デンマーク政府は、自治領グリーンランドの防衛費を大幅に増額する方針を発表した。これは次期米大統領トランプ氏がグリーンランド購入への意欲を改めて示した数時間後のことだ。
デンマークのトロールス・ルンド・ポウルセン国防相は24日、同国のユランズ・ポステン紙に対し、防衛費増額の総額が少なくとも15億ドルに達する見込みだと明らかにした。同氏は、このタイミングについて「皮肉だ」とし、トランプ氏の発言を念頭に置いたコメントを付け加えた。
トランプ氏は22日、デンマーク王国内の自治領であるグリーンランドについて、アメリカによる管理と所有が「世界の安全と自由を確保する上で絶対に必要だ」と投稿した。
ポウルセン国防相によると、防衛費増額計画には新型の検査船、無人機、犬ぞり部隊の整備、北極司令部の人員増強、そしてF-35戦闘機対応の空港改修が含まれている。「北極圏に対する投資は長年不十分だったが、これからは地域での影響力を強化する計画だ」と述べた。
戦略的要衝としてのグリーンランド
グリーンランドは自治領として国内問題を自ら管理する一方、外交や防衛はデンマークが統括している。同地は、欧州やロシアから北米へ至る最短ルートの中間点に位置し、地政学的に極めて重要だ。特に、北極圏の監視や安全管理においては、欠かせない拠点となっている。
また、北極圏は米国とロシアの間で大陸間弾道ミサイルが通過する最短経路であるため、世界の大国間で競争が激化する現在、グリーンランドは戦略的な拠点としてその重要性を一層高めている。さらに、米軍が運用する「ピツフィク宇宙軍基地」(旧チューレ空軍基地)がここに位置しており、宇宙監視やミサイル早期警戒システムの中心拠点として重要な役割を果たしている。
トランプ氏 グリーンランド購入意向
トランプ氏は1期目の大統領在任中にも、グリーンランドを米国の管理下に置く意向を示していた。同地は米国の約4分の1の面積を持つ一方、人口は約5万7千人に過ぎない。米国は1867年と1946年にもグリーンランドの購入を試みたが、デンマーク政府に拒否されている。
12月23日、グリーンランド自治政府のムテ・エーエデ首相はトランプ氏の発言を受け、グリーンランドが売却されるとの見方を一蹴した。
「グリーンランドは我々のものだ。我々は売り物ではないし、今後も売られることはない。我々の自由を守るための長い闘いを無駄にするわけにはいかない」と断言した。
中国の影響力拡大
中国共産党(中共)の国営メディアは、グリーンランドを北極圏航路に近い戦略的拠点とし、その豊富なウランや希土類資源に注目している。2019年、中共が「一帯一路」構想の延長として「極地シルクロード」構想を発表し、北極海航路の開発や、中国企業による地域インフラプロジェクトへの投資を促進する方針を打ち出した。
この10年間で、鉱物採掘、石油・ガス探査、観光部門の拡大を目指す取り組みによって、中国とグリーンランドの経済関係は急速に成長している。グリーンランドの中国依存が進む状況は、北京の北極圏戦略と密接に関連している。
米デンマーク防衛協定と地域戦略
アメリカは1951年にデンマークと締結された防衛協定に基づき、グリーンランド内の防衛地域に対する独占的な管轄権を有している。これにより、アメリカは北極圏の監視体制を強化し、NATOの戦略においてもグリーンランドが重要な役割を担っている。
グリーンランド北西部には、旧チューレ空軍基地であるピトゥフィク宇宙基地が位置している。この施設は、デンマーク、カナダ、グリーンランド、アメリカ宇宙軍の人員を支援し、宇宙監視活動の拠点として機能している。また、ロシアや中東から発射される大陸間弾道ミサイルや、北極を経由する北朝鮮や中国のミサイルを探知するために不可欠な改良型早期警戒レーダーシステムも設置されている。
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