2025年1月16日、ナスダック証券取引所は、取締役会の多様性を義務付けるルールを正式に撤回するため、証券取引委員会(SEC)に申請を行った。この対応は、2024年12月11日に連邦控訴裁判所が、このルールを無効と判断したことを受けたものである。
ナスダックのルールは、上場企業に対し、取締役会に少なくとも2人の「多様性のある」メンバーを含めることを求めていた。その条件として「1人は女性であること」、もう1人は「黒人、ヒスパニック、アジア系、ネイティブアメリカン、太平洋諸島系、複数人種、またはLGBTQ+」に該当する人物であることを要求していた。このルールは2021年8月にSEC(米国証券取引委員会)が承認したが、2024年にアメリカ第5巡回控訴裁判所は「SECが通常の権限を逸脱している」として無効と判断した。
ナスダックは今回の申請で、「裁判所の判断に従いルールを撤回するが、企業や市場間競争に負担を与えることはない」と説明している。
多様性ルールに対する法的挑戦
ナスダックのルールに対する訴訟は、2021年8月に国家公共政策研究センターと「公正な取締役会の採用を求める連盟」によって提起した。原告は、このルールが憲法に違反し、かつ企業にメリットをもたらさないと主張している。
訴状では、「このルールは詐欺防止などの正当な取引所目的を果たしていない。また、連邦政府が人種や性別に基づく差別を禁じる合衆国憲法第5修正条項に違反している」と指摘する。
2024年12月11日、連邦控訴裁判所は9対8の票決でルールを無効とし、「証券取引委員会が、通常の管轄を超えた領域に介入した」と判断した。
裁判所の判決を受けて、ナスダックは、1月16日にSECに規則の撤回を求める要請書を提出した。
2025年1月6日、法律事務所Kramer Levinは、自社のウェブサイト上で、「裁判所の判決により、ナスダックが上場企業に、取締役会の多様性情報の開示を義務付けることができなくなった」とコメントした。しかし、同事務所は、多くの上場企業が、自主的に多様性に関するデータを公開し続けるだろうとの見解を示している。
上場企業は、「株主投票や投資家の管理指針、州法規制、投資家の期待に応じて、いつ、どのように、どの情報を開示するかを選択できる」と述べている。
DEI(多様性、公平性、包括性)への反発
多様性や包括性を推進する政策(DEI)は、アメリカ内で強い反発を受けている。
2024年3月には、テネシー州を中心とした24州がアメリカ労働省に対し、DEIを全国職業訓練制度に組み込む提案に反対する書簡を送付した。書簡では、「この提案は人種差別を助長する」と厳しく批判している。
国家職業訓練制度(National Apprenticeship System)は、納税者の資金を雇用主や団体に提供し、アメリカ人が職業訓練に参加しやすくすることを目的としている。しかし、最近提案した規則については、強い批判が寄せられている。
「この提案は、職業訓練生の福祉を保護するという法定目的から逸脱しており、既存の規制を利用して、訓練生の肌の色に基づいて勝者と敗者を選別する制度をさらに強化するものだ」と反対する書簡には記している。また、職業訓練制度に割り当てられた納税者資金は「人種差別のために使われるべきではない」とも述べられている。
また、ウェストバージニア州のパトリック・モリシー(Patrick Morrisey)知事は、州の公共機関でのDEI関連活動を禁止する行政命令を発表した。
この命令では、「人種、性別、民族、国籍に基づいた差別的または優遇的な扱いは、憲法の平等保護条項に反する」と明記している。
さらに2024年の研究では、DEIトレーニングが偏見を助長し、特に白人男性に対する否定的な態度を強化することを示している。研究者のデイビッド・ハスケル(David Haskell)氏は、「DEIプログラムは、多数派を否定的に描写し、異論に対する敵意を助長する」と指摘している。
トランプ次期大統領の就任を受け、多くの企業や機関が進歩的な政策から距離を置いている。
1月17日には、FRBは143か国が参加する国際的な気候変動グループからの脱退を発表した。その理由として「このグループが取り組む多くの問題はFRBの法的権限を超えている」と説明している。
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