国防総省は、冷却能力の不足によって引き起こされるF-35の慢性的で重大な過熱問題に関して、難しい決断を迫られている。
アメリカの納税者は、ステルス戦闘機の現在の冷却需要に対応するための高額な改良費を負担すべきなのか、それとも将来的に増加する可能性のある冷却需要に理論的に対応できる、さらに高額な改良費を負担すべきなのか?
国防総省が直面する2つの選択肢を簡単に説明する前に、なぜF-35にとって冷却能力が重要なのか、なぜ世界史上最も高価な兵器システム計画が、最初から冷却が不十分な機体を生み出す運命にあったのかを見てみよう。
戦闘機のアビオニクス(航空電子工学)、レーダー、その他の電子機器ベースのシステムは熱を発生するため、十分な冷却能力を持つことは極めて重要である。空冷は常に冷却ソリューションの一部ではあるが、最近の戦闘機は比較的狭いスペースに多くの熱を発生する電子機器を詰め込んでいるため、空冷だけでは不十分である。
特に電力を大量に消費するレーダーには、さまざまなタイプの液冷が必要である。F-35は、熱を発生するコンピューター、通信機器、アビオニクス機器を詰め込んだ空飛ぶスーパーコンピューターと宣伝されている。熱の発生に関しては、その強力なAN/APG-81 AESAレーダーが主な原因となっている。
要するに、F-35が大げさに宣伝されている性能を発揮し、世界最高の戦闘機となるためには、大量の熱を生み出す大量の電子機器が必要だということである。
優れた戦闘機という主張の正当性はともかく、F-35の設計者が当初から冷却が不十分な戦闘機を設計したことは間違いない。このほぼ解決困難な問題は、新機能が追加されるにつれて悪化しており、より多くの計算能力を必要とし、より多くの熱を発生させている。
特に、F-35が第5世代戦闘機として優位に立つという長年の約束を果たすために必要だと言われているブロックIVの新機能群には、さらに大量の冷却が必要となる。
冷却危機の根底にある問題は、F-35の設計チームが14キロワット(kW)の冷却能力しか持たずにF-35を設計したことである。しかし、F-35が完全な運用を宣言されたのは、ブロック3Fの機能が組み込まれてからだった。
この機能は、およそ32キロワットの冷却能力を必要とするもので、F-35統合打撃戦闘機の開発が始まってから約30年後、つい最近公開されたばかりだ。
ブロック3Fのアップグレードでは、F-35の冷却システムを変更する必要があり、その事は、すでに信頼性の問題に苦しんでいたF-35のF135エンジンの寿命と信頼性に悪影響を及ぼした。
では、なぜF-35の冷却能力は当初、それほど低スペックだったのだろうか?
この質問への答えは、委員会による設計プロセスから生まれた航空機を悩ませてきた多くの問題に対する答えでもある。
本来、F-35はF-16やF/A-18AおよびCホーネットの低コストで比較的軽量な後継機として、またF-22や海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネットのような大型で高価な戦闘機を補完する機体として設計されるはずであった。
結局のところ、F-22やF/A-18E/Fのような大型双発戦闘機を比較的低コストで軽量に補完するはずだったものが、こうしたプロセスで、多くの双発戦闘機よりも重い単発戦闘機になってしまった。
F-35の巨大な重量は、プラット・アンド・ホイットニー社がF-22のF119エンジンよりもはるかに高い出力重量比を持つエンジンを設計しなければならなかったことを意味する。F119エンジンは今現在も最先端エンジンである。
それはまた、F-35が1オンス(約28グラム)たりとも無駄にすることのない劇的な軽量化プログラムを受けなければならなかったことを意味する。プラット・アンド・ホイットニーは、これまでの量産戦闘機用エンジンの常識をはるかに超えて作動温度を上げることで、パワーを得ることに成功した。
しかし、時が証明したように、タービン入口温度が華氏3600度(摂氏 約1982℃:他の多くのジェット戦闘機用エンジンより900度から1100度高い)という非常識な高温になったことで、エンジンの信頼性と寿命に問題が生じることが確実となった。
F-35の能力がアップグレードされるたびに必要な出力が増えるため、より多くの冷却が必要となり、F-35エンジンはより大きなストレスにさらされることになる。
このことはF-35の設計チームも理解していたはずであるが、F-35エンジンの作動温度を限界領域まで高めることによってのみ可能となるエンジン出力の大幅な向上がなければ、F-35計画は水泡に帰し、何かのために重量を追加することも計画を深刻に危うくすることも理解していた。
その結果、F-35の冷却能力をアンダースペックにするという決定が下された。合理的な成長を可能にするために十分な冷却能力をF-35の設計に組み込むと、重量が増加し、すべてのF-35派生型の航続距離とペイロードが低下することになるからである。
特に、海兵隊の垂直離着陸(VTOL)可能なF-35は、重量が増加すると、航続距離とペイロードの組み合わせが最低許容性能パラメータを下回る恐れがあった。
本当のことを言えば、F-35に詰め込まれた能力は、2発エンジンの設計であれば理にかなっていた。しかし、F-35を双発設計に変更することは、F-35がF-16の低コストの代替になるという幻想を即座に払拭することになるため、見送られた。同様に重要なのは、海兵隊向けの双発垂直離着陸(VTOL)F-35の設計がなかったことである。
その結果、F-35は、経験豊富な航空宇宙エンジニアであれば、将来の冷却ニーズを満たすと主張することはできなかったほど、冷却能力が不足し、信頼性の低い運命にあるエンジンを搭載してリリースされた。
これにより、短期的には高価な解決策を選ぶべきか、それとも長期的にはさらにコストがかかる冷却ソリューションを選ぶべきかという疑問に立ち戻ることになる。
販売の観点から言えば、これは国防総省が私たちに注目してほしいと考える2つの前向きな選択肢のうちの1つである。しかし、提示されている選択肢にコミットする前に、現在のF-35エンジンが約束よりも早く消耗していることを考えてみよう。信頼性のあるエンジン制御ユニットの設計が完了するのは2029年である。
また、維持費を含めたプログラム費用は現在2兆ドル(約309兆円)を超えると予測されており、2007年のGAO(米国政府監査院)の見積もりよりもインフレ調整後のドルで400%増となる。さらに、過去に何度もあったように、コスト見積もりは再び膨らむ可能性がある。
最後に、2029年に納入予定のプラット・アンド・ホイットニーによる切実に必要なエンジンコアのアップグレードが、予定通りに納入される保証も、それが実際にF-35エンジンを信頼性のあるものにする保証もない。
その結果、F-35プログラムのリスクとコストのレベルは高まるばかりであることを考えると、既存のF-35をある程度妥当なレベルの信頼性で飛行させるための創造的な方法を考えるべきかもしれない。新たなF-35を製造する前に、電力や冷却の増加を必要としないハードウェアとソフトウェアの機能を注意深く選択することを検討すべきである。
これを成し遂げることは重大な成果となるだろう!
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