政府が中国人観光客向けのビザ発給要件緩和を決定したことに対し、自民党内から批判の声が相次いでいる。2025年1月21日に開催された自民党の外交部会と外交調査会の合同会議では、この方針に対する否定的な意見が多く出された。
星野剛士外交部会長は「なぜ急いでこのような判断をしたのか、その必要性はどこにあるのか疑問を抱かざるを得ない」と述べ、政府の決定に疑問を呈した。会議では「こんなことをやって大丈夫か」といったオーバーツーリズムへの懸念も示された。
この緩和方針は、2024年12月に岩屋毅外務大臣が中国を訪問した際に表明されたものだ。10年間有効なビザの新設など、中国人の訪日ビザ要件を緩和する内容となっている。
一方で、林芳正官房長官は同日の会見で、この緩和措置について「人的交流の促進を通じた相互理解の増進、経済波及効果が大きい観光の推進などを総合的に勘案して実施してきた一環」だと説明した。
政府側は、インバウンド需要を増やすことは安倍内閣以来の方針であると説明しているが、自民党内では「中国との間に懸案がある中で、国益にかなうものではない」といった意見も出ている。
日本の対中政策の矛盾
日本政府の対中政策において、防衛強化と経済協力という二つの相反する方針が同時に進められている。この状況は、国家安全保障と経済利益の追求という複雑な課題に直面する日本の立場を浮き彫りにしている。
防衛面では、日本政府は2022年12月に今後5年間で防衛費を現行計画の1.6倍、43兆円に拡大すると閣議決定した。この大幅な増額は、中国や北朝鮮からの脅威に対応するためとされている。さらに、日本は「反撃能力」の取得を決定し、これまでの専守防衛の方針から一歩踏み出す姿勢を示している。
一方で、経済面では中国との協力を継続・拡大する動きも見られる。中国人観光客向けのビザ発給要件緩和はその一例だが、それ以外にも経済的な協力関係の維持・強化が図られている。この矛盾する政策の背景には、以下の要因が考えられる。
日中間の「経済的相互依存」
そのひとつが、日中間の貿易・投資関係は深く、経済面での協力は両国にとって重要であるという「経済的相互依存」を要因とするものだ。しかし、経済面だけを見ていては大きなリスクに陥る可能性がある。国際社会は長年、中国共産党政権が国内で人権侵害を行なっていることを指摘している。米国では新政権が稼働し、対中政策はさらなる強硬なものとなる。新しい米国務長官に就任したマルコ・ルビオ氏は対中強硬派であり、中国の人権侵害問題に詳しい。中国共産党に対し人権問題を大きく取り上げれば、そのような政権と経済協力の強化を画策していることは大きな問題となる。政界の舵取りを間違えれば、経済界に大きなダメージとなるだろう。
次に、「地域の安定のため、経済協力を通じて対話のチャンネルを維持し、地域の安定を図る」という狙いがあるという意見もある。日本の外交政策は対話外交が基本だ。しかし、現在の中国共産党政権が一向に独裁を止める気配はない。中国の体制変更、民主化への動きなどは全く期待することができないと判断した米国は、政権が民主党であろうが共和党であろうが、対中強硬政策に変更がないという状況だ。
最近の多極化する国際秩序の中で、日本は独自の立場を模索していく必要がある。しかし、中国共産党に歩み寄ることは選択肢として国民の理解が得られるとは思えない。昨今の世論調査が示しているのは、「日本人の中国共産党に対する悪印象が8割を超えている」という理解が一般的だ。
二面的なアプローチの問題点
防衛費増額と経済協力の推進は、対中政策の一貫性を欠いているように見える。政策の一貫性に欠如があればリーダーシップを発揮することはできない。防衛増税が議論される中、中国共産党との経済協力強化は国民の理解を得にくい可能性がある。また、同盟国との関係も問題となるだろう。対中経済協力の強化は、米国をはじめとする同盟国との関係に影響を与える可能性がある。
これらの矛盾する政策の意図と効果について、日本政府からのより明確な説明が求められる。安全保障と経済利益のバランスをどのように取るのか、そしてそれが日本の国益にどう資するのか、国民に対して丁寧な説明が必要となるだろう。
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