岩屋毅外務大臣は24日の衆議院本会議で外交演説を行い、日米同盟強化と新トランプ政権との関係構築を最優先課題とする一方、中国との「戦略的互恵関係」推進も表明した。しかし、この対中姿勢は1989年の天安門事件後、日本が人権問題よりも経済関係を優先した失敗を想起させる。現在の国際情勢下で、日本は人権重視の姿勢を明確にしつつ、米中両国との関係バランスを慎重に維持する必要性に直面している。特に、中国共産党政権による法輪功への迫害問題や新疆ウイグル自治区や香港の人権問題に対する日本の立場が注目される中、過去の教訓を踏まえた外交戦略の再構築が求められている。
日米関係
演説の中で岩屋外相は、トランプ新政権との間で強固な信頼関係を構築し、日米協力をさらに高いレベルに引き上げる意向を示した。日米同盟を日本の外交・安全保障の基軸と位置づけ、その充実・強化が石破政権の最優先事項であると強調した。具体的には、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化、拡大抑止の信頼性と強靱性の向上、そして在日米軍の態勢の最適化に向けた取り組みを進めていくと述べた。
また、日米間の経済面での協力についても言及し、投資や先端技術分野などでの協力拡大を目指すとした。さらに、日米豪印(クアッド)や日米韓といった多国間の枠組みでの連携強化も掲げた。
これらはいずれも中国共産党の覇権拡大抑止を念頭に置いた動きである。
日中関係
しかし、一方で日中関係については、共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、建設的かつ安定的な関係を構築する方針を示した。具体的な課題として、日本産水産物の中国への輸入再開や、中国で拘束されている日本人の早期釈放などに全力を尽くすと宣言した。
「戦略的互恵関係」とは、日中両国が互いの利益を追求しながら共通の戦略的利益について協力を行う関係を指す。この関係は、日中両国が国際社会に対して責任を負うという認識のもと、互いの利益を得ながら共通利益を拡大し、日中関係を発展させることを目指している。
しかし、具体的な実践においては課題も残されており、政治的リーダーシップの重要性が指摘されている。
今回の岩屋外相による外交演説において、日米関係と日中関係の間に直接的な矛盾があるという指摘は見られない。しかし、両国との関係構築において微妙なバランスを取ろうとする日本の外交姿勢が垣間見える。
岩屋外相は日米同盟を「我が国の外交・安全保障の基軸」と位置づけ、その充実・強化を最優先事項としている。一方で、日中関係については「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築する方針を示している。
この姿勢は、米中対立が深まる国際情勢の中で、日本が両国との関係を慎重に維持しようとする努力の表れと解釈できる。日米同盟を重視しつつ、中国との経済関係や地域の安定のために協力関係を築こうとする日本の外交戦略が反映されている。
ただし、2025年の国際情勢を考慮すると、中国共産党政権が日本を「地域大国」と位置づけ、米国との争いを有利に進めるための「切り札」として日本に接近しようとしている点に注意が必要である。この状況下で、日本が米中両国との関係をどのようにバランスを取っていくかが今後の外交課題となる可能性がある。
中国共産党が最も触れられたくない「人権問題」
アメリカはトランプ新政権が稼働し、マルコ・ルビオ氏の米国務長官就任により、米中関係は新たな局面を迎えている。ルビオ氏は対中強硬派として知られ、中国の人権問題に対して積極的な姿勢を示している。ルビオ氏は2024年7月31日に「法輪功保護法案」を米国上院に提出している。この法案は、中国共産党による法輪功学習者への迫害、特に強制的な臓器摘出を阻止することを目的としている。
この状況下で、日本は今後、人権問題に関してより明確な立場を示す必要があるだろう。ルビオ氏が重視する中国共産党による法輪功迫害に関する問題、そして、新疆ウイグル自治区や香港の人権問題について、日本は国際社会と連携しつつ、独自の声明や行動を取る機会が今後出てくることが想定される。
日本は、人権問題に関する自国の立場を国際社会に明確に伝えるとともに、中国との対話チャンネルを維持し、特に、ルビオ氏が中国から制裁を受けている点を考慮すれば、日本が米中間の橋渡し役を果たす可能性も考えられる。
この新たな国際情勢下で、日本は人権を重視しつつ、戦略的なバランスを追求する外交姿勢を採ることが求められる。これにより、国際社会における日本の地位を高めつつ、地域の安定と繁栄に貢献することができるだろう。
繰り返したくない「天安門事件後の日本の失敗」
1989年6月4日未明、北京で天安門事件が起きた。民主化を求める学生や市民に対する中国共産党政権による武力弾圧事件であり、人権弾圧の虐殺事件である。
天安門事件後の日本の対中政策については、批判的な見方が存在する。日本政府は事件直後から、人権問題よりも中国との経済関係維持を重視する姿勢を示していた。日本政府は天安門事件を「人道的見地から容認できない」としながらも、「中国の国内問題」と位置付け、人権問題への対応を後退させた。
日本は対中経済協力を継続する方針を早々に打ち出し、中国の「近代化、開放化の大筋が維持される限り」経済協力を変更する理由はないとした。G7による対中非難宣言の採択に当初反対するなど、国際社会の対応と足並みを揃えなかった。
対中経済援助に「戦後賠償」の意味合いがあるとの考えが背景にあり、これが対中姿勢に影響を与えた可能性がある。改革開放路線支援が中国の民主化につながるという期待のもとで実施されてきた対中援助政策の正統性が揺らいだにもかかわらず、方針転換はなされなかった。
日本の対応には人権や民主主義よりも経済関係を優先する姿勢が見られ、結果として中国共産党体制の維持に間接的に寄与した可能性がある。この対応に対する反省や再評価は、現在の日本の対中政策を考える上でも重要な課題であると言える。もう二度と同じ失敗は要らない。
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