中国大手企業の影の所有者か、江沢民孫・江志成氏の錬金術

2019/06/11
更新: 2019/06/11

中国一の富豪と言えば、電子商取引最大手アリババ集団の馬雲会長や、不動産コングロマリットの大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林会長などと、名を挙げる人は少なくない。近年、中国高官らへの汚職摘発や、海外メディアが報道した租税回避行為に関する機密文書、「パナマ文書」などから、真の中国一の富豪は、江沢民元国家主席の孫、江志成氏の可能性が高い。

1986年生まれの江志成(Alvin Jiang)氏は、江沢民の長男・江綿恒氏の息子。米名門ハーバード大学経済学部を卒業した後、2010年米金融大手のゴールドマン・サックスに入社し、プライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)部門で勤務した。9カ月後に退社し、香港で投資会社、博裕資本有限公司(Boyu Capital)を設立した。ロイター通信は2014年に発表した特集記事で、江志成氏が江沢民の孫をかさに、世界最大のPEファンド市場である中国国内で巨万の富を得たと指摘した。

2019年4月以降、米国に亡命した中国人富豪の郭文貴氏は複数回、江志成氏の保有資産は5000億ドル(約54兆円)にのぼり、江沢民一族は海外で少なくとも1兆ドル(約108兆円)の資産を持つと暴露した。

また、郭氏は中国有名企業の華為技術(ファーウェイ)、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)など10社は、事実上「国有軍事企業」で、江沢民一族に支配されていると話した。

江志成氏の錬金術

江沢民、江綿恒氏が特権を利用して、国内の不動産業、通信業、金融業、医療など各主要業界を牛耳ってきた。

三代目の江志成氏はさらに大きな野心を持っている。中国国内にとどまらず、米国そして全世界の富を得ようとしている。江志成氏は特に、金融市場を密かに掌握して、素早くより多くの富を手に入れることを企てた。

江志成氏は、中国企業の資本操作を通して、香港や米国など海外金融市場で簡単に数千億ドル規模の収益を手に入れることができることを心得ている。この間、江志成氏がやるべきことはただ一つ。江沢民の影響力を使って、中国企業と、中国で金儲けをしたい外国金融機関をコントロールして、言いなりにさせることだ。

この方法で最初に巨万の金を取得したのは、北京と上海の国際空港で免税店を展開する、日上免税行の株式取得だった。同社は中国当局の営業承認を得た外資企業で、江沢民一族に近い中国系米国人、江世乾(英語名、Fred Kiang)氏がその創業者。

ロイター通信の報道によると、江志成氏が率いる博裕資本は2011年、日上免税行に対して行った企業価値評価では、同社の価値が2億ドル(約217億円)とした。博裕資本は、約8000万ドル(約86億円)を出資し、同社の株式40%を取得した。しかし、日上免税行が中国当局に提出した2012年の売上報告に基づき、専門家は日上免税行の企業価値が16億ドル(約1735億円)との見方をしめした。すなわち、博裕資本が株式取得を通して、その1年間で7倍以上の利益を得たという。

香港メディア「壹週刊」は2014年、江志成氏ら中国の太子党(当局高官らの子弟)が香港金融市場を通じて、巨利を貪っているという暴露記事を発表した。太子党の中には、国際投資銀行大手に就職したり、または香港で投資ファンドを設立する人が多い。そして、国内外の富豪から資金集めを行い、国内企業に投資する。

「例えば、博裕資本が初めて行ったPEファンドは、機関投資家や個人投資家から10億ドル(約1085億円)規模の資金を集めた。投資家の中にアジア一の富豪、李嘉誠氏がいた」

しかし、金融市場以外で江志成氏の最大の狙いは、中国を代表する世界的有名IT企業、アリババ集団だ。

アリババと江志成氏

江志成氏が博裕資本を設立した当時、アリババ集団はすでに国内電子商取引大手に成長していた。傘下の電子決済サービス、「支付宝(アリペイ)」は国内業界最大手となった。

2011年以降、アリババ集団の社内でいくつかの変化があった。たとえば、2011年5月、アリペイの株式譲渡をめぐる騒動が起きた。

アリババ集団の主要株主である米ヤフーは同年5月11日、米証券取引委員会(SEC)に経営業績報告書を提出した。これによると、アリババ集団が米ヤフーや日本のソフトバンクなどを含む株主の承認を得ないまま、強制的に傘下アリペイの株式を、アリババ集団の馬雲会長がオーナーを務める中国資本企業の「浙江アリババ電子商取引有限公司」に譲渡した。

当時アリババ集団側は、電子決済サービスを提供する企業は必ず中国資本の企業でなければならないという中国当局の政策に従い、アリペイを外資企業から中国資本企業にする必要があったと説明した。

しかし、「南方週末」や「羊城晩報」など中国国内メディアは、アリババ集団の説明には根拠がないと批判した。報道は、中国当局が当時承認した電子決済サービス会社27社のなかで、半分は外資企業だと指摘した。

アリババ集団が強制的にアリペイの株式を譲渡したことは、株主の正当な権利を害した。また、同社のつじつまの合わない説明をめぐって、一部の海外メディアは、江志成氏が背後で動いているとの見方を示した。江志成氏がアリペイの将来的な収益性を見込んで、アリババ集団から取り出して懐に収める狙いがあったという。

2014年、浙江アリババ電子商取引有限公司は、螞蟻金服(アント・フィナンシャル)に社名を変更した。

江志成氏とアリペイの関係をめぐって確かな情報はないが、博裕資本とアリババ集団の協力関係に関する報道はよくある。たとえば、2012年9月、博裕資本と中国当局系投資会社2社、中信資本控股有限公司(CITICキャピタル)と国開金融有限公司は、アリババ集団に共同出資した。この3社の資金支援の下で、アリババ集団は米ヤフーが保有するアリババ集団の株式の買い戻しに成功した。

