オピニオン 理論背後の誤謬を正す?

多様性ポリシーに逆風 米企業のDEI体制は終了する

2024/11/27
更新: 2024/11/27

多様性ポリシー

  1. ジェンダー平等
    • 女性のリーダ性別に差別無し
  2. インクルージョンの推進
    • LGBTQ
  3. 国際的な視点
    • 異文化理解
    • 外国人社員の雇用
  4. 障害者の雇用促進
    • 職場のバリアフリー

トランプ新政権は、企業に対し人種や性別に基づく雇用制度を廃止するよう新たな圧力をかける可能性があると、資産運用者の連合はアメリカの大手企業に対する警告の中で述べた。

先週、保守的な資産運用会社 58 社、州財務長官、非営利団体が、1千人以上のアメリカ企業の最高経営責任者 (CEO) に公開書簡を送り、従業員や請負業者にどの程度、DEIのポリシー、多様性(Diversity)公平性(Equity )包括性(Inclusion )をビジネス活動で課しているかを株主に開示するよう要求した。

公開書簡の著者らは、このようなプログラムは、従業員、売上、株価に悪影響を与え、公民権法(差別、人種、宗教、民族、その他の差別を排除し、すべて国民に平等な権利を保障するために制定された法律)に違反していることが判明した場合は、法的責任を問われるリスクの可能性があると述べている。

州財務役員財団のCEOで公開書簡に署名した1人であるOJ オレカ氏は、ESG、つまり環境(Environmental)、社会(Social)、統治・支配・管理(ガバナンス・Governance)の原則にも言及しながら「これらの企業が、DEI-ESG体制が終焉を迎えつつあることを認識し、理解することが重要だ」と述べた。

「DEI、それが提供する体制は、まったく非アメリカ的だ」とオレカ氏は語る。

「これは、私たちが国として支持する価値観にそぐわないのだ。この国は実力主義の国であり、社会は法の支配によって機能する必要があるという既存の価値観にそぐわないのだ」

DEIプログラムをめぐっては、「2023年の公正な入学を求める学生団体」対「ハーバード大学」の訴訟で、アメリカ最高裁判所が公的資金で運営される学校は、人種や性別に基づいて差別することはできないという判決を下し、判事が多数意見で「人種差別をなくすということは、人種差別をすべてなくすということだ」と記したことで、大きな衝撃を受けた過去がある。

法律アナリストらは、アメリカの公民権法は民間企業にも適用されているが、トランプ新政権がこれらの法律の施行に反して、さらに厳しい姿勢を取ると予想されている。

「選挙結果は、アメリカ企業内のDEIプログラムと実践を本当に縮小し、終わらせるための出発点になると思う」と、アライアンス・ディフェンディング・フリーダム(ADF)の企業エンゲージメント担当上級副社長、ジェレミー・テデスコ氏は述べた。

「トランプ政権は、その道を進み続ける企業に、おそらく深刻な法的および評判上の結果をもたらすだろう」

ほとんどの企業は人種に基づいたプログラムを持っている。

書簡で引用されている上述のADFの調査によると、調査対象となった企業の91%が、従業員研修プログラムに、批判的人種理論の概念を取り入れており、58%がベンダー(販売業者、売り手)にDEI要件を課していた。

しかし、アメリカの公民権法第 7 編によれば、民間企業は人種、肌の色、宗教、性別、国籍に基づいて従業員や顧客を差別することを禁じている。アメリカ連邦取引委員会は、「第 7 編の保護は、採用、選考、解雇、雇用条件に関するその他の決定を含む、雇用に関する決定の全範囲を網羅している」と 述べている。

バイデン政権が公民権法第 7 編違反の可能性を追及するのを控える一方で、多くの州は行動を起こすと警告している。2023年7月、13州の司法長官は 、フォーチュン100社のCEOに書簡を送り、「『多様性、公平性、包括性(DEI)』というラベルの下であろうとなかろうと、人種に基づく差別を控えるという連邦法および州法に基づく[雇用主としての]義務」に言及した。

次期大統領ドナルド・トランプ氏は、バイデン政権の「連邦政府職員のあらゆる部分で多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティ(利用のしやすさ)を推進する政府全体の取り組み」を撤回すると公約したことで、選挙人投票と一般投票の両方で圧倒的勝利を果たした。現在、保守派の株主らは、この問題に対する企業のリーダーたちの立場を、株主に対して、明確にするよう求めている。

「私たちは企業リーダーに対し、その企業の株主に必要な透明性を提供するよう求めている」と、書簡に署名したボウヤー・リサーチのジェリー・ボウヤー社長は述べた。「これらの幹部は、有権者が投票で拒否したこのDEI-ESG体制と、まさに同じで有害な分裂を招く政策提言を続けるつもりなのか?」

