【寄稿】疑わしきは罰せよ…北朝鮮の弾道ミサイル発射、中共にも責任 沖縄・台湾侵攻に加担の算段

2024/06/03
更新: 2024/06/13

実は成功だった衛星発射

5月27日に4年半ぶりの日中韓首脳会議がソウルで開かれた。日本から岸田総理、中国から李強首相、韓国から尹大統領が参加して同日閉幕した、その夜に北朝鮮は軍事偵察衛星の発射を強行した。ロケットは途中で爆発し、北朝鮮は翌日未明、衛星打ち上げの失敗を認めた。

しかし、北朝鮮は本当に失敗したのだろうか?この失敗は事前に計画されたものではなかったか?

というのも、すべてが仕組まれたかのようにタイミングよく運んで行ったからである。

北朝鮮は、会議当日の未明に「5月27日から6月3日までに人工衛星を打ち上げる」と通告した。

人工衛星の打ち上げは日本も韓国も行っており、国際法の手続きに従えば、どの国も打ち上げは許されるのだが、北朝鮮は弾道ミサイルを事前通告なしに発射し、後で人工衛星の発射だったと偽った過去があり、国連によって人工衛星打ち上げを含む弾道ミサイルの発射が禁止されている。

従って北朝鮮が衛星打ち上げを通告することは、国連決議違反を犯すという通告に他ならない。そんな犯行予告を三者会談の直前にすれば、会談の議題に上るに決まっている。まるで議題にしてくださいと言わんばかりに通告したのである。

そして、確かに議題に上ったのだが、共同宣言を見れば北朝鮮について「それぞれ立場を強調した」とのみ記されているだけだ。4年半前の三者会談では「朝鮮半島非核化にコミットしている」とあるから、明らかに後退している。

北朝鮮に犯行予告で挑発されながら、まとまった結論を出せなかったなどというのは、常識的に考えられない事態である。

言うまでもなく、結論がまとまらなかったのは、北朝鮮の脅威について中国が日韓に同調しなかったからだが、会議の直前に会議をぶち壊しにするような挑発をされたら怒るのが普通なのに、逆に北朝鮮を中国が庇ったのだ。

こうなると中国は北朝鮮の犯行予告を事前に知っていたのではないかと疑われても仕方があるまい。

李強首相が韓国を後にした22時44分に北朝鮮は、衛星を打ち上げ、その一時間半後に失敗を公表し「液体酸素+石油エンジン」の動作の信ぴょう性に問題があったと伝えたのだ。まるで失敗するのを知っていたかのような手際の良さである。

28日、中国外務省の毛寧報道官は、この衛星発射について「朝鮮半島の平和と安定を守り問題の政治的解決を進めるため、各国は建設的な努力をすべきだ。」と述べた。もし北朝鮮の軍事偵察衛星が地球を周回していたら、こんな能天気な発言は各国の非難の的になっていただろう。

中国が容認した北の衛星開発

北朝鮮は昨年5月31日、8月24日と立て続けに衛星打ち上げに失敗し、11月21日に漸く成功した。もっとも北朝鮮は2016年2月7日に衛星打ち上げに成功しているが、この衛星は偵察機能を備えていない、ただの実験衛星だったと見られる。

昨年から北朝鮮が挑んでいるのは軍事偵察衛星であり、ロシアが技術支援をしている。つまり2022年にウクライナに侵攻したロシアは、砲弾不足に悩み北朝鮮に接近して、北朝鮮から砲弾を輸入し、見返りに北朝鮮に軍事偵察衛星の技術を供与しているのである。

だが、これに不服なのが中国だった。北朝鮮の中距離核ミサイルは東京だけでなく北京も射程に入れてしまう。軍事偵察衛星は核攻撃の標的を見定める為のものだから北京政府が喜ばないのは当然であろう。そこでロシアのプーチン大統領は昨年10月18日に北京で習近平主席との会談に臨んだのだった。

会談後の発表には北朝鮮への言及がなかったのだが、会談に同席したロシアのラブロフ外相が、その日のうちに平壌に向かい、翌19日に金正恩総書記と会談しているから、北朝鮮を巡って中露間に重大な密約が交わされたと見て間違いあるまい。

密約の中身は推測する以外にはないが、11月15日にバイデンと習近平の米中首脳会談がサンフランシスコ近郊で開かれた6日後に北朝鮮が衛星を打ち上げた事実を鑑みるに、中国が北朝鮮の衛星打ち上げを米中会談後にするよう、ロシアに要請したと見ていいだろう。

つまり中国は北朝鮮の軍事偵察衛星開発を容認した。問題は、プーチンは習近平をいかに説得したのか?である。

中露の北朝鮮秘密合意

これを解く手掛かりになるのが、先月16日に再び北京で開かれたプーチン・習会談である。両者は会談後記者会見に臨み、そこで習近平は合意事項の一項目として「中露は核心的利益に関わる問題で互いに断固支持する」と述べた。

中国にとっての核心的利益とは言わずと知れた台湾である。ロシアにとっての核心的利益とは現状ではウクライナであろう。すなわちウクライナ問題では、中国はロシアを断固支持するかわりに、台湾問題ではロシアは中国を断固支持するという密約を示唆している。

面白いことに、この共同声明や記者発表でも前回すなわち昨年10月の中露会談の時と同様北朝鮮についての言及がない。北朝鮮について言及しないときは北朝鮮についての合意があったと見るべきであろう。

北のミサイルの射程にある沖縄

中露の核心的利益に北朝鮮を絡めるとどうなるか?北朝鮮がロシアに砲弾を供与することはロシアの核心的利益になるから、中国はこれを支持するというのは明瞭な理屈だ。だがロシアが北朝鮮に軍事偵察衛星の技術供与をすることが中国の核心的利益である台湾問題に

どう関わるのか?

おそらくプーチンは、習近平に次の様に説明したのだろう。「北朝鮮の中距離核ミサイルは、中国が台湾に侵攻し、米軍が台湾防衛のために出撃しようとした際に、米軍の出撃拠点である沖縄とグアム島を攻撃するためのものだ。軍事偵察衛星は、その攻撃目標を特定するために必要なのだ。」と。

もちろん、これは単なる推測だ。だがこれ以外に、中国に北朝鮮の軍事偵察衛星を容認させる説明が考えられるであろうか?

疑わしきは罰せずというのは司法の原則だ。しかし軍事の原則は疑わしきは罰せよ、である。敵の先制攻撃を許して味方が壊滅したら、元も子もない。だからこそ、敵の攻撃の兆候を察知するための情報活動が重要なのだ。

上記の推測は、この情報活動の一環であると考えていただければ幸いである。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。