朝鮮半島 未熟な民主主義?

韓国「大統領の呪い」歴代大統領の悲劇的な末路 その背景にある複雑な構造

2024/12/25
更新: 2024/12/25

韓国では歴代大統領の多くが退任後に不正追及やスキャンダルに巻き込まれる「大統領の呪い」とも言える現象が繰り返されている。インド太平洋戦略シンクタンク特別顧問、開南大学国家発展研究センター主任の陳文甲氏は、この現象の背景について、韓国の政治文化や制度的な問題、国際的な要因が絡み合った結果だと指摘した。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と戒厳令の背景

12月14日、韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案が国会で可決され、大統領は職務停止となった。3日に、尹大統領は「非常戒厳」(いわゆる戒厳令)を宣言した。これにより、国内外で議論が巻き起こっている。

陳氏は、「尹大統領が戒厳令を発表した背景には、政治的対立、外部からの安全保障上の脅威、そして家庭にまつわるスキャンダルの影響という三重の圧力があった」と分析する。

  1. 国内政治の対立
    尹大統領は就任以来、与党が少数派で野党が多数を占める状況に直面している。与党「国民の力」は108議席しか持たず、野党連合は「共に民主党」を含む6つの党で192議席を有するため、国会は野党主導となっている。これにより、尹政権の政策は次々と否決され、政権運営が極めて困難な状態は今も続いてる。
  2. 外部の安全保障上の脅威
    北朝鮮の軍事的挑発やロシアとの協力関係、先進兵器の開発などが韓国の安全保障にさらなる圧力をかけている。戒厳令は、尹大統領が北朝鮮に対する強硬な姿勢を示し、政権基盤を固めるための手段と考えられている。
  3. 政府予算案の問題
    最大野党の「共に民主党」が与党不在の中で単独で予算削減案を可決。これにより、監査院、検察庁、大統領府の特定経費や特殊活動費がすべて削減された。これが尹政権の運営をさらに困難にしている要因となった。

韓国大統領の「呪い」とその原因

陳文甲氏は「菁英論壇」で、「韓国が民主化して以降、歴代13人の大統領のうち、文在寅(ムン・ジェイン)氏を除く全員が国会による調査を受けた」と指摘し、現在の尹錫悦大統領もその例外ではないと述べた。

韓国の歴史上、大統領が良い結末を迎えることが難しいのは、複合的な構造的要因によるものだと陳氏は説明した。

1.未成熟な政党政治

民主政治とは、実際には政党政治のことだ。台湾の国民党や民進党、日本の自民党、アメリカの民主党や共和党が長期的に存在しているのに対し、韓国の政党は、大統領選挙のために一時的に結成されることが多く、選挙後の統治基盤が弱い。

これにより、選挙後の統治や待遇の保障が難しい。今回の与党「国民の力」もその例で、2020年の選挙のために設立したが、選挙後は支援基盤として機能していない。政党の長期的な支援がない状況では、大統領選後の統治や待遇を確保することは非常に難しい。これは韓国政党政治の未成熟部分であり、投機的な性質に基づいていることが、根本的な問題だろう。

2.報復政治の文化

韓国の政治文化には、前政権に対する「報復政治」の文化が根強い。退任後の大統領やその側近が訴追されるケースが頻発している。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)らがその例だ。

今回の戒厳令発表時にも、すぐに野党が調査を始めると表明した。このような「清算」の傾向は、まだ任期中の尹錫悦大統領が内閣や国防部長官を交代させた動きにも表れている。

韓国は保守と革新(進歩)の二大陣営が激しく対立しており、政権交代が起きるたびに前政権の不正が暴かれることが一般化している。

3.強い世論圧力と社会的分裂

国民の大統領への期待は非常に高く、少しでも汚職や不正が疑われる場合には激しい批判や抗議運動が起こる。韓国では、メディアが政治家の不正を厳しく追及する傾向が強く、汚職スキャンダルが大きく報じられることで、国民の怒りが増幅される傾向にある。

4.短期的成果を求める政治構造

韓国の大統領任期が5年の単任制で、再選が認められていない制度も問題だ。任期の後半になると「レームダック化(政治的影響力の低下)」が進み、政権運営が困難になることがある。大統領は政策の短期的な成果を過度に追求し、長期的な安定性を軽視する傾向がある。その結果、期待した政治上の成果が得られない場合、世論の批判が政治的および司法的リスクに転じることが多い。