2014年9月、アリババ集団は米ニューヨーク証券取引所に上場を果たした。上場当日にアリババ集団の時価総額は2000億ドル(約21兆6900億円)を突破した。アリババ集団の主要個人株主として、馬雲会長は名目上、中国一の富豪となった。

海外中国語メディアによれば、2012年、アリババ集団に対して4億ドル(約434億円)を投資した博裕資本は、2014年、アリババ集団の米上場で約20億ドル(約2169億円)の収益を獲得した。しかし、これは江志成氏にとって「お小遣い稼ぎ程度の金額」でしかなかった。

米国でのアリババ流通株の変化

アリババ集団が2014年に公開したポストIPO資料(https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1577552/000119312514347620/d709111d424b4.htm)によると、馬雲会長を含む経営陣が同社の14.6%、馬雲会長個人が7.8%、ソフトバンクが32.4%、米ヤフーが16.3%の株式をそれぞれ保有する。残り30%の流通株(自由に売買できる株)の株主についての情報は示されていなかった。

また、アリババ集団が2018年、米SECに提出した20-F年間報告(https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1577552/000104746918005257/a2235254z20-f.htm)によると、2018年7月18日まで、アリババ集団が発行した流通株の数は25億9218万4258株。米国の128の登録株主(record shareholder)が、その中の64.4%の流通株を保有する。これらの登録株主には、個人株主の代わりに株式を保有する金融機関や証券会社が含まれる。アリババ集団は同年間報告で、経営陣や株式5%以上を所有する実質株主(beneficial shareholder)のリストだけを披露した。

一方、米メディア「ヤフー!ファイナンス(Yahoo Finance)」がアリババ集団の2017年13-F四半期報告を分析したところ、2017年12月31日まで、1926の米国金融機関と証券会社が、アリババ集団の流通株の約40.54%(10億5000万株)を保有していたことが分かった。

2017年末の報告書と2018年7月の報告書を比較すれば、2018年上半期において、アリババ集団の米国登記株主の数が1926から128に激減したにもかかわらず、その所有する株式は10億5000万株から16億7000万株に拡大した事実が浮かびあがった。

これは、1926の在米登録株主が持っているアリババ集団の株式を、128の登録株主に売却あるいは譲渡したということと同時に、大量のアリババ株が米国に流れたことを意味する。

この現象について、ネットユーザー「Deep Throat」と名乗る米国人会計士は、ネット上で分析記事を投稿し、中国当局が人民元相場を操作するのと同様に、数多くのオフショア企業を通して株取引を行い、今(米国)株式市場を操作しようとしているとの見解を示した。

2018年に世界各国の政府が、政治家や有名人、富豪らの租税回避地の利用に対する取り締まりを次々と強化したことが、アリババ集団の株主構成が大きく変化した原因だとみられる。

海外メディアは、2016年4月に「パナマ文書」と2017年11月に「パラダイス文書」、租税回避行為に関する一連の機密文章を暴いた。米政府と欧州連合(EU)はその後、ケイマン諸島やバミューダ諸島などのタックスヘイブンを利用した脱税行為の締め付けを始めた。米政府とEUの圧力を受けて、ケイマン諸島などの政府は、世界各国の口座情報を交換する制度、CRS(共通報告基準)制度を受け入れ、同国における金融機関の口座情報を欧米各国に提供し始めた。

このため、脱税や身分隠しのためにオフショア企業を設立した米国の政治家や有名人、富豪は、法令順守のためにやむを得ず、海外にある投資を米国内に移動しなければならなくなった。身分を隠したいアリババ集団の株主も同様だ。これが、なぜ2018年上半期において、アリババ集団の米国の登記株主が93%減った一方で、約20%の流通株(約6億2000万株)が米国に流れたかについて、背後にある原因であろう。

米紙ニューヨーク・タイムズが2014年7月21日、アリババ集団の米上場と博裕資本との関係に関する報道を発表した。これによれば、博裕資本の当初アリババ集団への出資は、イギリス領バージン諸島で設立された傘下子会社、Athena China Limited を通して行った。しかし、Athena China Limitedを管理しているのはオフショア企業のProsperous Wintersweet BVIだ。さらに、Prosperous Wintersweet BVIの親会社はケイマン諸島にある投資会社、Boyu Capital Fund I だという。この非常に複雑な所有関係の目的は、明らかに江志成氏の関与を隠すためにあると考えられる。

また、以上の分析をまとめると、江志成氏の支配下のオフショア企業によって、昨年、米国内に大量のアリババ集団流通株が急に流れ込んだ可能性が高い。

米上場を果たしたアリババ集団の時価総額は一時5000億ドル(約54兆2050億円)を上回った。現在は約4500億ドル(約48兆7845億円)の規模になっている。

江志成氏は、アリババ集団だけですでに、膨大な利益を獲得したと推測できる。前述の郭文貴氏が話したように、江志成氏がアリババ集団のほかに、華為技術(ファーウェイ)など多くの中国大手企業や金融機関を掌握していれば、実際に手にした利益は想像を超える規模になっているかもしれない。

一方、非上場企業のアント・フィナンシャルの企業価値は現在、約1600億ドル(17兆3392億円)。米誌「フォーブス」などは昨年8月の報道で、同社が世界最大のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場で、設立10年以内のベンチャー企業を指す)になったとした。

(翻訳編集・張哲)