悲しみ、抑うつ、不安、裏切り、人類が滅亡するかもしれないという感覚は、特に世界中の子供や若者に影響を与えていると言われている。
これらの負の感情を引き起こす原因は、戦争や社会不安、政治、犯罪の増加などだけではない。近年、「気候不安症」と呼ばれる現象もあり、米名門私立大のイェール大学によれば、「気候不安症」とは、地球温暖化や環境破壊などの地球の危機的状況に対する不安感や無力感、絶望などの心理的ストレスを指している。
「気候不安症」を専門としたカウンセラー、メリッサ・ポリー氏は「科学者やメンタルヘルスの専門家は、気候不安が今後も増加し、来年にはメンタルヘルスにおける最大の問題の一つになるという意見で一致している」と明かした。
また「気候不安の症状は他の不安と似ている場合があるが、気候不安は地球の危機的状況とそれに対する自分たちの役割に対する無力感や絶望感に根ざしていることが多い」と指摘した。
気候不安の増加の要因については、ポリー氏は自然災害の増加や地球温暖化への対処に関するマスコミの報道による影響があるとの見方を示した。
CO2コアリションのメンバーであり、ドキュメンタリー映画『Climate:The Movie』のプロデューサーであるトム・ネルソン氏も、マスコミの報道が気候不安を助長している可能性が高いと述べるとともに、気候変動に関する誇大宣伝が科学的根拠を超えていると述べた。
トム・ネルソン氏は、1989年に米スタンフォード大学教授で、地球温暖化問題の世界的権威である故スティーブン・シュナイダー氏が「公然と語るべきではない事柄を声に出した」と言っている。
シュナイダー氏は、気候学者は倫理的に「真実を、そしてすべての真実を、疑念や留保事項、条件付きのことまで含めて伝える義務がある」と述べた。同時に、「壊滅的な気候変動のリスクを軽減したい」ため、世論の支持が必要であると指摘。
「もちろん、それにはマスコミの大きな注目が必要である。だからこそ、我々は恐ろしいシナリオを提示し、簡潔で劇的な発言をし、あまり疑念には触れないようにする必要がある」とシュナイダー氏は述べている。
トム・ネルソン氏は、こうしたシュナイダー氏の考えが具現化し、現在に至るまで確実に続いていると述べた。「若者たちに不安を増幅させ、気候変動問題を解決するためのアクションを喚起している」と付け加えた。
行動の変革
2021年に世界的医学誌の「ランセット」誌が発表した調査によれば、10か国1万人16~25歳の若年層に対して気候変動に対する感想についての質問を行った結果、59%が「非常にまたは極度に心配している」と答え、75%が「未来が恐ろしい」と述べた。さらに、半数以上の回答者が、政府が気候変動に対処するための適切な行動を取らなかったことで失望していると感じていると答えている。
ランセットの調査は、アメリカに本拠を置く非営利団体「アヴァーズ」が後援。同団体のウェブサイトには「献身的な人々による、通常は見えない場所での緻密な努力によって、公の叫びを導き、大きな決定に影響を与える」と説明されている。
ランセットの調査の翌年、学術雑誌『環境心理学研究』は、気候不安を「重大な心理的負担」と表現。そのうえで、「気候不安は必ずしも気候変動による悪影響や不適応な反応ではなく、少なくともある程度までは効果的な行動を促す動機づけが可能性がある」と述べている。
この研究の著者であるロレイン・ウィットマーシュ氏は、「気候不安は行動を促す重要な動機となる可能性があり、行動を取ることは不安を抑えるための有効な対処手段でもある」と述べている。
また、この研究は、欧州連合(EU)の研究・イノベーション枠組みプログラム「ホライズンヨーロッパ」から資金提供を受けており、「ホライズンヨーロッパ」の戦略計画は、2025年から2027年にかけて、気候変動に対処し、グリーン・トランジションを促進することを目指している。
米ペンシルベニア州立大学の研究者らも昨年に独自の研究を発表し、「気候変動に関する恐怖を煽るニュース」が人々にどのような影響を与えるかを調査した。
