米国防省報告、中国の対日浸透工作に言及 「日中友好を掲げた政治戦争」

2019/07/02
更新: 2019/07/02

このほど発表された、米国防省情報局(DIA)の報告によると、中国共産党は海外で浸透工作を仕掛けており、米国、台湾、そして日本で顕著であるという。報告書はこれを「政治戦争」と表現している。

2019年1月の同報告によると「政治戦争」とは、中国共産党の勝利のために外国政府の決定や社会の考え方、信念、行動に影響を与える機密の浸透工作。たとえば政府、メディア報道、学術研究論文が対象となり、共産党に融和的で、脆弱な防衛体制を作ることを目的とする。「統一戦線」はその部隊となる。

日本のエリートを対象にする

米シンクタンク・ジェームスタウン財団は、東京大学アジア先進研究所客員教授のラッセル・ヒョウ氏の分析として、政治戦争の重要な要素は、社会の決定権を握る政治エリートに対する浸透工作だと伝えている。ヒョウ氏によると、日本の政治体制のなかで、もっとも強い親中派は自由民主党の田中・竹下内閣だった。しかし、日本の政治は、彼らの影響力を抑止する対策に長らく取り組んでいない。

この分析は、イデオロギー、経済的、政治的な都合のために中国共産党の影響を受けやすい団体を具体的に挙げた。中国国内で平和活動家として認知度の高い、池田大作氏率いる創価学会をベースとした公明党。また、自民党内の融和派で平和主義派閥。小沢一郎氏が率いる野党連合。

沖縄における中国共産党の世論形成

沖縄県における東シナ海の南西諸島は、日米安全保障条約上、戦略的に重要なラインだ。報告によると、沖縄における米国や日本の中央政府への敵意、地域の米軍基地に対する反対運動は、中国共産党の沖縄における関心と同時に高まっている。

2013年、尖閣諸島をめぐる日中の緊張が高まった時期、中国共産党は、沖縄に対する日本の主権を否定したり疑問視したりするメディア宣伝を強調し始めた。2015年、少なくとも一人の中国当局者が「琉球諸島は北京に属している」と主張した。

中国と沖縄の間の経済関係が強くなっている。中国の投資家は、天然資源が豊富で、米軍施設の多い沖縄北部に集中している。

さらに近年、沖縄には中国人観光客が大幅に増加し、中国の都市と沖縄との間の姉妹都市の提携が増加している。

中国はまた、かつての琉球王国の親戚にも積極的にアプローチしている。2018年3月16日から19日に、最後の琉球王・尚泰氏の曾孫、尚勇氏(72)が訪中した。

中国官製・中国新聞の報道によると、尚勇氏は福建省の福建省拓福文教基金会が主催する4日間のツアーの代表として日本からの訪中団を率いた。訪日団を福建省政府副省長も迎え、中国と琉球王国の朝貢ルートなど歴史の史跡をめぐった。

このほどのツアー開催を記念して、鳩山由紀夫氏が代表を務める東アジア共同体研究所の琉球分会から、鳩山氏の書「琉球会館」の字が同基金に贈られた。

このツアー代表団と会談している。尚勇氏は、福建省福州に建てられた琉球会館で「琉球と中国は600年の友好がある」と語った。尚氏らは、福州琉球墓地にある尚泰氏の義兄・尚徳宏氏の墓前に手を合わせた。

同基金の報告によると、この旅行で、日本企業の琉球福建館会会社、福建拓福文化発展有限会社、日中青年経済文化交流協会とともに、「沖縄と中国の歴史的な結びつきを探った」という。

友好を掲げた政治戦争が日本でも顕著だと米国防総省情報局の報告は伝えた。写真は2018年12月、沖縄の米軍基地の移転先でカヌーに乗り反対運動を展開する人々(GettyImages)

「友好」「文化交流」と銘打った日中交流

ヒョウ氏の分析は、日本では広範なネットワークを持つ組織として、中国和平統一促進会(2000年結成)を挙げている。この組織は、中国共産党の中央統戦部(統一戦線工作部)の直轄組織だ。ここから、全日本華僑華人中国和平統一促進会(2005)、全日本華人促進中国平和統一協議会(2018)が設立された。ほかにも、日本華僑華人連合会は、市民社会や地域交流の場に影響を与える組織として機能している。

日本における影響工作では、中国人民対外友好協会(1953)がある。主席を務めた李先念の娘および中国空軍准将が設立した。

中国人民対外友好協会は、公的な外交手法として、日本高官に対する人と人との対話を促す仕組みを作っている。

ほかにも「国際親善」を名目にした組織がある。中国国際友好連絡会(1984)は、中国軍の一組織、中央軍事委員会政治作業部として運営されている。報告によると、この組織は諜報組織として機能している可能性がある。

外交、治安、統一戦線、プロパガンダ、軍事など幅広い分野で交流を指揮している中国国際友好連絡会は、日本では阿含宗などの宗教組織、建築家、書道協会、退役軍人、大手印刷会社に関わり、囲碁大会も主催してきた。

米国に「政治戦争」を目的とするとみなされている、統一戦線の組織は、しばしば「友好」「文化交流」を名目に挙げる。日本に拠点を置く、少なくとも7つの組織は以下の通り。日中友好協会、日本国際貿易促進協会、日中文化交流協会、日中経済協会、日中友好議員連盟、日中協会、日中友好会館。

教育組織としては、統一戦線の部隊・孔子学院が知られている。日本では15カ所存在している。西側諸国では、その運営の不透明さや政治偏向性に懸念の声が高まり、いくつかの大学内の学院は閉鎖された。日本でも一部報道はあるものの、閉鎖に至った例はない。

日本にいる中国人留学生は、多くが在日本中国留学生協会に所属しており、中国大使館が連絡を取ることで、中国統一戦線の影響下に置かれている。

ヒョウ氏は、日本世論が2018年、中国に対する印象を「好ましくない」と答えた人が86.3%に及んだとの報告を引用して、日本における中国共産党に対する浸透工作の影響力は米国、台湾と比べると、深刻ではないとの見方を示している。

こうした世論から、最近のフーバー研究所とアジア・ソサエティの調査が指摘している「米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、欧州の一部の国で明らかになった、中国共産党による浸透工作は、日本では多く見られない」との見方は適切にみえる。

いっぽう、ヒョウ氏は、中国共産党は学術、社会、文化、地域、経済など多様なルートを通じた、日本国民と日本政府に影響を与える浸透工作は継続していると分析している。

(翻訳編集・佐渡道世)