中国政府は海外で影響力を拡大し続けている。中国共産党中央委員会のプロパガンダ推進計画「大外宣」を主導・運営する統一戦線工作部の予算は外交部(外務省に相当)よりも多い。米シンクタンクがその予算と経費を分析した。
統一戦線とは、共産主義の影響力と統制を国内および海外で強めるため、党員の指導や管理を行う統括組織である。
ワシントンのシンクタンク・ジェームズタウン財団は9月17日、「党の代弁者に金を入れる:中国はいかにして統一戦線工作部の資金を動員しているか」を発表した。統一戦線部の運営費について、中国の中央政府、地方政府および共産党の組織から発表された160件以上の予算と経費報告書から得た情報をまとめた。
中国共産党は長らく西側メディアに「海外に政治的影響力を行使している」と批判されていることについて、「根拠なき偏見だ」と否定してきた。しかし、今回の報告は「予算は言葉よりも語る」として、外務省よりも予算を多く割り当てられた統一戦線部の活動規模は大きいと指摘している。
報告によると、中央と地方の統一戦線組織は、2019年に最低でも26億ドル以上を支出し、中国外務省の資金を上回った。中央の予算は公表されていないため、実際はこれよりはるかに多いと考えられている。さらに、その6億ドル近くが、外国人や在外中国人社会に影響を与えるために開設された党の事務所に投じられた。
報告書は、中国人民政治協商会議、国家宗教委員会、中国外交部、工商連合会など、統一戦線部の活動に重要な中国政府の4つの部門が、統一戦線部の指導の下で共同プレスリリースを発行し、イベントを共催し、財務文書も発行している。
中国各省庁の年間予算を公表している中国財務省は、これらの4機関の予算を公開しているが、活動の中枢的な役割となる中国共産党中央委員会の統一戦線工作部の予算は公開していない。4機関の予算総額は14億ドルで、中国公安部とほぼ同額である。
報告書によると、中国民族宗教委員会は主に統一戦線部の国内での影響力を担当している。年間12億ドル以上を費やして貴州、甘粛、雲南、広西、内モンゴルなど少数民族が集中している地域の工作を行っている。
しかし、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などの重要な地域における「再教育活動の監督」、そして海外の技術移転の調整、若手の育成などの活動は、中国共産党中央委員会の統一戦線工作部が直接出資するため、予算は26億ドルよりもはるかに多いと考えられている。
中国共産党中央弁公庁が9月15日に公表した指針によれば、民営企業に対して統一戦線工作を強化するよう指示。この指針は、中国本土でビジネスを展開する香港とマカオの企業家も含まれている。指針は企業家に対して「党中央と同じ政治的立場を取る必要がある」と要求している。さらに、民間実業家のデータベースを構築し、「党が人材を管理する」と明言した。
中国では民営企業が国内総生産(GDP)の6割を占める。
近年、動画短編投稿アプリTikTokの親会社、北京字節跳動科技(バイトダンス)や5G通信機器を海外に輸出する華為技術(ファーウェイ)などの中国企業が海外で市場シェアを拡大している。これらの民間企業への管理強化を通じて、中国共産党は海外でさらなる統制を強めるとみられる。
中国では民営企業と国営企業の区別が曖昧だ。米国は中国企業について、中国共産党のツールの一つとみなし、取引規制を行っている。
中国共産党は表向きには、統一戦線工作部による活動を「行政組織の良心的なネットワーク」と表現し、外交政策を「相互尊重、相互内政不干渉」を原則としていると主張している。
ジェームズタウン財団の報告は、中央委員会の統一戦線部の予算や経費を始め、多くの統一戦線工作の会計が開示されていないことから、機密工作を行っていることが窺えると指摘している。
(翻訳編集・佐渡道世)
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