4月中旬、中国共産党党首の習近平は、ベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪した。米中関税摩擦が激化する中、中共は、東南アジアとの関係強化を急いだが、各国のアメリカ接近も浮き彫りとなった。
歴訪の背景と目的
トランプ米大統領が、中国に対して新たな高関税を課し、中国経済に大きな圧力がかかる中、4月8日・9日に習近平は初の「周辺工作会議」を開催。ここで「周辺は中国の安身立命の基」と強調し、近隣諸国との「運命共同体」構築や「一帯一路」構想の推進、そして「アジア安全モデル」の初提唱に踏み切った。
この会議の直後、4月14日から18日にかけて習近平は、ベトナム、マレーシア、カンボジアを順次訪問した。ASEAN諸国との連携強化を通じて、米国主導の包囲網を突破しようとする中国の意図が明確に表れた歴訪となった。
ベトナム
ハノイに到着した習近平は、ベトナム共産党の最高幹部らと会談し、両国間で40を超える覚書に署名した。鉄道や港湾開発、AI・半導体、農業、気候変動、教育など多分野での協力推進を確認した。特に中国の技術と資金による鉄道建設や国境ゲートの開発など、インフラ分野での連携が目立った。
共同声明では、「戦略的意義を持つ中越運命共同体の加速的構築」が掲げられた。これは2023年12月の習近平訪越時に合意した「運命共同体」構想をさらに具体化するものだった。
マレーシア
マレーシアでは、首都クアラルンプールで国王や首相らが習近平を歓迎。両国は「高水準戦略的中馬運命共同体」の構築を目指す共同声明を発表し、今後50年にわたり関係を深化させる方針を明確にした。
また、外交・防衛分野での「2+2」対話メカニズム設立にも合意し、経済だけでなく安全保障面でも協力を強化する姿勢を示した。
カンボジア
カンボジアでは、国王自らが空港で出迎え、沿道には2万人以上の市民が歓迎。歓迎式典や晩餐会では、王女が中国語で歌を披露するなど、極めて親密な雰囲気が演出された。
両国は「新時代全天候型中東運命共同体」の構築を掲げ、政治的信頼、経済協力、安全保障、人文交流、戦略協調の五本柱で関係深化を確認した。
中共の「運命共同体」構想
今回の3か国歴訪で、習近平は「人類運命共同体」や「命運共同体」という中国共産党独自の外交用語を前面に押し出した。これは、中国共産党主導の国際秩序構築を目指すものであり、東南アジア諸国との連携の枠組みとして、積極的に用いられた。
各国との共同声明では、それぞれの二国間関係に即した「運命共同体」構築の方向性が明示され、特にベトナムとの間では、戦略的信頼や安全保障、海洋協力など六つの分野での協力強化が謳われた。
歴訪直後 3か国は米国接近
習近平の帰国直後、状況は急転直下した。3か国は相次いでアメリカや他国との関係強化に動いた。
カンボジア
カンボジアでは、中共が巨額を投じて改修したレアム海軍基地に、日本の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が寄港。カンボジア側は「全ての友好国の艦船に開かれている」と強調し、中共への特権付与を否定した。中共の戦略拠点化を警戒する国際社会への配慮がうかがえた。
マレーシア
マレーシアは、中共が、米中貿易摩擦を背景に受領を停止したボーイング機の購入を検討。さらに、マレーシアの一部輸出企業は、アメリカへの生産移転を検討し始めるなど、アメリカ市場への依存度を高める動きが見られた。
ベトナム
ベトナムはアメリカからF-16戦闘機を24機以上購入することで合意したと報じられた。この契約が成立すれば、ベトナムにとって、過去最大規模のアメリカとの防衛協力案件となり、アジア太平洋地域でF-16を導入する5番目の国となる。
一方、ベトナム政府は、中国製品の「原産地偽装」対策を強化し、アメリカの対中制裁関税を回避するために、中国製品がベトナム製と偽装されて、アメリカへ輸出される行為の取り締まりを強化する命令を出した。これは、輸入品の約40%が中国から来ている現状を踏まえ、ワシントンの懸念に対応したものだ。
総括
習近平の東南アジア3か国歴訪は、米中対立下で、中共が近隣諸国との関係強化を急ぐ姿勢を鮮明にした。しかし、訪問直後に3か国がアメリカや他国との関係強化に動いたことで、中共の「運命共同体」構想の限界も露呈した。
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