これはアクション映画ではない。中国貴州省の省都・貴陽市の路上で、現実に起きた「客争奪バトル」だ。
4月22日、タクシーを拾おうと手を挙げた男性市民に向かって、2台のタクシーが同時に突進。どちらが先に客を取るか——まるで命がけのチキンレースのような惨劇が、現場に居合わせた別の車のドライブレコーダーが克明に記録していた。
映像には酔っぱらった様子の男性が、道路脇でタクシーを呼ぶ様子、そこへ獣のように飛び出す2台のタクシー。次の瞬間、1台が男性の懐へ飛び込んだ。幸い男は間一髪で反応し、タクシーのボンネットに手をついて後ろへと自ら跳ねた。なんとか車と体の直接の接触を避けたものの、彼の体は宙を舞ってとんぼ返りをし、その後、路上を転がった。

誰もが最悪の結末を想像したが、男性はその後、奇跡的にほとんど無傷(かすり傷)で生還している。男はゆっくりと起き上がり、困惑しながらも、なぜか自分をはねた「情熱的なタクシー」のほうへと向かっていった……。もちろん、ぶつかってくれた「ご挨拶」は忘れなかった。
「どこ見て運転してんだー!」と文句をぶつぶつ言いながら男は、タクシーへ向かい、運転手もようやく車から降りて来た。

この男は強運の持ち主なのか、それとも不運な市民なのか、結論に苦しむところだが、この事件は多くのメディアで報道されて、一躍有名人になってしまった。後に、「なんのことはない、かすり傷だ、みんな心配しないで」と関連トピックスのコメント欄で報告した。
SNS上では「俺は酔っぱらっているけど、あんた(タクシー)も酔っぱらってんのか?」「結局は最後に客を拾ったのは救急車」「タクシーA 俺の客だ、タクシーB いや俺のだ、救急車 結局は俺の客だ」と、ブラックジョークが飛び交った。
(当時の様子)
中国ではここ数年、景気の失速が深刻化し、失業やリストラが相次いでいる。生計を立てる手段として、配達員や配車アプリ運転手などに転身する人が急増する一方で、市場はすでに飽和状態。
そんな中、わずかな客を巡って運転手同士が命懸けで競い合うという、異常な風景が日常化していた。
この事故は、単なる交通トラブルではなく、中国経済のひずみが、今や庶民の安全すら脅かしているという現実を、痛烈に映し出した。
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