広東省の小さな家具工場で、李さん(仮名)は家族と共に数十年間、誇りを持って家具を作り続けてきた。この工場は地域の雇用を支え、多くの家族の生活を守る重要な存在であった。
しかし、最近になって状況は一変した。生産コストの上昇と競争の激化により、工場の経営は厳しさを増している。原材料の価格は上昇し、労働力の確保も難しくなってきた。さらに、輸出競争の激化により利益率も低下している。
「このままでは工場を維持するのが難しくなるかもしれない」
と、李さんは語る。彼の声には、不安と疲れがにじんでいた。李さんの工場が直面している困難は、中国全体の経済状況を象徴しているという。
急速な経済成長の陰には、様々な歪みが潜んでいたのである。
過去40年間、中国経済は急速に成長し、アメリカやヨーロッパからの投資と技術、安価な労働力、そして巨大な国内市場に支えられてきた。その結果、アメリカの製造業は中国に移転し、多くの製造業従事者が、職を失った。
2001~18年の間に、アメリカ国内で370万以上の製造業の職が、中国に移転したと推定される。この大規模な産業のシフトは、アメリカ経済に多大な影響を与え、特に中西部の工業地帯では地域経済が大打撃を受けた。
一方、中国では中産階級が台頭し、1979~2014年、貧困救済も進展した。かつて中国共産党員だけで構成されていた上流階級に、ビジネスマンやテクノロジーの巨頭など新興の富豪たちが加わった。
労働者を讃えていた中国共産党(中共)は、いつの間にか富裕層の政党となり、習近平は「中国で前例のない成長を遂げた」と誇っていた。
しかし、その時代は終わりを迎えつつある。新型コロナウイルスのパンデミックと長期的な封鎖政策が引き金となり、経済は急速に減速している。
中国の経済構造が抱える問題は多岐にわたる。生産コストの上昇、過剰な競争、そして世界経済の変動により、多くの中小企業が厳しい経営環境に追い込まれている。自国民に対する暴力的な搾取、外国資本と技術の依存、不動産市場の歪み、そして腐敗に基づく経済は、やがて限界を迎えることとなった。
西側諸国はもはや中国の「公正な貿易」を信じず、経済的リスクを低減するために「ディリスク(リスクを小さくすること)」を検討している。中国の先端産業建設に寄与したアップルのような大企業が撤退し、多くの企業も離れている。
中国共産党は政策の失敗を認めないが、中国の人口、経済、中産階級の規模が縮小しているのは現実である。これらの失敗は外国のリスク回避ではなく、共産党の政策が直接の原因なのである。
インドの台頭
近年、中印両国は国境問題を巡って、度重なる衝突を経験している。特に2020年6月には、ラダック地方のガルワン渓谷で両国軍が衝突し、インド側は20人の兵士が犠牲となった。中国側にも犠牲者が出たが、中国政府は具体的な数字を公表していない。
この国境紛争は両国関係の悪化を招き、インド政府は、国内企業に対して、中共との貿易や投資を控えるよう促している。さらに、インドは国内で多くの中国製アプリを禁止し、中国市民へのビザ発給を減少させるなど、積極的に外国企業の事業を、中国からインドへ誘致するための政策を打ち出している。
中国経済が低迷する中、インドやベトナムといった国々が反射的に利益を得ている。特にインドは、中国経済の衰退から最大の恩恵を受ける立場にある。
インドは次なる「世界の工場」として最適な位置にあり、人口が増加し、多くの人々が高学歴であり、西洋文化にも親しみを持っている。経済構造も先端技術、顧客サービス、自動車産業などが確立されている。
グローバル資本は既にインドのコンピューター産業や自動車産業に大規模に流入している。経済規模は年間国内総生産3兆7千億ドル(約554兆6707億円)で、中国の15兆ドル(約2249兆3850億円)には及ばないが、インドは成長の見込みが明るい。企業は外資に対して敵対的な中国と、ビジネス環境が好ましいインドとの間で転換の機会を模索している。
市場調査会社ワンポール(OnePoll)が最近実施したアメリカ経営者500人を対象とした調査によると、「インフラが整えばインドに生産拠点を移転する意向がある」という回答が61%に上った。
インドのインフラはまだ十分ではないが、長期的にはインドが中国の雇用を引き寄せる好ましい兆候が見られる。まず、中国と異なりインドは個人所得が増加しており、国内市場が堅調である。インドの上流階級と中産階級は約4億人に達し、各国の高級商品を消費する市場になり得る。
過去10年間、インド政府は経済と投資環境を改善し、企業に優しい国を目指した構造改革を推進してきた。国全体を対象としたデジタルイノベーションにも着手しており、世界最大規模のオンライン利用人口を基盤に、低価格の通信料金と統合決済インターフェース(UPI)の普及を通じてオンライン経済を急速に成長させている。
西洋の「脱中国化」の流れに対して、中国共産党は警戒感を示している。今年2月のミュンヘン安全保障会議で王毅外相は「リスク回避という名目で、脱中国化を試みる者は歴史的な誤りを犯すことになる」とアメリカとヨーロッパの企業に警告した。
しかし、中国の人口、経済、中産階級の規模が縮小しているのは現実である。これらの失敗は外国のリスク回避ではなく、共産党の政策が直接の原因なのである。
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