米大統領選の結果が「EV産業の未来を左右」 意見割れる米両党

2024/09/24
更新: 2024/09/24

アメリカで徐々に需要が拡大しつつある電気自動車(EV)。背景には、自動車メーカーの生産拡大と自動車に対する環境規制の厳格化がある。一方、EV技術に対する懐疑的な声も依然根強い。

EVをめぐる民主党共和党の意見対立は鮮明となっている。そのため、EVの普及が波に乗るかどうかは、11月に控える米大統領選の結果次第だ。

過去4年間、民主党政権はアメリカにおけるEVの需要拡大に注力してきた。

最も大きな動きとして、連邦政府は今年3月に規制強化を行い、自動車メーカーおよび販売業者に対して2032年までに新車の半数以上をEVあるいはハイブリッド車で占めるよう求めた。しかし、現在販売されている自動車の大部分はガソリンエンジンを採用している状況だ。

比較的好調な売れ行きを見せた2020年と2021年に対し、今年に入ってアメリカにおけるEV販売ペースは減速傾向にある。フォードやGM(ゼネラルモーターズ)、トヨタを含めた大手自動車メーカーはEVの販売台数を縮小している。要因として、アナリストらは、北米における需要の過大評価が背景にあると指摘した。

一方、中国ではEVの普及が加速し、EVの利用および生産において世界をけん引している。業界の動向予測では、廉価化と生産モデルの多様化に伴い、世界全体のEV需要は今後数年間伸び続けると予想されている。

トランプ前大統領を候補者として擁する共和党は大統領選に向けた政策綱領の中で、トランプ氏が当選し下院で過半数の議席を獲得した場合、現政権が施行したEV義務化の行政命令を撤回すると約束した。一方の民主党は、現行のエネルギー・環境政策へのコミットメントを示唆しており、ハリス副大統領が当選し議会で過半数を占めた場合には、政策方針を維持するとしている。

ドイツの金融大手、アリアンツ社は3月に公表した報告書で、「来る大統領選挙は極めて重要な意味合いを持ち、今後のアメリカ自動車産業におけるEV化の流れを左右するだろう」と述べている。
 

アメリカが熱狂したEVブームに陰り

アメリカエネルギー情報局によれば、2019年を境にEVやハイブリッド車、プラグインハイブリッド車への需要が急速に拡大した。今年6月時点で、販売された普通乗用車のうち18.7%はEVもしくはハイブリッド車が占め、バッテリーEVのみの割合は7.1%となっている。
 

2023ワシントンDCオートショーに展示されたトヨタ社の新コンセプトカー「LQ」と「i-ROAD」(Alex Wong/Getty Images)

アメリカ自動車マーケティングのサービスを提供するコックス・オートモーティブで業界洞察を担当するステファニー・バルデス・ストリーティ氏は、EV販売台数120万台を記録した2023年と比較して2024年は売り上げが失速すると見ている。

「(2024年も)EV需要は依然として増加傾向にあるが、ここ数年間の伸び率には及ばないだろう」

業界アナリストのレベッカ・リンドランド氏はエポック・タイムズの取材に対し、近頃の市場の動きは需要の正常化を示唆していると述べた。

先行注文が盛んだった時期は過ぎ去り、EVは現在他のガソリン車と並んで販売されている。リンドランド氏は、EVが顧客を獲得するには価格と利便性の面において市場に出回るすべての自動車と競争する必要があると指摘する。

米中古車販売サイト「iSeeCars」で主席アナリストを務めるカール・ブラウアー氏は取材に対し、EVの価格低下と販売期間の長期化は、EV市場が「飽和状態」に至ったことを意味しているとの見方を示した。ブラウアー氏は、「過剰供給と需要不足」の問題が生じたため、「販売業者はEVの販売不振に苦悩しており、自動車メーカーに販売の手助けを求めているほどだ」と語った。

専門家の分析によれば新車EVの平均価格が5万6千〜6万ドル(約800万〜約860万円)で推移しており、アメリカの一般市民が自動車を購入する際の平均予算(約430万円)を大きく上回る。

ブラウアー氏は、自動車産業が消費者のEV需要を極めて楽観的に予測し、過剰な生産投資が行われたことが原因だと推測している。自動車メーカーは現在、生産縮小や一部計画の中断、投資の延期などの対応を行っている。

8月、米自動車大手フォードは採算が見込めないとして、3列シートの大型多目的スポーツ車(SUV)の開発中止を発表した。フォードは今後、年間投資額の4割を見込んでいた「純電気自動車」への支出を3割へ縮小するとしている。
 

ニューヨーク証券取引所の入り口に展示されたフォード製のEVピックアップトラック(Spencer Platt/Getty Images)

7月、米EV大手テスラが第2四半期の決算を発表し、上半期の最終利益が前年同期比で約5割減の26.49億ドル(約3818億円)となった。テスラは「売上単価の低下」が収益減少の原因だと説明している。

3大自動車大手のうち、EV事業に関連する決算を公開しているのは世界2位のEV販売台数を誇るフォードのみだ。米大手ゼネラルモーターズと多国籍大手ステランティス(クライスラー、ダッジ、ジープ、ラムなどのブランドを保有)は詳細な内訳を公表していない。

フォードが7月に公表した第2四半期の決算によれば、「フォードモデルe(EV事業)」における2024年上半期の税引前利益は24.6億ドルの赤字となり、前年同期比マイナス18億ドルを計上。関連会社を含めたフォード全体では31.6億ドルの黒字となった。
 

