昨年11月、中国オンライン決済会社最大手のアント・グループが予定していた上海と香港市場への同時上場が突如、当局に差し止めされたのは、共産党上層部の政治闘争に巻き込まれたとの見方が出ている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は17日、習近平当局が、同グループの主要株主に江沢民派の存在を警戒したことが原因だと報じた。
中国金融当局は昨年11月、電子商取引最大手のアリババ・クループの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏と、同社傘下金融会社のアント・グループの上級幹部に対して「監督管理上の聴取」を行ったと明かした。これを受けて、アント・グループは両市場への上場計画を延期すると発表した。当初、両市場の上場で同社の資金調達額は、史上最大規模の350億ドル(約3兆7026億円)に達すると予想された。
WSJ紙は17日、十数人以上の中国当局者と政府顧問の話として、中国当局はアント・グループの複雑な所有構造(Ownership Structure)に懸念を強めていると伝えた。
報道によると、中国当局はアント・グループが上場する数週間前、調査を行った。当局は、同社のIPO目論見書がその複雑な所有構造を覆い隠したと指摘した。調査では、同社の株式を所有する不透明な投資事業体の背後に、共産党指導部の権力者につながるグループがあるという。この利益集団の中に、習近平氏らにとって潜在的な脅威となる人物の家族がいる。
WSJは、アント・グループの投資者の多くは「紅二代」と呼ばれる共産党の長老や高官の子弟だとした。その中に、江沢民元国家主席の孫である江志成氏が香港で設立した投資会社、博裕資本有限公司(Boyu Capital)の存在に注目した。
博裕資本は2012年、中国政府系の国家開発銀行や政府系ファンドの中国投資有限公司などと共にアリババ集団に協力し、米ヤフーが保有するアリババ・グループの株式を買い戻すことに成功した。
中国当局は外国企業に対して、国内の決済事業への進出を認めていない。このため、博裕資本はまず上海で子会社を設置し、そしてこの子会社を通して上海で投資会社を設立した。この投資会社が北京の私募ファンド「北京京管投資センター」に投資した。北京京管投資センターはアント・グループの1%株式を取得し、主要株主となった。しかし、アント・グループのIPO目論見書は、北京京管投資センターについて言及したが、博裕資本や江志成氏についての情報はなかった。
また、共産党最高指導部の元メンバーである賈慶林氏の義理の息子、李伯潭氏も、自身が所有する複数の投資会社を通じて、アント・グループの株式を取得したという。賈氏は、党内江沢民派閥の一員である。
近年、中国共産党内では、江沢民派と習近平派による権力闘争が白熱化している。
一部の報道では、習近平氏が自ら同社の上場中止を決定し、規制当局に調査を命じたと伝えた。また当時は、馬雲氏が同年10月に公の場で中国の金融規制当局を非難したことが、上場が中止された理由だとの見方が広がっていた。
WSJ紙の9日付によると、2018年にアント・グループに140億ドル(約1兆4817億円)の資金を投資した国際投資家らは、同社の上場中止で資金を取り戻せなくなっている。
(翻訳編集・張哲)
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