長い歴史を積み重ねてきた日本の老舗企業が、今、大きな苦境に立たされている。帝国データバンクの統計によると、2024年には創業・設立から100年以上の業歴を有する老舗企業の倒産が145件に上り、これまで最も多かったリーマン・ショック時の2008年(120件)を大幅に上回り、過去最多を更新した。
世界有数の老舗大国・日本
日本は世界有数の老舗大国だとされている。2024年9月時点のデータによれば、創業100年以上の老舗企業は4万5284社存在し、これは世界の老舗企業の約60%を占めている。その中には1千年以上の歴史を持つ企業もあり、世界最古の企業とされる「金剛組(西暦578年創業 場所は大阪の天王寺区にあり四天王寺建立のため 聖徳太子に招聘され、百済の国から三人の工匠が日本に招かれた。 この内の一人が、金剛組初代の金剛重光である)」がその代表例だ。
日本では、家業や地域の伝統を次世代に引き継ぐ意識が強く、これが老舗企業の存続に寄与してきた。長い業歴は、企業が市場での競争を勝ち抜き、生き残り続けた証ともいえる。
特に創業100年を超える「老舗」というブランドは、企業にとって大きな強みであり、他社との差別化を可能にする重要な要素だ。企業間取引においても、長年培われた信頼が関係性の構築や継続を後押ししている。
さらに、老舗企業は財務面でも安定性と収益性を発揮する。長年蓄積してきた資産や知見を活用し、ブランド力と確かな経営基盤を築き上げている。また、創業時から受け継がれる家訓や経営理念を重んじる精神性も、老舗企業の長期的な成功の要因といえる。公益を重視した事業展開や地域貢献は、こうした理念に根ざしている。
老舗企業が直面する課題
しかし、老舗企業の多くは小規模事業者であり、2024年の調査によると、老舗企業の42.7%が売上高1億円未満の企業であることが明らかになっている。このような規模では、外部環境の変化に対する対応力が限られ、経営基盤が脆弱である場合も多い。
さらに、以下のような課題が老舗企業を取り巻いている。
1. 物価高と原材料費の上昇
円安やインフレの影響で、原材料や輸送コストが増加しており、価格転嫁が難しい中小規模の老舗企業は、大きな負担を抱えている。
2. 後継者不足
少子高齢化により、事業を継ぐ意志のある後継者が不足しており、事業承継がスムーズに進まないケースが増えている。特に地方の老舗企業では、この問題が深刻化している。
3. 需要の変化と競争の激化
ライフスタイルの多様化に伴い、伝統的な商品やサービスの需要が減少している。また、大手企業や海外メーカーとの価格競争に直面し、競争力を維持するための投資が難しい状況にある。
4. デジタル化への対応遅れ
インターネットやデジタルツールの活用が不可欠となる中、リソースやノウハウの不足によりデジタル化が進んでいない企業も多い。これにより、顧客との接点を増やす機会を逃している。
5. 働き手の不足
人口減少による労働力不足も、老舗企業にとって大きな課題である。特に熟練工の引退や技能継承の難しさが、企業の持続可能性に影響を与えている。
未来に向けた取り組み
老舗企業が持つ「歴史」と「伝統」という強みを活かしつつ、現代社会の変化に対応することが求められている。
- 新商品の開発とサービスの刷新
伝統を活かしつつ、現代の消費者ニーズに応える商品やサービスを提供する。 - 地域資源との連携
地域の観光資源や特色を活用した事業展開を通じて、地域との共存を目指す。 - デジタル化と販路拡大
オンライン販売やSNSを活用したマーケティングを推進し、新たな顧客層を開拓する。 - 事業承継のサポート
国や自治体の支援を活用し、スムーズな事業承継を実現する仕組みづくりを進める。 - 技能継承の仕組みづくり
熟練工の技術や知識を、次世代に継承するための教育プログラムや人材育成が必要である。
長年の歴史と品質に裏付けられた老舗企業は、日本の伝統と文化の象徴ともいえる。変化する時代に柔軟に対応しつつ、その価値を未来に繋いでいく努力が、老舗企業のさらなる発展を支えるだろう。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。