米中貿易摩擦の激化を背景に、中国企業の株式がアメリカ市場で取引禁止となる問題が現実味を帯びてきた。とりわけトランプ大統領の再登場や、スコット・ベッセント財務長官の発言を受けて、ウォール街が次なる米中対立の主戦場となる可能性が高まっている。
トランプ大統領は一期目の任期中、中国企業の株式を米国証券取引所から上場廃止(デリスティング)する措置を検討した。最終的には一部中国企業への投資を禁じる大統領令にとどまったが、再び強硬策に踏み切る可能性は十分に存在する。ベッセント財務長官も「すべての中国企業株をアメリカ市場から排除する可能性がある」と発言し、市場の警戒感を一層強めている。
中国企業の株式が米国市場で取引停止となった場合、まず上場廃止が現実となる。これは株式が証券取引所の取扱対象から除外され、投資家がその市場での売買を行えなくなることを意味する。2020年に制定された「外国企業説明責任法(HFCAA)」は、アメリカの監督当局による3年連続の監査が不可能な外国企業に対し、米国証券取引委員会(SEC)が上場廃止の判断を下す権限を与えている。中国共産党政府は監査資料の国外持ち出しに厳しい制限を課しており、それにより一部中国企業はすでに自主的に米市場から撤退する判断を下している。
現在、アメリカの主要取引所には約300社の中国企業が上場している。その中にはアリババ、バイドゥ、テンセント、JDドットコム、ピンドゥオドゥオといった世界的企業も含まれる。これらの企業がアメリカ市場から排除された場合、アメリカの投資家は保有する米国預託証券(ADR)を香港市場の株式へ転換する選択肢を持つ。しかし、多くの投資家は流動性の低下や手続きの煩雑さを嫌い、売却を選ぶ可能性が高い。その結果、大量の売りが発生し、株価の急落を招くことになる。
ゴールドマン・サックスの試算によれば、アメリカの機関投資家は約8千億ドル相当の中国企業株を保有している。これらの株式が一斉に売却されれば、株価の大幅下落と市場の混乱は避けられない。また、中国政府も報復措置として、約3700億ドル相当のアメリカ株や1.3兆ドルを超えるアメリカ国債を売却する可能性を持っており、その影響はアメリカ市場全体に及ぶ。
しかしながら、アメリカにおける中国高官や富裕層の資産移転の実態を考慮すれば、中国政府が本格的な報復に踏み切る可能性には疑問が残る。彼らは過去何年にもわたり、莫大な資産をアメリカに移してきた。果たしてそのような立場にある者たちが、アメリカ経済の混乱を望むのか。仮にアメリカ株を保有しているならば、それを売却して報復手段とする発想自体が非現実的である。
一方で、中国企業が米市場から撤退し、香港市場などに再上場した場合についても懸念が残る。香港市場はニューヨーク市場と比較して規模や流動性が劣り、多数の企業が一斉に流入することにより、株価のディスカウントや資金流出といった新たなリスクが生じる可能性が高い。
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