ミレイ大統領の急進的な改革がどのようにしてアルゼンチンの経済を好転させたか

2025/01/12
更新: 2025/01/12

ミレイは10の政府機関を廃止し、3万4千人の公務員を解雇し、支出を30%削減した。この取り組みはトランプ陣営の移行チームからも注目を集めている。

 

アルゼンチン大統領就任1周年を迎えたハビエル・ミレイ氏は、政府支出の削減、規制撤廃、そして行政機構の縮小を目指した果敢な取り組みの初期成果を昨年(2024年)12月10日発表した。

「今日、誇りと希望を持って、私たちが試練を乗り越えたとお伝えできる」と、ミレイ氏はアルゼンチン国民に語った。「私たちは砂漠を抜け出し、不況は終わり、ついに国が成長を始めた」

ミレイ氏が2023年11月に大統領に就任した時、かつて世界の裕福な国トップ10に名を連ねていたアルゼンチンは機能不全の状態に陥っており、2001年以降、国家債務不履行を3度繰り返し、再び同じ道を歩む危機に直面していた。

年間インフレ率は200%に迫り、貧困率は40%を超え、成長率はマイナス1.6%、財政赤字はGDPの15%を占め、慢性的な貿易赤字を抱えていた。

アルゼンチン国民は変革を求め、自称リバタリアン(個々人の自由を認めるとともに、さまざまな価値が並存している状況を認める)のミレイ氏を1983年に自由選挙が復活して以来最大の得票差で大統領に選出した。ミレイ氏は現職の経済相セルヒオ・マッサ氏を相手に得票率55.7%を獲得し、マッサ氏の44.3%を上回った。

過去1年間、ミレイ氏はアルゼンチンの18の省庁のうち10を廃止し、トップ官僚の給与に上限を設け、3万4千人の公務員を解雇し、政府支出を30%削減した。

11月の米大統領選後、ミレイ氏はトランプと会談した最初の外国人首脳となり、トランプ次期政権のメンバーはミレイ氏の進捗状況を追っている。

「アメリカ政府を立て直す合理的な方法:ミレイ流の削減をさらに強化するものだ」と、近日設立予定の政府効率化省(DOGE)の共同代表であるヴィヴェク・ラマスワミ氏は、SNSプラットフォーム「X」で述べた。

最初の一手

ミレイ政権は就任と同時に時間との戦いに突入したかのように、国民の忍耐が尽きる前に明るい未来の兆しを示そうと急ピッチで取り組みを進めた。

政権発足後最初の1か月間に、ミレイ氏は「メガ政令」を発令した。この中には366の規制改革が含まれていたと、ケイトー研究所の政治アナリストであるイアン・バスケス氏と「人間の自由度指数」の共著者ギレルミナ・サッター・シュナイダー氏が報告している。

就任1周年までには、その数は672の規制改革に達し、331の規制を撤廃し、341の規制を改正した。

これには輸入許可の撤廃や家賃統制の解除といった取り組みが含まれている。著者らによれば、これらの措置により家庭用電化製品の価格が35%、衣類の価格が20%下落し、ブエノスアイレスでの賃貸物件の供給が急増した。結果として家賃が大幅に下がったと記されている。

中央集権システムの解体

「ミレイ氏がカサ・ロサダ(大統領府)に入居したとき、彼は困難な課題に直面していた。それは、アルゼンチンの非自由主義的、ファシスト的な経済システムを解体することだった。このシステムは1930年代から築かれており、アルゼンチン人一人ひとりの活動が国家の全能的な命令に従うというものである」と、ジョンズ・ホプキンズ大学の経済学教授で、元アルゼンチン大統領カルロス・メネムの顧問であるスティーブ・ハンケ氏は述べた。

大統領の演説と功績により、「自由市場の考え方を再び、社会の話題として持ち出した」とハンケ氏はエポックタイムズに語っている。

経済学者であり著者、元サッカー選手でロック歌手でもあるミレイ氏は、時にはチェーンソーを手にキャンペーンを行い、「過去100年間社会主義思想を受け入れてきた」

国で政府の官僚機構を切り捨てることを約束した。彼は、その国が今やそれを振り払いたいと願っていると述べていた。

「リベラリズムは体制への反抗の自然な形である」と、ミレイ氏は2023年のタッカー・カールソンとのインタビューで述べた。彼のキャンペーンスローガンの1つは「Viva la libertad」(「自由万歳」)だった。

