ニューヨーク連邦地裁のジャネット・バルガス判事は4月11日、米財務省の機密性の高いシステムへのアクセスを一部制限していた命令を緩和し、政府効率化省(DOGE)の職員1名に対し、条件付きで連邦の支払いシステムへのアクセスを許可する判断を下した。
今回対象となったのはDOGEチームのライアン・ワンダーリー氏で、財務省の財務業務局(BFS)が管理するシステムにアクセスするためには、まず通常の実地研修を修了し、倫理審査を目的としたOGE 278財務開示報告書を提出する必要があるとされた。
BFS支払いシステムには、数千万の米国民の社会保障番号や銀行口座番号など、極めて機密性の高い個人・金融情報が含まれており、取り扱いには厳格な安全管理が求められている。
DOGEは、トランプ大統領が就任初日に創設した行政機関で、連邦政府の非効率を洗い出し、歳出削減を推進することを目的としている。
「無秩序な導入」に異議 19州が訴訟
この訴訟は、2024年2月に民主党が主導する19の州が提起したもの。原告側は、DOGEの政治任用職員がBFSのような重要システムにアクセスすることで、プライバシーとサイバーセキュリティ上のリスクが高まると主張した。
財務省が十分な審査・研修・監督を行わずにアクセスを許可した点については「恣意的で不透明な対応」だとして、問題視された。
2月末にはバルガス判事が一時的な差し止め命令を出し、特定の手続きを満たさない限り、DOGE職員によるBFSシステムへのアクセスを禁止。訓練の完了、身元確認、リスク管理措置の実施などが条件とされ、当時の裁判所は「DOGEの導入は混乱し、計画性を欠いたものであった」と厳しく指摘していた。
研修の未実施は「キャッチ22」 裁判所が条件付きで許可
今回の判断で裁判所は、政府が提出した12通・計54ページの宣誓供述書によって、少なくともワンダーリー氏に関する懸念は「概ね解消された」とした。
バルガス判事は、これまで不明瞭だったセキュリティクリアランス、組織上の指揮系統、研修体制、採用権限などの点について、「政府の説明により懸念は大きく軽減された」と述べた。
さらに、ワンダーリー氏が必要な研修を実施していないことについては、「その原因は、そもそも一時的な差し止め命令でシステムに入れないからであり、まさに自己矛盾的状況だ」とし、柔軟な判断を示した。
裁判所は対応策として、ワンダーリー氏が実地研修の完了とOGE 278財務開示報告書の提出を条件に、システムへのアクセスを許可するよう命じた。報告書の提出は、倫理的な利益相反のチェックとしても位置づけられている。
財務省によると、ワンダーリー氏はすでに他のすべての研修や身元調査を完了しているという。
財務省はコメントを控えている。
このほか、ワシントンD.C.連邦地裁でも同様の訴訟が審理されており、コリーン・コラー=コテリー判事は当初の制限を解除。「DOGE職員が情報を不正使用または漏えいすることを示唆する証拠はない」との判断を下した。
DOGEに対しては、その急速な権限拡大と連邦政府中枢への介入に懸念が広がっている。一方で、DOGE側は、助成金の打ち切り、契約の解除、資産売却、人員削減などを通じて、約1500億ドル(約22兆円)の支出削減を実現したと説明している。
DOGEの法的権限や活動の是非をめぐる議論は、複数の州および連邦裁判所で今も続いている。
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