4月2日、トランプ大統領が発表した相互関税は、世界中で議論を呼んでいる。中国製品に最大54%の関税が課される一方、ロシアは対象外に。この政策がもたらす世界経済への影響やアメリカの狙いを徹底解説する。
トランプ相互関税とは何か
4月2日、トランプ大統領が相互関税を発表し、多くの市場関係者が驚いた。世界の株式市場も大きく揺れ動いたが、トランプ大統領の狙いは何か? この関税に関する疑問を整理しよう。
・税率の計算方法
・最も影響を受ける国
・ロシアへの対応
・中国、アメリカ、世界への影響
・アメリカの経済的未来
・インドとイスラエルが関税をゼロにする理由
・小規模貿易グループの台頭とアメリカへの対抗
関税はどのように計算されるのか
トランプ大統領の関税発表は、予想を超える内容であり、多くの国々を対象にしていた。この税率がどのように算出されているのかが、議論の中心となった。
例えば、トランプ大統領は、台湾がアメリカに課す関税を64%とし、半減させると32%になると述べた。しかし、台湾のアメリカ製品に対する平均関税率は約6.34%であり、農産物は15〜17%、自動車は最大30%とされる。64%という数値は現実と大きく異なる。
トランプ政権の説明では、相互関税率には名目上の関税に加え、非関税障壁(付加価値税、政府補助金、制限)や為替操作を考慮するとしている。しかし、実際の計算方法は異なるものだ。
ホワイトハウスの発表によれば、関税率は次のように算出する。まず、各国の対米貿易黒字をアメリカへの総輸出額で割り、その結果を2で割る。その数値と10%を比較し、大きい方を関税率として採用する。この計算方法が明らかになると、ネット上では多くの批判が寄せられた。
一方、以前にアメリカの貿易代表事務所(USTR)は別の公式を示した。Δτᵢ = (xᵢ -mᵢ)/(ε × φ × mᵢ)である。
ここで、分子(xᵢ -mᵢ)はアメリカへの輸出からアメリカからの輸入を引いたもので、つまり貿易黒字を表している。
分母のε × φ × mᵢは、次の三つの要素を示している:εは「輸入価格弾力性」を指し、これは輸入数量が価格変動に対してどれだけ敏感であるかを示す。
φ(> 0)は、異なる国からの輸入商品の価格が関税の増加に対してどれだけ敏感であるかを示すもので、この敏感度は「関税伝導率」と呼ばれる。つまり、関税が1単位上がるごとに、輸入価格がどれだけ転嫁されるかを示す。
これら二つをその国のアメリカへの輸出額と掛け合わせたε × φ × mᵢは、関税が1単位増加した場合の輸入数量への影響を示す。
この計算式は天才的か それともずさんか
一見すると学問的な計算式に見えるが、「ウォール・ストリート・ジャーナル」によれば、「輸入価格弾力性」と「関税伝導率」は互いに逆数であり、掛け合わせると1になる。
要するに、貿易代表事務所の公式を簡単に説明すると、各国のアメリカに対する貿易黒字をアメリカへの総輸出額で割ったものである。
この単純な計算方法が明らかになると、ネット上では「小学校の算数レベル」と揶揄する声が上がった。アメリカの貿易政策がこのような単純な計算式に基づいているとすれば、その合理性に疑問が生じた。
どう考えるべきか? トランプチームの実力は非常に強力である。ベッセント財務長官は、クオンタムファンドやイギリス中央銀行での経験を持ち、マクロ戦略、金融、貿易の分野でトップクラスの専門家である。
また、マスク氏は世界で最も賢い頭脳の一人であり、DOGEの監査に忙しく、そのスピードと効果は驚異的である。さらに、彼はソーシャルメディアプラットフォームXと人工知能会社XAIを買収し、談笑の合間に数百億ドルを稼いでいる。
商人トランプ大統領は、第一期の任期中、政治の素人として、ほとんど誰も理解できない乱打で、アメリカに低油価、低失業率、50年ぶりの低インフレ、高成長をもたらし、中国共産党(中共)を打ちのめし、戦争を一度も起こさなかった。したがって、こうした百年に一度のチームを「寄せ集めの集団」と嘲笑するのは、確かにやりすぎであろう。
しかし、多くの人々は、この意見に賛同しないかもしれない。彼らは、アメリカが他国に高い税率を課していることを指摘するだろう。EUは20%、インドは26%、韓国は25%である。これらの国が崩壊すれば、アメリカにはどんな利益があるのか。
実際、これはトランプ大統領のスタイルを理解していないことを示している。彼は、極限の圧力をかけて既成概念を打破し、相手を交渉のテーブルに引きずり込むことを得意とする。高い税率は商人の法外な要求を反映したものであり、彼の狙いは各国に値切りをさせることである。
また、「柔軟なシステム」は虚構にすぎないが、これらの国々はアメリカに対して、高額な貿易黒字を抱えているため、トランプ大統領は彼らに黒字を減らしてほしいと考えたのだ。世界最大の市場を失いたくないのなら、これらの国々は、新しい条件を提示する必要がある。例えば、関税を下げたり、関税障壁を減らしたり、通貨を操作しない、あるいはアメリカ製品をもっと購入するなど、自らの条件を決めることが求められたのだ。