アルゼンチンの広範な政府管理システムは、フレーザー・インスティテュートの2022年経済自由度指数で、世界165か国中159位という低い順位に位置していた。これはイランとビルマ(ミャンマーとも呼ばれる)の間にある。しかし、ミレイ氏の反社会主義運動は、経済的自由だけにとどまらない。

「おそらく最も重要なのは、経済を超えて、ミレイ氏が社会主義の理想から離れ、文化的な変化を促進し、市民社会や自由、個人の責任の原則を擁護してきたことであろう」と、米国経済研究所(AIER)のエコノミストであるピーター・アール氏がエポックタイムズに語った。

彼の大統領としての政策は、1980年代に当時としては急進的な減税、民営化、規制緩和を導入し、国内の労働組合や医療・教育システムを改革したイギリスのマーガレット・サッチャー首相を含む先代の指導者たちを彷彿とさせる。

その緊急性から、中央集権的で硬直化した体制を解体しながら、市場ベースの民主的な構造を急いで整えようとしたヨーロッパの旧ソ連諸国の多くをも思い起こさせるものである。

2023年9月25日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで行われたキャンペーン集会でチェーンソーを掲げている、ラ・リベルター・アバンサ党の大統領候補ハビエル・ミレイ (Tomas Cuesta/Getty Images)

ペソの切り下げと維持

ミレイ政権は、ペソを半分に切り下げ、市場の為替レートにペソの公式為替レートを合わせ、政府のインフラプロジェクトを中止し、燃料補助金を削減した。

彼はアルゼンチンの国の通貨を完全に廃止し、米ドルに置き換えることを提案していた。しかし、実際にはこれを実行せず、インフレとの戦いに危険を及ぼしていると、専門家の一部は指摘している。

「ミレイの弱点はペソになるだろう」とハンケ氏は述べた。「ミレイが選挙に勝ったのは、中央銀行とペソを廃止すると約束したからだ」

彼はそれを実行できておらず、資本規制もそのまま残しているとハンケ氏は述べた。

「もしミレイ氏が約束通り『1日目』にドル化を実行していれば、インフレは今頃完全に収束し、資本規制は過去のものになっていたはずだ」とハンケ氏は述べた。

ミレイ氏はまた、アルゼンチン経済を再編しようと取り組んでおり、同国のGDPが政府支出と個人消費に偏りすぎ、民間投資や輸出が少なすぎると判断した。

彼はこの点で成功を収めているようで、今年、アルゼンチンは貿易赤字から貿易黒字に転換した。世界銀行によれば、アルゼンチンはリチウムや銅など、電池や送電網の建設に不可欠な資源に恵まれており、農業用の肥沃な土地も豊富だという。

2023年11月30日、アルゼンチン・ブエノスアイレスのアルゼンチン中央銀行前を歩く清掃員とリサイクル業者。選挙期間中、ミレイ氏は劇的な経済行動を起こすと約束した(Tomas Cuesta/Getty Images)

痛みを伴う移行からの脱却

この規模の変化は多くの場合痛みを伴うものであり、それはミレイ氏が警告していた通りだ。しかし、より良い日々が訪れる兆しも現れ始めている。

世界銀行の報告によれば、アルゼンチンのGDPは今年、3.5%縮小したと見込まれている。「相対価格の再調整や財政・外部の不均衡解消を含む安定化計画」による影響や、農産業を直撃した深刻な干ばつが一因である。

アルゼンチン人は、多くのアメリカ人と同様に生活に苦しんでおり、個人消費の割合は低下したようである。アルゼンチンは牛肉で有名な国であるが、2024年の前半に牛肉消費は13年ぶりの最低水準に達した。

ミレイ就任後6か月間で、アルゼンチンの貧困率は42%から53%に増加し、2003年以来最高の水準に達した。ただし、貧困率は現在、下降傾向にあり、昨年12月には49%に低下した。