研究を行ったジェシカ・マイリック氏は、「我々の調査結果は、人々が気候変動に関する悲観的な報道に慣れており、彼らが行動を起こすためには日常的に報道されることが重要であることを示唆している」と語っている。
「これは『アジェンダ設定効果』と呼ばれるもので、あるトピックの重要性が報道する際の言及量・頻度により決定づけられる現象である」と彼女は説明している。
昨年5月、学術雑誌『ジャーナル・オブ・ヘルス・コミュニケーション』は、メディアが気候変動にどのような影響を与えるかを440人の大学生を対象とした横断的調査を実施している。
この調査では、「言及頻度と気候変動への注目度が、気候不安を引き起こす重要な要因であることが明らかになった」と結論付けられている。
この研究を行ったエマニュエル・マドゥネメ氏は、「メディアは気候変動のような問題に対する共通の認識を形成する上で重要な役割を果たしている」と述べ、「メディアが若者を含む視聴者のメンタルヘルスに与える影響に細心の注意を払うべきである」と強調している。
マドゥネメ氏によれば、気候不安と気候不安に対するアクションには曲線的な関係があり、低から中程度の不安は気候変動に対する予防的および適応的な行動を取るようになるが、不安が高すぎると人々は無気力になることがあるとしている。
「リベラル派の回答者はエコ不安に陥りやすく、環境保護行動を取る傾向が強い」と指摘している。
アメリカの大手シンクタンク、ブルッキングス研究所が行った最近の研究では、気候報道が2012年以来300%増加し、過去5年間で最も顕著な増加が見られたことが明らかになっている。
気候不安症にどう向き合うべきか
ポリー氏は、気候不安はコントロールできないという感覚から生まれることが多く、孤立感や圧倒される感覚を伴うため、個別で対応すべきだと指摘した。
そのうえで、治療の一環として、通勤時に自転車を使用したり、「気候カフェ」に参加したり、自然と触れ合ったり、ボランティア活動を行うなど、地球に貢献する行動を提案している。
「エコ不安に対処する際には、自分の感情を認め、このような感情を抱いているのは自分一人ではないことを常に意識することが重要である」と述べた。
ウィットマーシュ氏は、エコ不安は稀であり、「日常生活に支障をきたさない限り、治療する必要はない」と主張している。彼女の研究は気候不安が通常は軽度であり、大きな問題ではないことを示していると述べている。
「より重度の場合、臨床医は典型的な不安管理訓練を提案することがあり、自分自身のケアや否定的な考えをコントロールすることが含まれるが、気候不安に対しては、気候行動グループに参加することが有益である可能性がある。これは社会的な支援を提供し、集団行動を通じてより多くのことを達成しているという感覚を与えることができる」と述べている。
マドゥネメ氏もウィットマーシュ氏に同意している。「気候変動について心配するのは理にかなっており、必ずしもネガティブなことではない。気候変動による環境への影響について不安を感じるなら、その感情は有用であり、あなたが環境を大切にしていることを示している」と彼は述べている。「気候不安は真剣に受け止められるべきだが、それは環境に対する関心と配慮を示す重要な反応であるという心構えが必要である」と彼は語っている。
一方、ネルソン氏は、エコ不安は時間とともに自然に減少すると考えている。
「私は、エコ不安に理由がないことを示すために、できる限りの機会を利用すべきだと考えている」と述べ、「データを見せれば、人々は安心するはずだ」と指摘した。
「恐怖を煽るキャンペーンは確実に失敗する運命にある」「子供たちを怖がらせるのは簡単だが、COVID-19の嘘を見抜いた大人を怖がらせるのは簡単ではない。その船はもう出航したと思う」と語った。
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