中国共産党(中共)の中央軍事委員会副主席である何衛東が突如公の場から姿を消した。拘束や取調べの噂が広まる中、習近平政権下で進行する粛清と派閥争いの実態が浮き彫りとなっている。この事件は中共軍内部だけでなく、政府全体に広がる権力闘争を示唆している。
また、中共国防部の報道官がこの件について記者会見で言及したが、その発言はさらなる憶測を呼んだ。同時に、軍紀委の中将が突然解任され、70歳を超える元国家発展改革委員会(発改委)の高官も調査対象となるなど、中共政府内で一連の粛清が進行する兆候が見られる。
何衛東の失踪事件
何衛東は中共軍の中で習近平と張又侠に次ぐ地位を持つ軍事委員会副主席であり、習近平の親しい側近として知られる。しかし、3月13日以降、公の場に全く姿を現さず、「取調べ対象になった」「拘束された」との噂が飛び交う。
この噂は3月13日に初めて報じられ、3月25日には『ワシントン・タイムズ』が米国防総省の関係者の話を引用し、「事実である可能性が高い」と報じた。さらに、3月27日の中共国防部の記者会見では、報道官の呉謙が質問に対し「そのような情報はない」と答えた。この曖昧な回答は噂を否定せず、むしろ事態を暗に認めたかのような印象を与えた。
注目すべき点は、この記者会見のやり取りが後日、中共国防部の公式ウェブサイトから削除されたことである。この対応は「隠蔽工作ではないか」との疑念を招いた。過去にも同様の事例がある。2024年11月、中共国防部長の董軍が腐敗問題で調査対象となった際、呉謙報道官は「捏造されたデマだ」と否定したが、直後に中央軍事委員会政治工作部主任の苗華が「重大な規律違反」で停職処分となった。何衛東への対応はこの前例と酷似し、「重大な問題」が起きている可能性が高い。
何衛東が失脚した場合、これは個人の問題ではなく、中共軍内部の深刻な派閥争いを反映する。米国の中国問題専門家ゴードン・チャン氏は、中共軍内部で激しい権力闘争が起きており、習近平の反対勢力が側近の排除を図っていると指摘する。
軍内部で続く派閥闘争と習近平の権力
何衛東の失踪事件は、中共軍内部の派閥闘争と密接に関連する。現在、中共軍には「陝西派」と「福建派」という二大勢力が存在する。「陝西派」は第一副主席の張又侠を中心とした革命世代(二世)で構成され、「福建派」は習近平が福建省で地方政府のトップを務めた時期から彼を支えてきた人々である。
表向きには両派とも習近平に忠誠を誓うが、それぞれ独自の利害関係や権力基盤を持ち、裏で争いを続ける。ここ数年、中共軍では二度にわたる大規模な粛清が発生した。
第一波(2023年)
この時期、主に「陝西派」が標的となり、火箭軍(ロケット軍)や戦略支援部隊など航空宇宙部門で大規模な汚職摘発が行われた。李尚福元装備発展部長ら多くの幹部が失脚した。
第二波(2024年末)
今回は「福建派」が標的となった。董軍元国防部長や苗華元政治工作部主任など、習近平派とされる人物への取調べや停職処分が相次いだ。背景には「陝西派」の反撃や張又侠の巻き返し工作があると見られる。
『解放軍報』はこの時期、「集団指導」や「民主的意思決定」の重要性を強調する記事を増やした。一見すると組織原則の再確認だが、習近平の一極集中型リーダーシップへの批判と解釈できる。一方、『求是』誌では習近平自身が「党中央による統一的指導」を繰り返し訴え、対立構図が鮮明となった。
政府全体に広がる粛清の兆候
軍内部だけでなく、中共政府全体で粛清が進行している。3月26日、全国政治協商会議(政協)から三名の委員資格剥奪者が発表され、中央軍事委員会紀律検査委員会の副書記・唐勇中将も含まれた。唐勇中将は他者の腐敗を取り締まる立場にありながら、「重大な規律違反」で失脚した可能性が高い。
さらに翌日、国家発展改革委員会の元副主任・徐憲平が調査対象となった。70歳の徐憲平は2015年に退任し、2022年まで政府機関で活動していた。退職から数年経過後の取調べは、現役・退役を問わない厳しい取り締まりが進行することを示す。
まとめ
中国共産党と軍の内部では、深刻な権力闘争と粛清が加速している。習近平政権の権力集中への反発や派閥間の競争が背景にある。今後も高官の失脚や新たな粛清が続き、中国国内外への影響は無視できない。
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