中国で「紅頂商人」として知られる栄毅仁一家が、家族全員でカナダに移住すると報じられ、世論の注目を集めている。専門家の分析によれば、習近平体制下では、貧富を問わず中国人の国外脱出が加速しており、多くの人々が「命を守るため」に脱出しているという。
最近、上海の高級邸宅で骨董家具を梱包して運び出す様子を撮影した動画がネット上に出回った。情報筋によれば、これは栄氏一家が家具をカナダに運搬するために輸送会社を雇ったものとされる。
中国のポータルサイト「網易」は1月6日、「2025年、栄一家がカナダに移住」という記事を掲載。この中で「中国の本当の富豪一族、紅頂商人と称される栄氏財団の家族がカナダに移住する」と報じたが、その後この記事は削除された。
「紅頂商人」とは、このような高官と良好な関係を築き、それによって企業が利益を得たり、さらには政策に影響を及ぼすことができる実業家のこと。
栄毅仁には4人の娘と1人の息子がおり、その子孫たちは主に金融、鉱業、貿易事業などに従事している。栄毅仁自身は元中国共産党(中共)政権の国家副主席を務めた。その息子である栄智健は「太子党」の一員として注目され、中共当局の貴賓として影響力を持っていた。
栄智健は香港上場企業である中信泰富有限公司の元会長を務めていたが、2009年に同社が外貨取引で巨額の損失を出し、警察が調査に乗り出した結果、辞任に追い込まれた。この事件を機に栄家は中共の政界から退くこととなった。
「共同富裕」政策下 富裕層の国外脱出加速
近年、習近平が推進する「共同富裕」政策の下、民間企業やテクノロジー、金融、教育業界への締め付けが強化され、多くの外資が中国から撤退している。また、中国の富裕層も急速に国外への移住を進めている。
市民権および居住権プランニングを専門とするコンサルティング会社Henley & Partnersの最新報告によると、2024年には1万5200人以上の中国富裕層(資産100万ドル以上)が中国を離れる見込みで、これは世界のどの国よりも多い数だという。
栄氏一家のカナダ移住に関して、バンクーバー在住のメディア関係者で香港議会準備委員会の主席を務める何良懋氏は、ラジオ・フリー・アジアに対し「中国では金を持てば国外移住を望むのは当然のことだ」と語った。
同氏は「法治ではなく人治が支配する国では常にリスクがつきまとう。胡錦濤・温家宝政権時代から多くの人が逃げており、習近平政権下ではその動きがさらに激化している。命を守るために逃げるのは人間として当然の行動だ」と指摘している。
何氏は、栄氏一家がすでにバンクーバーのブリティッシュコロンビア大学近郊に高級邸宅を購入しており、昨夏から内装工事が行われていたと証明した。あるリフォーム会社の社長が語ったところによると、昨年夏からこの豪邸の改装を手掛けていた。また、豪邸で栄智健を見かけたことがあるとも話しており、当時は一家全員が引っ越してくる準備だったとは思いもしなかったと述べた。
富裕層の国外移住に見る中共への不信感
一方、中国を脱出しカナダに移住した陳思明氏は、「能力や機会のある人は、貧富や地位に関係なく、皆海外脱出を望んでいる」と述べる。
同氏は中国の人権活動に参加し、これまでに何度も逮捕されていた。自身の過去の経験を引き合いに、90年代に資産を築いた友人が、直ちに家族と資産を海外に移した。当時、彼は友人に「こんなに快適な生活をしているのに、なぜ出て行く必要があるのか?」と尋ねた。友人は長い目で見ている。中共を信用していない。「共産党は一時的に甘い顔をして働かせるが、資産を持つようになったら奪われ、命さえ奪われる」と言っていたと振り返った。
何氏は「国外脱出者にはさまざまな背景がある」と強調し、「不正蓄財や人権侵害に加担した者もいれば、純粋に財産の自由を求める者もいる」と説明した。その上で「彼らの資金が合法的なものであれば、新しい土地で安定した生活を送る権利は否定されるべきではない」と話した。
経済危機と政治圧力が生む脱出者の増加
ワシントンの情報戦略研究所の経済学者、李恒青氏は「現在、中国は中央から地方に至るまで財政難に陥り、富裕層に対する過剰な税負担や搾取が横行している。これにより、富裕層は早急に中国を離れるべきだと悟っている」と指摘した。
また、大紀元のコラムニスト、王赫氏は「近年の中共は左傾化を進めており、富裕層に対する圧力が高まっている。経済情勢が悪化する中で財産の保有や発展がますます困難になり、多くの人が中共への絶望から国内のすべてを放棄してでも新しい生活を求めて国外に出ている」と分析した。
習近平政権の3期目に入り、中国国内の政局と経済が深刻な危機に直面する中、党内外から反発の声が相次ぎ、習近平体制の行方に注目が集まっている。
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