バイデン政権は、連邦政府と軍全体でDEIプログラムを実施することに加え、民間企業にポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)の課題に賛同するよう促し、農家に対して人種に基づく補助金の実施を試み、また、従業員退職所得保障法の基準を変更して、民間年金が退職者貯蓄の投資基準に、これまで副次的であったESG(環境・社会・ガバナンス)を含めることができるようにした。

トランプ氏は、最初の任期中にこの後者の慣行を禁止し、年金管理者に収益の最大化のみを目的とした投資を義務付けており、2期目には政治化された投資の禁止を復活させる可能性があるという。

企業が進歩的な大義に固執することは、多くの場合、経済的に高くつくことも証明されている。例えば、ウォルト・ディズニー・カンパニーは、2022年にフロリダ州のロン・デサンティス知事との1年間に及ぶ多額の費用がかかる戦いに突入したが、同知事は、教師が3年生以下の児童と性的な話題について話し合うことを禁じた同州の親の権利法に、ディズニーワールドリゾートが公然と反対した後、同リゾートの受益者資格を取り消したという経緯があった。

同様に、ターゲット社とバドライトビールの醸造元であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ社も、進歩的な運動に取り組んだことで消費者の反発に直面した。ハーバード・ビジネス・レビュー誌がバドライト社のトランスジェンダー宣伝キャンペーンについて行った調査では、「論争後の3か月間で、バドライト社の売上と購入件数は、前年同期比で約28%減少した」と報告されており、共和党と民主党のそれぞれの優勢郡で売上が減少したという。

結局、株価が暴落し、その代償を払ったのは株主だったという話だ。
 

一部の企業がDEIプログラムを中止

その結果、多くの企業がこのDEI-ESG体制の進歩的な大義への取り組みを再考している。今年、DEI プログラムを再検討または中止すると発表した企業には、フォード、トラクター サプライ、ジョン ディア、ハーレー ・ダビッドソン、ポラリス、インディアン ・モーターサイクル、ロウズ、トヨタ、モルソン・クアーズなどがある。

「ビジネスリーダーは、一部の人だけではなく、すべてのアメリカ人の意見を本当に尊重していることを示すべき時が来ている」とボウヤー氏は述べた。「ビジネスリーダーはあまりにも長い間、偽りの『包括性(Inclusion) 』に甘んじてきたが、結局は国民の半分以上を排除することになったのだ」

ESG運動は2004年に始まり、国連の17の持続可能な開発目標に、民間企業を参加させるという国連のイニシアチブに端を発しているが、このアジェンダには、人種、性別、経済的平等のほか、化石燃料の使用削減などの気候目標も含まれていたのだ。

この理論は、コンサルティング会社マッキンゼーの「なぜ多様性が重要なのか」「多様性を通じた成果」「多様性は勝利する」「多様性はもっと重要」といった研究によって裏付けられたようになっており、女性を多く雇用したり人種的に多様性のある企業は「財務的に優れた業績を上げる可能性が著しく高い」と主張していた。これらの報告書は、企業だけでなくバイデン政権からも、従業員向けに人種や性別に基づくプログラムを実施する根拠として引用されていた。

しかし、  3月にEcon Journal Watchが発表した研究では、S&P500指数の企業のパフォーマンスを追跡し、企業の人種的多様性と売上高、利益、株式のパフォーマンスとの間に、統計的に有意な関係は見つからなかったというのだ。

テキサスA&M大学のジェレミア・グリーン会計学教授とノースカロライナ大学のジョン・ハンド会計学教授が執筆したこの報告書は、マッキンゼーが使用した手法について「誤りであり、アメリカの上場企業が、幹部の人種的/民族的多様性を高めれば財務パフォーマンスが向上すると期待できるという見解を裏付ける関連性はなかった」と結論付けている。

気候変動対策の課題に関しては、世界最大手の銀行、保険会社、資産運用会社の多くが、ネットゼロ・バンキング・アライアンス、ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス、ネットゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアチブなどの国連後援組織に加盟し、株主や資金提供者としての影響力を使って、企業に進歩的な大義に賛同するよう促すことを即したが、

共和党支持の州司法長官らは、これらの同盟がアメリカの反トラスト法に違反しているとして、措置を講じる可能性を示唆している。それを受けてか、ネットゼロ保険同盟(インターネットおよびその基盤が実現する温室効果ガス(GHG)排出量を削減し、2050年までに「ネットゼロ」をめざす)は、法的リスクを理由にメンバーの半数以上が脱退し、4月に解散したという。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。