アメリカ連邦議会上院は、窃盗や住居侵入、万引きなどの犯罪で逮捕された不法移民を国土安全保障省が拘留することを義務付ける法案を可決した。この法案には、移民審査手続きの不備に対して州が連邦政府を提訴できる条項が盛り込まれており、移民問題における「法と秩序」の回復を目指す内容となっている。
ケイティ・ブリット上院議員は採決前、「今こそ法と秩序を取り戻す時だ。我々は移民の国であると同時に、法を基盤とした国でもある。この秩序の乱れは今日で終わりを迎える」と述べた。
この法案は「レイキン・ライリー法」と呼ばれ、2024年2月にジョージア州で看護学生のレイキン・ライリーさんが不法滞在者によって殺害された事件を受けて制定された。ライリーさんを殺害したホセ・イバラ容疑者は、万引きで繰り返し逮捕されていた経歴があった。
下院での議論と法案の経緯
この法案は第119回議会において下院で最初に可決された法案であり、民主党の一部議員の反対にもかかわらず、264対159の賛成多数で通過した。一部の反対者は、この法案が広範すぎるとして、不法滞在者が犯罪の嫌疑を受けただけで実際に有罪判決を受けなかった場合にも影響を与える可能性があると懸念を示した。また、州が政府を提訴できる条項についても問題視する声があった。
ジェイミー・ラスキン下院議員は、この提訴条項に関して、州が連邦政策を巡って訴訟を起こす権限を否定した最高裁判決「アメリカ合衆国対テキサス州」を引き合いに出し、州による提訴は認められないと主張した。一方、カリフォルニア州選出のトム・マククリントック下院議員(共和党)は、同判決の判例文を引用し、「州が提訴できるようにするには法律を改正する必要がある」と述べ、この法案がまさにその改正を行うものであると主張した。
上院での修正案と追加議論
この法案の審議は当初、超党派の支持を得て進められた。ペンシルベニア州選出のジョン・フェッターマン上院議員(民主党)やアリゾナ州選出のルーベン・ガレゴ上院議員(民主党)が共同提案者として名を連ね、少数党院内総務のチャック・シューマー上院議員(民主党、ニューヨーク州選出)も議論と修正案審議のための前進に賛成票を投じていた。
提案された92件の修正案のうち、採決されたのはわずか2件であり、テキサス州選出のジョン・コーニン上院議員が提出した「警官への暴行」を適用犯罪に加える修正案が可決された。
採決前、コロラド州選出のマイケル・ベネット上院議員は、未成年者が犯罪の嫌疑を受けただけで拘留される可能性を懸念し、「この法案では、非暴力犯罪で告発された未成年者が拘留されることになる。これが本当に移民制度の改善につながると考えるのか」と問題を提起した。また、法案の実施にかかるコストについても議論が行われた。
2024年12月にバイデン前政権が発表した覚書によれば、この法案の年間実施費用は約30億ドル(約4500億円)と試算されていた。しかし、移民税関執行局(ICE)は約270億ドル(約4兆500億円)と見積もり、米公共ラジオ局NPRが内部文書を基に報じた。
さらに、アイオワ州選出のジョニ・アーンスト上院議員は最終段階で、不法滞在者による死傷事件を対象にDHSが拘留を義務付ける「サラ法」の修正案を提出した。この法案は、高校卒業式の夜に飲酒運転の不法滞在者によって死亡したサラ・ルートさんにちなんで名付けられたもので、75対24で可決された。
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