負債を抱えている。また、国家開発銀行、中国農業発展銀行、中国輸出入銀行の三つの政策銀行は、2024年1月末時点で24兆3000億元の債券残高を有しており、これらは明らかに中央政府の隠れ負債に該当する。

したがって、表面的に見れば中国政府のレバレッジ比率は低いが、それは中央の財政が潤っていることを意味するわけではなく、中国共産党の財政体制の歪みを反映しているに過ぎない。中央政府と地方政府の財政構造はもはや持続可能ではない。

今回の超長期特別国債の発行は、「新たな財税体制改革」や経済の構造調整が伴わなければ、さらに、国際的な経済環境の好転がなければ、一過性の対策にしかなりえず、持続可能な解決策とはならないだろう。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
王赫
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