さて、アルゴリズムを簡素化することには一つの利点がある。それは、他国が予測できず、交渉の場でより柔軟なスペースを確保できることである。現在、様々な情報が飛び交っているが、確かなことは、この数日間、世界各国がアメリカと交渉し、高関税の撤廃を求めるだろうということである。
なぜロシアを罰しないのか? 二つの理由
注目すべきは、リストにほとんど知られていない、いくつかの島国が含まれている一方で、ロシアが含まれていないことである。ネット上でトランプ大統領を嫌う人々は、これが再びトランプ大統領がプーチンを喜ばせようとしている証拠だと主張しているが、この認識は誤りであろう。
真の理由は二つある。第一に、ロシアがウクライナ戦争を引き起こしたため、バイデン政権は、ロシアに高い関税を課した。第二に、トランプ大統領は、ロシアと共に中共に対抗しようとしたのであった。
2022年2月、ロシアがウクライナに全面侵攻した際、バイデン大統領は、ロシアとの通常貿易関係(PNTR)を取り消し、厳しい懲罰的関税を導入した。
2022年3月には、アメリカがロシアのエネルギー製品(石油、天然ガス、石炭など)に対する輸入禁止を実施し、関税の問題は解消した。
2022年6月27日、約23億ドル相当の570種類のロシア商品に35%の関税を追加すると発表した。
2023年2月24日、ウクライナ戦争の1周年を迎え、バイデン大統領は、金属および鉱産物の関税を35%から70%に引き上げ、約28億ドルのロシアの輸入商品に影響を与えた。
さらに、ロシアのアルミニウムおよびアルミ製品には200%の関税が課され、3月10日から施行した。
製品にロシアで精錬または鋳造された原料を使用している場合、4月10日から200%の関税を適用すると言う。
したがって、トランプ大統領は、現行の制裁がロシアとの貿易を抑制するのに十分であり、追加の相互関税は不要と判断したのだ。ホワイトハウスの官僚は、ロシアが4月2日に発表した相互関税リストに含まれていない理由を「両国の貿易がほぼゼロにまで減少したから」と説明した。
さらに、トランプ2.0の外交政策の一環として、中共の抑制を強化することが挙げられた。ロシアと連携して中共に対抗する、あるいはプーチンを「虎の戦いを傍観する賢い猿」として位置づけることは、トランプ大統領の明確な戦略であり、隠れた行動ではない。これはアメリカの公然たる国家戦略である。
誰が最も傷ついたのか? 4か国がアメリカに対して0関税を発表
関税戦争の結果について、現在大きな議論が巻き起こっている。
トランプ大統領は、これをアメリカの「経済独立宣言」と称し、貿易顧問のナバロ氏は「アメリカ史上最大の減税」と述べた。
彼らは毎年6千~7千億ドルを回収し、それを減税の形でアメリカ国民に還元できると主張した。
しかし、批判も多い。上院民主党のリーダーであるシューマー氏は、トランプ大統領が関税を引き上げたのは、富裕層の友人たちに税金を課すためであると非難した。
多くの国のリーダーも、トランプ大統領の「解放日」を失望と表明し、脅迫し、交渉を呼びかけている。
中共は「貿易戦争に勝者はいない」と主張し続けている。
一方、アメリカの株式市場は急落し、3日には2.8兆ドルの時価総額が消失し、S&P 500は約5%下落した。
では、増税はアメリカにとって利点か、それとも欠点か? 私の見解では、良し悪しを論じること自体が誤った命題である。なぜなら、どんな政策も一部の人々には利益をもたらし、他の人々には損害を与えるからである。
したがって、正確な問いはこうなる。関税戦争において、誰がより大きな利益を得ているのか? 誰が最も深刻な被害を受けているのか? 興味深いことに、アメリカの著名な政治家たちはすでに自らの見解を示している。
まず、中国の人権を支持することに力を入れている民主党の下院リーダー、ペロシ氏の例を挙げる。1996年、彼女は中共がアメリカに対して高額な関税を課し、天安門大虐殺の後にアメリカに対する黒字が急速に10倍に増加したことを批判した。具体的には、30億ドル~340億ドルに増加した。彼女は「これは相互利益と言えるのか?」と問いかけた。
次に、上院民主党のリーダーであるシューマー氏の例を挙げる。2018年、シューマー氏は中国に対する関税の導入についてトランプ大統領を支持し、トランプ大統領がブッシュ大統領やオバマ大統領よりもこの問題において優れた対応をしていると考えたと言う。
このような事例は多い。例えば、2008年にサンダース氏は、関税のない自由貿易圏の設立を批判し、それがアメリカの製造業を壊すと警告した。
したがって、導き出せる結論の一つは、アメリカの政商界のエリートたちが、アメリカが変革を必要としていることを理解し、関税の復活が製造業と雇用を促進することを認識しているということである。
関税の引き上げには短期的な痛みが伴うが、それは受け入れるべき代償であり、そして最終的には、各国がアメリカと交渉を行ったとしても、アメリカは一部の関税を維持し続けるだろうと言う事だ。
