中国 法律が形骸化したとき、次第に人々は自分の方法で問題を解決するようになる。

中国・内モンゴル一家殺害 逃走中の容疑者逮捕

2024/06/30
更新: 2024/06/30

法律が形骸化し、政権側の道具となった。法廷が完全なる装飾物に成り下がり、誰も法廷に行かなくなった。次第に人々は自分の方法で問題を解決するようになる。これが今の中国のリアルだ。

 

6月18日、内モンゴル自治区フフホト市の村で一家5人が殺害される事件が起きた。

容疑者の霍文常(男、43歳)は犯行後に逃走し、10日間山中に潜伏していたが、28日朝、逮捕された。地元警察は懸賞金3万元(約65万円)を設定して霍の情報提供を呼びかけていた。

霍が逮捕される時の様子を捉えた動画がネットに流出しており、そこには迷彩服を着た霍の姿があった。なぜか、彼は笑顔だった。後ろ手に手錠をかけられ、霍は2人の武装警官に抑えつけられた形で地面にしゃがんでいた。

霍の殺人動機に関しては、公式通報では言及されていないが、「土地をめぐるトラブルである」と事情を知る地元民は中国メディアに明かしている。

しかしインターネットを中心に、霍に同情する声が上がっている。霍は長年、村の有力者による理不尽な扱いを受け、何年も裁判を起こすなどして訴えてきたが、解決されなかった。

 

動機

中国メディアの報道によると、霍は生涯独身の身で、被害者となった隣人一家に家の土地を貸していた。

殺害された一家については、「村で横暴を働いてきた権力者一家で、長年にわたって霍容疑者の家の土地を占拠してきたにも関わらず、賃料も払わなかった。霍は土地の件で何年も法的に訴え裁判をしてきたが、コネのある権力者にかなわず敗訴した。さらに棺桶を送られるなどの辱めを受けてきた結果、とうとう堪忍袋の緒が切れた」という情報もある。

しかし、隣家の嫁だけは縛られただけで殺害されなかった。霍が彼女を見逃したのは、その女性がかつて「土地が霍の家のものならば返してあげて、その家だって生活があるから」と言っていたからだとされる。

つまり、彼女のその善良な心が、最終的に彼女を助けたのだ。

「善良な嫁だけが助かった」

このエピソードを知ったネットユーザーたちは「やっぱり善良な心を持っていないとダメだ」と誰もが感嘆せざるを得ない。

善良な嫁だけを見逃した霍の決断やその長年いじめられてきた境遇は、ネットユーザーの共感を呼び、彼のことを「勇者」と呼ぶ声も多く上がっている。

「正義がない世界で、人々は自分たちの手で正義を果たすしかないのに、この結末だ」

「不作為な当局、弱者いじめに目をつぶり、権力者側に加担した当局もまた犯人と同じ」

「村で横暴を働く権力者やその背後にある勢力など、そういった根本的な問題を解決しない限り、似たような事件は今後も減らないだろう」

「殺人が起きる前、正義があったならば、事件は起きなかっただろう」といった嘆きの声がネット上で広がっている。

 

過去にも同様の事件

2021年には福建省莆田市でも土地紛争をきっかけとした隣人一家殺傷事件が起きている。2人死亡、3人が負傷した。

容疑者自宅の解体・新築工事が当局に認められ、古家を取り壊し、新居の建築が始まろうという時に、隣人一家から妨害され続けた。その結果、容疑者一家5人は5年間、鉄の板で覆った小屋での生活を余儀なくされ、容疑者の家の30歳の長男も、これが原因で結婚できなかったことが動機とされる。

容疑者はこの問題について複数の政府部門に苦情を申し立て、メディアに助けを求めてきた。インターネットにも投稿し世論に訴えたが、誰にも相手にされなかったという。

メディアの報道によれば、容疑者の人物像について地元住民は「親切で多くの善行を積んだ正直者。海に飛び込んで溺れた子供を助けたこともある」と口をそろえて言う。

中国では近年、長年いじめられてきた「おとなしく温厚だった」といわれる村民が、ある日突然いじめる側(たいていは村の権力者)一家を皆殺しにする事件が各地で起きている。

その背景にあるのは、権力とカネがあればいくらでも被害側を抑圧・弾圧できる腐敗問題と、カネも権力もない側は法的に訴えても、たいていの場合はかなわない絶望的な状況がある。

本来正義の味方である警察も、裁判官も、悪人側についた時、庶民は絶望して、自らの手で正義を貫くに至るしかない、そんな悲しい現実がいまの中国社会にある。

 

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李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
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