暮らしを支えるロバ 皮をはぎとられ中国漢方に=ケニア

2019/02/21
更新: 2019/02/21

「ロバは私たちの生計を支えている。ロバがいるから子どもを学校に行かせられるし、食卓に食べ物を並べられるのもロバのおかげだ。もし、再びロバが盗まれて殺されることになったら、これは…家族にとって致命的な打撃だ」

ほこりっぽい良く晴れた朝、ケニア首都ナイロビから20キロ離れた小さな村ロンガイ(Rongai)で、デビッド・キニャンジュイ(David Kinyanjui、46歳)さんは水汲みに忙しくしている。

3人の子どもを養うデビッドさんは、ロバを使用した運送業を営む。20リットルのポリタンクに水を汲んでロバに乗せ、地域を回り販売している。時にセメントやレンガなど建築資材も運ぶ。

条件の良い日なら、1日に3000ケニア・シリング(約3300円)を売り上げるという。乾季が訪れると、水道水の供給量が減るため、住民はロバが運ぶ水を買いにくる。

水を売りに回るデビッドさん。2019年2月5日撮影(Dominic Kirui for The Epoch Times)

デビッドさんのロバは2頭目だ。最初のロバは盗難に遭った。その後半年、デビッドさんは荷車を自ら引っ張っていかなければならなくなり、生計維持が難しくなった。その間も、デビッドさんは失踪したロバを探し続けた。

ロバの足と頭部が、茂みの中に捨てられていた。「友人から、ロバの肉と皮は解体処理場に売られたと聞かされた」と、デビッドさんは大紀元英語版の記者に語った。

中国漢方のなかで、ロバの皮は阿膠(あきょう)と言われる生薬になる。固めたゼラチンで、美容、婦人病、貧血、滋養強壮に効果があるとされる。動物保護団体によると、中国にはかつて世界で最も多いロバが生息していたが、乱獲により以前の1200万頭から600万頭未満まで減少した。このため、阿膠の製造業者は、東アフリカから原料を輸入している。

阿膠は肌クリームや飴などにも使用されている。中国での需要が高まり、ケニアでもロバの価格が暴騰した。デビッドさんのようにロバを荷運びに使っていた住民はロバを買えなくなった。ロバの皮の乱獲問題を受けて、アフリカの6カ国はロバの皮の輸出を禁止した。しかし、中国業者との闇取引や国内の略奪と密輸出は続いており、問題は地下に潜った。

ケニアはロバの皮の輸出を禁止していない。少なくとも解体処理場が5カ所ある。

大紀元の取材に答えた匿名の動物保護研究者によると、多くのアフリカ諸国の村々は、ロバの食肉解体場の設置に強く反発している。汚職、腐敗、闇取引、イメージの悪さから、エチオピアでは、稼働前の食肉解体場が何者かに放火された事件がある。

この研究者はナイロビを拠点とする、アフリカ全土で動物保護の非政府組織に関わっている。阿膠の需要の高まりがケニアのロバの略奪と虐殺につながった、と彼はみている。

「地域の首長や政治的指導者は賄賂を受け取っている。住民の意思に反して食肉解体場は設立されてしまう」と同研究者は述べた。

ロバ狩り

フレデリックさんは失踪したロバを探している 。2019年2月5日撮影(Dominic Kirui for The Epoch Times)

ロンガイ村の水辺から少し離れたところに、フレデリック・オティエノ(Frederick Otieno)さんの自宅はある。失踪したロバを探しに行くフレデリックさんに記者は同行した。殺害されたロバの残骸があるかどうかも、彼は探している。

しかし、ロバは今日も見つからなかった。良く働き生計を支えてくれた、あの元気なロバの姿はどこにもない。どこを探せばいいかも分からない。

フレデリックさんは、1日の運搬作業を終えたのち、ロバを牧草地で放し飼いにしていた。家に戻れば、盗難を防ぐためにロバの脚部を鎖で繋いでいた。

「少なくとも足と頭部が見つかれば…(諦める)。略奪者はいつもその部位を残していく。皮をはぎ取り、肉をそぎ落として運ぶ。最近、中国人が皮を買っているとの話を聞いた」とフレデリックさんは述べた。

アフリカ全土で、商業においても家事においてもロバの労働力に頼っている家庭は多い。しかし、急速に略奪被害は拡大している。環境保護団体によると、2009年時点でケニアに180万頭が生息していたとされるが、10年経って半減したと言われている。

フレデリックさんは、残忍なロバの虐殺について説明した。盗まれたロバは木の幹に縛られて、脱走しないよう足を切断される。そして中国人経営の食肉処理場に運ばれていく。

自宅で管理していた当時、ロバをつないでいた鎖。2019年2月5日撮影(Dominic Kirui for The Epoch Times)

ケニアでは4~5年前、ロバ1頭の価格は4000シリング(約4400円)だったが、現在は3倍に跳ね上がった。一部の食肉処理場は、1頭分のロバの皮に対して、1万シリングで買い取る。近年ロバの皮の買取価格が高騰しており、ロバの略奪が後を絶たない。

密輸業者は近隣国に出かけ、エチオピア、タンザニア、ソマリアでもロバの強盗が起きている。

英国の慈善団体「ロバの保護区(The Donkey Sanctuary)」後援の「オックスパッカー調査環境書(Oxpeckers Investigative Environmental Journalism)」によると、中国における生薬の需要増加で、東アフリカ諸国から数千頭分のロバの皮が供給されている。ケニアは、その密輸拠点となっている。

調査報告によると、800万頭のロバが生息するといわれるエチオピアでは、公営家畜競りで1カ月に最大3000頭のロバが取引される。1頭当たり1600~3000ブル(約6400~1万2000円)の値幅で、健康なオスは高値が付く。

「アフリカでは、すでにロバの皮の取引を禁止している国がある。サハラ以南のアフリカの家族は、生活を支えるためにロバが重要な役割を果たしてきた。たとえロバ解体業者が『雇用を生んでいる』と主張したとしても、アフリカの生活を支えてきたロバを失うという損失を埋めることはできない。直ちに閉鎖されるべきだ」と匿名の同研究者は記者に述べた。

(文、撮影・ドミニク・キルイDominic Kirui/翻訳・佐渡道世)