これは、新しい関税を通じて、トランプ大統領がアメリカと外国企業に発信している明確なメッセージであった。
「グローバリゼーションの時代は終わった」
過去の自由貿易や低関税、アメリカの寛大な生産ラインの移転によって築かれたグローバリゼーションは、終焉を迎えたのだ。
この過程で、各国は、アメリカとの関係を再構築しようとするだろう。アメリカに接近する国々は、トランプ大統領が関税を撤廃または大幅に引き下げる一方で、対抗する国々は、より大きな打撃を受けることになる。
ネット上では、誰が柔軟に対応できるか、誰が最も早く利益を得るかに注目している。実際にそうなるだろう。例えば、ニュージーランドは報復を求めないと述べている。なぜなら、それは消費者の価格を押し上げ、インフレを引き起こすからである。
しかし、現在ネット上で流れている情報には誤りがあり、「インド、イスラエル、メキシコ、カナダが、アメリカにゼロ関税を実施する」という話は、今のところ実現していない。
実際、カナダはアメリカから25%の自動車関税を課せられており、自動車産業はアメリカが回帰を望む戦略的な分野である。
最も大きな打撃を受けるのは中国である。中国には34%の関税が課せられ、累計で54%を超えた。また、中国から生産ラインを移転した国々、特にベトナムも、トランプ大統領の関税戦争の影響を大きく受ける。
実際、中米貿易の黒字は、長年にわたり毎年3千億ドル以上を維持しており、転送貿易や産地の洗浄を考慮すると、中国のアメリカに対する貿易黒字は、世界全体のアメリカに対する黒字のほぼ半分を占めている。
これはトランプ大統領の「相互関税」の主要なターゲットであった。さらに、中共は長年にわたりアメリカの知的財産を盗み、台湾に対して攻撃を仕掛け、アメリカの世界的なリーダーシップを覆そうとしているので、トランプ大統領のさらなる強硬策も控えているのだ。
新たな関税戦争の下で 中国が深刻な打撃を受ける理由
中国が新たな関税戦争の中で深刻な打撃を受ける理由は以下の通りである。
1)中国は輸出依存度が高く、製造業や対外貿易企業が最も早く影響を受ける。
2)代替市場の発見は困難である。ヨーロッパの需要は低迷し、「一帯一路」諸国の消費力も不足している。そのため、トランプ大統領の高関税を回避するために、中国製品の原産地偽装を厳しく監視する必要がある。
3)アメリカは技術封鎖や金融制限などの措置を講じている。
4)中共の高官たちは「内循環」と「高品質な発展」を強調しているが、短期的にはアメリカへの輸出が急激に縮小した影響を受けている。
中国は「関税 + 技術 + 金融 + 地政学」という四重の圧力に直面し、迅速にアメリカに対する戦略を調整しなければ、この経済貿易の再構築において最大の敗者となるだろう。
トランプ大統領の狙い
トランプ大統領の狙いは、グローバリゼーションの時代を終わらせ、中共に打撃を与えることである。
トランプ大統領の関税調整の根本的な目的は、過去30年間、アメリカが「最も無防備な市場」として機能してきた状況を終わらせることである。これは、グローバリゼーションの終焉、再工業化、中共への反撃という三つの側面を持つと言う。
グローバリゼーション1.0(1990-2020)は、中国の台頭とアメリカの産業の空洞化が特徴であった。
トランプ大統領の「再工業化」「重要産業の回帰」「公正貿易」というスローガンは、グローバリゼーション2.0の終焉を示した。
アメリカは「階層的なグローバル貿易システム」の再構築を進めている。
1)コアな友好国 アメリカとその同盟国(イギリス、イスラエル、オーストラリアなど)
2)半友好国 対話と批判が可能な国々(ヨーロッパ、日本、インド、韓国など)
3)周縁国と敵対国(中国、イランなど)
小さなグループがアメリカに立ち向かうことはできるか
多くの人々は、トランプ大統領が四面楚歌の状況を生み出し、アメリカが道義や友人を失う危険性があると考えている。しかし、実際にはそれは不可能である。
EUはトランプ大統領に対して不満を抱いているが、これは友人同士の利益配分の問題にすぎない。むしろ、彼らは中共に対する警戒を強める必要があった。
アジアでも同様の状況が見られる。以前、一部の報道では日本、中国、韓国の三国がアメリカの関税に共同で対処することで合意したと言っていた。しかし、4月2日、武藤容治経済産業大臣は4月1日の記者会見でそのような議論は全くなかったと明言した。
つまり、トランプ大統領の新たな関税戦争は、単なる税金の引き上げや製品のアメリカ製化にとどまらない。実際には交渉を重ね、友好関係を再構築しようとしているのだ。
トランプ大統領は貿易戦争に加え、制度戦争や価値観の戦争も展開している。
次のステップとして、世界は「国と国の間で経済関係を再定義する」と言う再構築期に突入するのだ。
誰が妥協し、誰が背を向け、誰が古い体制を守るのか。この選択が、世界貿易の再構築において生き残るか、さらには先行するかを決定するだろう。
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