韓国の大統領は立法・行政・司法にまたがる強い権限を持っている。そのため、周囲の高官や側近が汚職に関与する余地が大きく、本人が直接関与していなくても責任を追及されやすい。また、権力の集中で大統領在任中に多くの政治的な敵を作りやすく、退任後にこれらの敵からの報復を受けるリスクを高めている。

陳氏は、「韓国大統領は構造的な問題と政治文化が複合的に作用することで非常に高リスクな職位となっている」と結論づけている。「より安定した権力の制約や、成熟した政党と政治が欠如している限り、この現象を変えるのは非常に難しい」という。

韓国の役割 国際的パワーゲームの中で

韓国の政治的不安定さは、その地政学的な位置と深く結びついている。中国語大紀元編集長である郭君氏は、アジアでの緊張は特に朝鮮半島、台湾海峡、東南アジアに集中していたと指摘する。そして、米中対立が世界政治の主軸となる未来を予測し、その影響が東北アジアにおける緊張をさらに高めるだろうと述べた。

現在、アメリカ、日本、韓国の三角同盟が、中国、ロシア、北朝鮮の三角関係と対峙している。この対立の接点となっているのが朝鮮半島の38度線と台湾海峡である。

郭氏は「韓国内の多くの人は、大国間の対立に巻き込まれて犠牲になることを望んでおらず、古代の『四大外交』、すなわち強国に従う戦略を継続したいと考えている」と指摘する。古代の朝鮮はこのような外交政策によって生存を維持してきた。複数の大国に挟まれた状況で生き延びるためには、状況を見極めて、柔軟に対応する必要があった。「朝鮮民族は気骨があり強靭だが、国際政治においては、最も素早く方針を転換する民族でもある」と指摘した。

韓国国内の対中政策と野党の姿勢

韓国の野党党首である李在明(イ・ジェミョン)氏は、「米中対立、特に台湾海峡問題で一方に肩入れするべきではない」と主張し、文在寅前大統領の親中路線を踏襲する姿勢を見せている。一方で、アメリカ軍の韓国駐留について、北朝鮮だけでなく中国やロシアを念頭に置いていると指摘した。

陳文甲氏は、「韓国が完全に日米同盟を離れ、中立的な立場を取る可能性は低い」としながらも、左派政権の復活や経済安全保障分野での自主性追求が課題になると述べた。韓国は国際環境の変化に対応するため、美日同盟を維持しながらも中国との経済関係や外交政策で柔軟性を模索するだろうと予測している。

中共の韓国浸透 台湾以上に深刻な状況

郭氏は、今回尹大統領が弾劾されることについて、韓国を親中寄りの方向に転換させる契機となり得ると見ている。中共(中国共産党)による韓国社会への浸透は台湾以上に深刻であると警鐘を鳴らした。中共は経済的依存や移民を通じて影響力を拡大している。

経済的依存

韓国企業の中国市場への投資や輸出依存度は依然として高く、2023年には中国との貿易で180億ドルの赤字を記録している。この経済的依存は、韓国の政策決定に、中共が影響力を及ぼす一因となっている。

移民と教育分野

過去10年以上にわたり、大量の朝鮮族中国人が韓国に留学し、その多くが韓国に定住している。この流れによって、社会への中共の影響がますます浸透している。一部の韓国右派勢力は、「中共の影響力が、韓国の選挙にまで及んでいる」と懸念を表明している。

孔子学院と文化的影響

危機感が台湾ほど強くはない韓国は、北朝鮮に気を配っているのは当然として、中共による浸透に対して警戒していなかった。韓国には世界最多の孔子学院が設置され、一部の大学には「習近平思想」を研究する専用施設まで存在するという。

また、光州では「中国人民解放軍広場」を建設し、中共の志願軍を記念する計画が進行中である。この広場では中共の軍旗掲揚や軍歌の再生が予定されており、「中国人観光客の誘致」がその理由としている。

郭氏はまた、「もし尹錫悦大統領が弾劾され、李在明氏が次の大統領となれば、韓国は左派寄りの方向へ転換する可能性が高い」と考えている。この展開はアメリカ、日本にとって懸念材料となっている。文在寅政権時代、韓国軍とアメリカ軍と共同訓練は一度も行われず、すべてがコンピューターによるシミュレーションにとどまった。この点について、アメリカ軍は非常に不満だったと述べている。

大紀元の編集者である石山氏は、もし尹錫悦氏が弾劾で職務を解除され、李在明氏が次期大統領になったら、日韓関係が大きな注目点になると指摘した。