英シンクタンク報告書「英国はインド太平洋に参加すべき」安倍晋三前首相が寄稿

2020/11/25
更新: 2020/11/25

​英国は、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)後もインド太平洋地域に関与すべきだと提案する英シンクタンクの報告書が11月22日、発表された。報告序文は、安倍晋三前首相が執筆した。報告は、世界秩序に対する中国の脅威に対抗するため、軍事、財政、外交に資源を投入して、主要国による民主主義的勢力を構築しようと呼びかけている。

英保守系シンクタンクであるポリシー・エクスチェンジ(Policy Exchange)が発表した​報告は「2020年以降の世界的な英国の姿を描いた公約」と銘打たれた。この報告は、英国やカナダ、オーストラリア、日本の識者からなる同シンクタンクのインド太平洋委員会が、地域と英国の関わりについて、英政府に政策提言を行った。

カナダのハーパー前首相は報告書の監修役をつとめ、日本の安倍晋三前首相が序文を担当。ほかにもオーストラリアのダウナー元外相、英国のファロン元国防相、ニュージーランドのマッカリー元外相、鶴岡公二前駐英国日本大使が参加している。報告発表に際して、オーストラリアのモリソン首相が「英国のインド太平洋関与を歓迎する。地域に戦略的比重を置き転換する時期が来ている」と、コメントを出している。

​報告は、英国がインド太平洋地域にあるオーストラリア、インド、日本、韓国、台湾などの友好国と緊密な連携を提案し、これらの国々とともに、1941年に英国と米国が署名した大西洋憲章と同様の21世紀の民主主義憲章にコミットすることを提案している。

大西洋憲章は、第2次世界大戦後の世界平和回復のために英米の両国が合意した基本原則。互いに領土の拡大を求めないことや、妨害のない通商の開放の維持、さらには国連憲章にも通じる、侵略の脅威を与える国の武装解除と安全保障体制の構築に務めることなどを約束している。

英国では11月中旬、​国防費の大幅な増額を発表した。4年間で165億ポンド(約2兆2770億円)であり、30年来で最大の増加となる。ボリス・ジョンソン首相は、英国は欧州で最大の国防支出国であり、NATOでは米国に次ぐ規模の国として地位を確固たるものにすると表明している。

英国の防衛費の増額は最先端技術への投資を重視しており、具体的な地域の関与についてはまだ説かれていない。遠いインド太平洋地域への関与は、英国財政の大幅な資源移転が必要となり、英国は膨張する中国共産党対応の決断が迫られている。すでに、フランスとドイツは、インド太平洋における関与と平和的戦略を発表している。

安倍前首相は​序文の中で 「英国はこの地域の国々と協力して、民主主義の価値を維持し、近年影響が大きくなった多国籍機関を支援することができる。​安全保障面では、英陸軍、特に英海軍がインド太平洋海域で歓迎すべき存在となるだろう」と書いている。

​報告書はこう指摘する。「すべてのインド太平洋地域の友好国は、英国が地域にもっと関与することを期待している」「英国の完全な国際化のためには、東インド洋から西太平洋、オセアニアに広がるインド太平洋地域が優先されなければならない」

​「英国は、米国およびインド太平洋地域、他地域の同じ考えを持つ国々と協調して、世界的な協力、開放性、法の尊重および一般に認められた行動基準の遵守を擁護すべきである」と主張している。

​具体的には、英国が地域の自由貿易パートナーシップへ参加を申請し、日本、米国、インド、オーストラリアによる4カ国の安全保障対話QUAD(クアッド)への参加を求め、インド洋の中心に位置し米軍基地を構える英国領のディエゴガルシア島のような軍事協力を考えるべきだとしている。

ほかにも、中国共産党が70ほどの国々と提携した経済構想「一帯一路」の影響を抑えるために、代替案である米国と同盟国などが主導する「クリーンネットワーク」を通じて、インド太平洋地域に援助することを求めている。

香港については、英国の旧植民地であり人権侵害行為にリーダーシップのある行動を取るよう進言。香港の実質的な自治権を侵害した中国共産党幹部に制裁を科すべきだと提案している。

さらに、国際的なサイバーセキュリティや公衆衛生などの問題で評価の高い台湾とは、中国をけん制しながらも、関係の正常化を図るべきだとしている。

(翻訳編集・佐渡道世)