EV業界の揺らぎに政局あり

3月、アメリカ環境保護庁は温室効果ガスおよび大気汚染物質の排出基準に関する規制を改訂した。同規制は、2030年までに新車販売台数に占めるEVの比率を50%以上に引き上げるよう要求するもので、2027年から数年間の過渡期を経て厳しい環境基準が採用される。

7月の民主党全国大会で承認された政策綱領では、新車EV購入に対して最大7500ドル、中古EVに対して最大4000ドルの税金控除措置を打ち出したことで、「EV売上を4倍へ引き上げた」として、「インフレ抑制法(IRA)」の成果が強調されている。

連邦政府は、2022年に成立したインフレ抑制法を通じて将来的に170億ドル以上の予算を投じ、50万に上る充電ステーションの設置、運輸部門の脱炭素化の支援、スクールバスの購入、そして「国内の製造業者がEV用リチウムイオン電池の製造で必要な重要鉱物および部品の調達を保証する」ことができるとしている。

ピート・ブティジェッジ米運輸長官は5月のテレビインタビューで、建設中の充電ステーションは「ほんの一握り」しかないと明かしている。一方、インフレ抑制法およびその他気候変動イニシアティブから供給される資金によって、2030年までに目標を達成できるとも話した。

米運輸省は8月、5億2100万ドルを投じて9200か所以上の充電ステーションの設置を進めると発表。当時、すでに設置されている充電ステーションの数は19万2千か所。

ハリス陣営の広報ディレクターを務めるアムル・ムーサ氏は8月に報道陣に向けて、ハリス氏は「EV義務化を支持していない」とコメントした。

一方ハリス氏は2019年に上院でエドワード・マーキー議員らとともに「グリーン・ニューディール」決議案を提出している。同議案は、排出ガス削減を目的としたEV普及を求めるものだった。ハリス氏は8月のテレビインタビューでグリーン・ニューディールについて聞かれた際、「考えは変わっていない」と明言している。

ハリス氏は自身の選挙キャンペーンサイトで、「きれいな空気を吸い、きれいな水を飲み、大気汚染による気候変動から脅かされない生活を守るために戦い続ける」と表明した。

一方で、トランプ氏は共和党全国大会において、「大統領就任1日目にEV義務化を撤回する。窮地に陥った米自動車産業を救い、消費者の負担を大幅に軽減する」と話した。
 

シカゴの民主党大会に出席する代議員ら(Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

 

ミルウォーキーの共和党大会でドナルド・トランプ元大統領の話を聞く代議員(Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

米選挙がEV業界の岐路に

仮に11月の大統領選挙で民主党が勝利した場合でも、EV促進政策は規模が縮小するか、後ろ倒しになるだろうとブラウアー氏は指摘する。現状、アメリカの一般消費者の間のEV需要は当初の予測を下回っている。

ブラウアー氏は、「アメリカ市民の需要を真剣に考えた時、彼らにはEV義務化を求めるほどの強烈な購買意欲はない」「これは否定できない事実だ」と話す。

ドイツ金融大手アリアンツ社は報告書で、共和党に政権交代した場合、トランプ氏はEV促進のための予算を見直しガソリン車製造へ資金を投じると予測している。「国際的なEVメーカーとバッテリー製造業者は対米投資のインセンティブを失うだろう。アメリカ国内の自動車メーカーにとってはEV事業のさらなる縮小を意味する」と述べた。

これまで海外の自動車メーカーおよびバイヤーは、インフラ抑制法をはじめとする奨励政策によりEV販売のインセンティブを獲得し、対米投資を進めてきた。

テスラのイーロン・マスクCEOは7月にX(旧Twitter)上でトランプ氏への支持を表明した。リンドランド氏は、マスク氏の支持が第2次トランプ政権の反EV姿勢を緩和させることにつながりうると述べた。

業界分析を行うバルデス・ストリーティ氏も、充電ステーション設置への公共投資を止めることは将来的なEVの成長を間違いなく阻害すると指摘した。

EV普及の最も大きな課題は充電スタンドの普及率だ。ガソリンスタンドと比較してEV用充電ステーションの設置数はあまりにも少ない。設置数が増えてもその多くが都市部に集中するという問題がある。
 

2023北米国際オートショーに展示された充電ステーション(Matthew Hatcher/AFP via Getty Images)

米コンサル大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーが6月に発表した市場調査の結果では、アメリカ国内のEVドライバーのうち49%が「ガソリン車に戻りたい」と答えた。世界規模ではEV利用者の35%が充電インフラの低さを指摘し、24%が自宅に充電ステーションに設置しておらず、21%は充電に「ストレスを感じる」と回答した。

11月の大統領選挙の結果に関わらずEVがガソリン車と競争するためには、メーカーによるコストカットに加え、公共充電ステーションの設置が急務となる。

バルデス・ストリーティ氏は「EVにはパリティ価格を要する」と指摘したうえで、「消費者に対して公正な価格、適切な品質、そしてしかるべき体験を保証すべきだ」と述べた。

リンドランド氏によれば、自動車メーカー各社は目下製品構成の面において努力を重ねている。バッテリーEVのピックアップトラック、SUV、高級車などバリエーションに富んでおり、一般消費者の需要に応えようとしている。

調査によれば、EVのオーナーはおしなべて経済力があり、ガソリン車を含め複数の自動車を所有していることが多い。一方、一般市民にとって車の購入ハードルは上がっている。

ブラウアー氏は、「支払った金額の見返りを求める市民に対して、最も高価で、最も走行距離が少なく、最も1マイルあたりのコストが高い車両を購入しろと言うのは無理がある」と述べた。

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