ドイツ・ハンブルクに本社を置く統計データ会社スタティスタによると、インフレ率はペソの切り下げが主な原因で昨年4月に280%まで急上昇した。月間インフレ率は、1年前の25%から12月時点では2.4%にまで低下しており、政府収支と貿易収支の両方が赤字から黒字に転じている。

政府支出はほぼ3分の1削減された。

2024年11月、アルゼンチンは9か月連続で政府予算の黒字を発表した。さらにインフレ率が月間3%未満に抑えられたため、アルゼンチン中央銀行は金利を1年前の100%以上から11月末には36%に引き下げた。

Trading Economicsによると、9月には、アルゼンチンの賃金成長率が4.7%となり、インフレ率を初めて超えた。

世界銀行は、アルゼンチンのGDPは2025年に5%成長するとの予測を出している。

12月のギャラップ調査によると、41%のアルゼンチン人が自国の経済が良くなっていると回答し、これは2023年の25%から増加した。また、53%のアルゼンチン人が自分の生活水準が向上していると答えており、これは2015年以来初めての大多数の肯定的な反応である。

それでも、35%は食糧を買うのが難しいと感じており、69%は仕事を見つけるのが難しいと感じている。

全体的に見て、ミレイ氏の改革はしぶしぶながらも支持を受けており、43%のアルゼンチン国民が彼の政権に信頼を寄せている。この数字は半数未満ではあるものの、前任のアルベルト・フェルナンデス大統領が得た24%という数字から大幅に増加している。また、最近の一部の世論調査では、ミレイ氏の個人的な支持率は50%を超えている。

2024年9月25日、ブエノスアイレスのカサ・ロサダ大統領府前で眠っているホームレスの男性。ミレイの就任後6か月間で、アルゼンチンの貧困率は42%から53%に増加し、2003年以来の最高水準となった(Luis Robayo/AFP via Getty Images)

トランプ政権への教訓

ピーター・アール氏は、トランプ政権がミレイ氏のやり方を参考にしたいのであれば、「経済政策にはタイムラグがあることを考えると」、早速全力で取り組む必要があると述べた。

 「迅速に内閣を組織し、計画を立て始めたことからも、トランプ大統領には、就任初日から規制や無駄な支出を削減する意向があることが明らかだ」とアール氏は述べた。

また、トランプ政権は、軍事費、教育、社会保障、メディケアなどの分野での削減を検討する覚悟が必要であり、その結果として必ず訪れる批判には耐えなければならないとも述べている。

アメリカはアルゼンチンが直面した多くの危機を経験していないが、経済学者の多くは、連邦政府の支出が現在のペースで続けば深刻な結果を招くと予測している。

アメリカは2020~23年にかけて8兆ドル(約1261兆円)以上の連邦赤字を計上し、国債は36兆ドルを超え、その利払いだけで1日あたり18億ドルに達している。

政府支出が主な要因となっていたインフレ率は、2022年の9%を超えるピークから現在の2.7%にまで低下した。しかし、最近のインフレ率の上昇は、依然として脅威であることを示しており、支出を抑制する必要性を強調している。

トランプ氏は1期目で減税を行い、数兆ドル規模の新たな政府支出を承認したが、その後ジョー・バイデン大統領がさらに数兆ドルを追加した。

2024年11月14日、フロリダ州パームビーチのマー・ア・ラゴで開催されたアメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート・ガラで、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が、ドナルド・トランプ次期大統領と話をしている様子(Joe Raedle/Getty Images)

「減税が行われても支出削減が伴わなければ、赤字は拡大するだろう」とアール氏は述べた。「経済問題で優れているという理由で当選したにもかかわらず、アメリカの債務や赤字、さらにはインフレが悪化すれば、政権やその政策の信頼性が失われる可能性がある」

そして、トランプ氏はミレイ氏ほど自由市場に熱心でないかもしれない。

ミレイ氏が貿易を自由化し、多くの輸入必需品のコストを引き下げた一方で、アメリカ産業を保護することを目的に、多くの人が価格上昇につながると指摘する関税を課すとトランプ氏はちらつかせている。

この報告書にはロイターが貢献した

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。