中国当局は台湾海峡での挑発行為を強めている。中国軍機は1月末、1日10機以上の規模で連日、台湾南西部の防空識別圏に入り、2月20日には、中国軍機計11機が台湾の実効支配する南シナ海・東沙諸島地域で演習を実施した。米、豪の専門家は、台湾海峡で軍事衝突が起きる可能性が高まっていると懸念し、バイデン米政権に衝突の発生を全力阻止するよう呼びかけている。米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が18日伝えた。
「台湾統一で毛沢東と同じ地位を」
米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)は1月下旬に公表した年度調査で、台湾をめぐる米中対立は、2021年に起こる確率が最も高い不測事態になるとの見通しを示した。
オーストラリアのケビン・ラッド(Kevin Rudd)元首相はこのほど、CFRが発行する雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に寄稿した。ラッド氏は危機的な状況を避けるために、米政府は中国当局の挑発に対する対策方針を速やかに策定した方が良いと提案した。
ラッド氏は、中国当局は、2027年までに国防の現代化を全面的に実現することを目標に掲げていると指摘した。習近平国家主席が退任前、台湾統一を成し遂げれば、「共産党内で、毛沢東と同じ地位を得ることができる」ため、今よりも強い権力が手に入るとラッド氏は示した。
ラッド氏は現在、中台の平和統一の可能性は低いとした。その理由は、習近平氏が台湾海峡で米軍を抑え込むために軍事力を増強し続けているためだと強調した。ただ、中国共産党政権が本格的に台湾への軍事行動を取れば、「国際社会において、中国当局の合法性は揺るぐだろう」と同氏は示した。
同氏は、仮に米政府が、台湾という第2次世界大戦から守ってきた民主主義の同盟者を支持しなくなれば、他のアジアの同盟国が米国と築いた信頼関係も大きく打撃を受けると示した。
親中派のラッド氏は、米中対立による危機的な状況や軍事衝突を避けるため、米中双方に「競争へのマネジメント」を提言した。また同氏は、中国を刺激しないよう、台湾問題において、米国は「1つの中国」政策を厳守しなければならないと強調した。「トランプ前政権の挑発的行為、米政府高官による不必要な台湾訪問を止めるべきだ」とした。また、中国に対して、同氏は台湾海峡における軍事演習の回数を減らし、自制すべきだと提案した。
バイデン政権の対中姿勢
一方、米国防総省の元高官、ダニエル・ブルメンタール(Daniel Blumenthal)氏は、中国当局による台湾海峡での威嚇行為を阻止するために、「米政府はまず、台湾防衛の約束を再確認し、台湾防衛における米国の強い軍事力を誇示しなければならない」とVOAに話した。同省在職中、中国・台湾・モンゴル担当だった同氏は今月17日、米シンクタンク、グローバル台湾研究所(Global Taiwan Institute)のオンライン会議で発言した。
ブルメンタール氏は、台湾海峡問題において、米政府と同盟国は、あいまいな態度ではなく、より明確な姿勢と政策を示すべきだとした。
同氏は、中国共産党政権がますます全体主義に走っていることは政権の脆弱性を反映しているとの見方を示した。「中国共産党はその体制によってもたらされた政治的腐敗、景気悪化による債務急増、少子高齢化などの深刻な国内問題を抱えている。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国当局は、その初期対応の遅れへの批判を交わすために、対外では好戦的で威圧的な姿勢を取っている」ブルメンタール氏は、「このため、実は中国当局が非常に危機的な状況にある」と話した。
2月上旬、中国の習近平国家主席と米国のバイデン大統領は、バイデン大統領就任後、初めての電話会議を行った。これに先立ち、両国の外交トップも電話で会談した。ホワイトハウスと国務省が発表した声明では、バイデン政権は「1つの中国」政策、および「(1972、78、82年の)3つの米中コミュニケ」を強調しなかったことがわかった。
ブルメンタール氏は、台湾問題をめぐって「中国側の機嫌を取ろうとしなかった」とトランプ前政権の姿勢を評価した。
「トランプ前政権は中国当局に対して、米国が『1つの中国』政策を守ると同時に、『6つの保証』を守ることもはっきり示した。さらに、トランプ前政権は、レーガン政権の台湾向け武器売却に関する機密文書を公開して、武器売却による台湾支援をアピールした」
「台湾・日本は最も危険」
CFRの研究員であるロバート・ブラックウェル(Robert Blackwell)氏と、バージニア大学の歴史学教授、フィリップ・ゼリコウ(Philip Zelikow)氏は2月中旬、共同執筆した報告書を公開した。報告書は、米政府の現行政策は中国当局の軍事挑発を抑止できないと指摘した。
報告書は、米政府に対して「1つの中国」政策を維持しながら、台湾や日本などアジアの同盟国と協調し、主権国家資格を不要とする国際機関への台湾の加盟、台湾との自由貿易協定締結などに一段と取り組むべきだと提案した。
ブラックウェル氏らは、中国当局には「台湾への領土主権を主張する3つの軍事行動シミュレーションがある」とした。1つは、太平島や東沙諸島など台湾本島の周辺地域を侵攻する。2つは、空・海上から台湾を封鎖する。3つは、台湾本島を攻撃する。報告書は、台湾本島への侵攻は中国当局にとってリスクが高いが、「台湾の領土主権問題を決定的に解決できる」との見解を示した。
報告書は、台湾防衛をめぐるアジアの同盟国との協力において、日本との提携をより一層強化すべきだとの見方を示した。日本は、台湾と同じく、中国当局の軍事挑発というリスクに最もさらされている。
また報告書は、米バイデン新政権は、対中政策や台湾政策に関して、米国民や議会と緊密に意思疎通を行うべきだとした。台湾問題における米国の戦略目標は、「台湾の政治・経済の自由を守り、台湾という自由社会の活力と、米国と同盟国の抑止力をキープしつつ、中国当局による台湾侵攻を回避することだ」と報告書は強調する。
(翻訳編集・張哲)
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