中国による違法で恣意的な拘束に、ノーを突きつける60か国

2021/03/05
更新: 2021/03/05

2021年2月、欧州連合を含む約60か国の世界諸国が「国家間の関係における恣意的な拘束に反対する宣言」に署名した。15日、今回の宣言を主導したカナダのマーク・ガルノー外相は声明で、「違法かつ道義に反する行為により、あらゆる国の市民が危険に曝される。これは法治を根底から覆すものだ」と訴えた。

恣意的拘束は特に中国がよく外交手段として利用する手だ。これは国際法に違反し、人権の原則確立を妨げるだけでなく、国家間の関係をも弱体化させる行為である。注目に値する中国の恣意的拘束の例としては、オーストラリア国民とカナダ国民が中国で拘束された事件、また新疆ウイグル自治区における自国民の強制収容所への拘留が挙げられる。

オーストラリアに所在するラ・トローブ大学のアジアプログラム「ラ・トローブ・アジア」を率いるベック・ストレイティング博士は、英ガーディアン紙の豪ウェブサイト「ガーディアン・オーストラリア」に対して、中国が「適正な法的手続を経ずに」外国人を拘留した事例は数多くあり、これは「広範にわたる地理的な戦略や政治目的によるものと考えられている」と語っている。

これを明らかに示す事例として、成蕾キャスターの拘束事件が挙げられる。2020年8月にオーストラリアが2019新型コロナウイルス急性呼吸器疾患(COVID-19)の初動対応に関する調査の必要性を訴えたことで豪中関係が悪化していた時期であり、中国国営放送局「中国中央電視台」が所有・運営するCGTN(中国グローバルテレビジョンネットワーク)の国際番組に所属していた同有名キャスターが拘束された。成キャスターは中国生まれだが、オーストラリア国籍を取得している。

AP通信の報道では、2021年2月初旬、6か月間拘留されていた同キャスターは国家秘密を海外に違法に漏洩した容疑で正式に起訴された。CNNニュースが伝えたところでは、CGTNは同キャスターに関連する情報をすべて自社のウェブサイトやソーシャルメディアから削除している。

2020年9月、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のエレイン・ピアソン(Elaine Pearson)オーストラリア支部代表はガーディアン・オーストラリアに対して、「最近では、大物、有名人、ジャーナリスト、国際刑事警察機構(インターポール)総裁など、その地位を問わず中国で拘束される危険性がある。外国人だけでなく、中国国民すらも明確な理由なしに中国の司法制度の中へ消えていく」と述べている。

中国側は恣意的な逮捕、拘禁、判決を特徴とする「人質外交」への関与を繰り返し否定してきた。 今回の宣言に署名した58か国には、オーストラリア、日本、ニュージーランド、トンガ、ツバル、英国、米国が含まれている。

2月15日、オーストラリアのマリセ・ペイン外相は声明で、「当国は引き続き世界の提携諸国と協力して、この悪意ある行為に対抗していく」と表明した。 別の顕著な事例として、2018年後半に中国が「国家安保を危険に曝した」容疑でカナダ国民2人を拘留した事件が挙げられる。これは2018年12月に中国ファーウェイ(Huawei)社の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が詐欺罪容疑でカナダで拘束されたことに対する明らかな報復であると考えられている。

孟最高財務責任者はバンクーバーで軟禁生活を送りながら、米国への身柄引き渡しを巡る法廷闘争を続けている。トロント・スター紙によると、中国で拘束されたままのマイケル・コブリグ(Michael Kovrig)元外交官とマイケル・スペーバー(Michael Spavor)起業家のカナダ人2人の所在は明らかにされていない。

両氏が正式に起訴されたのは2020年6月になってからで、裁判は未だ行われていない。 最近では、麻薬密輸で中国に拘束されている外国人被告等に非常に厳格な判決が下された事例も発生している。当初、麻薬密輸の罪で懲役15年の判決を受けていたカナダ国民のロバート・ロイド・シェレンバーグ被告の差し戻し審が行われ、2019年1月に死刑が言い渡された。2020年6月には、麻薬取引の罪により中国で7年間勾留されていたオーストラリア人俳優のカーム・ガレスピー被告に死刑が言い渡されている。同案件に関しては、裁判から5年も経ている。

2019年のアムネスティ・インターナショナル報告書によれば、一連の麻薬犯罪に関連する死刑判決は「一部の外国との政治的な関係悪化が中心的な要因となっているようである」と記されている。 カナダ政府のウェブサイトによると、今回の宣言では恣意的拘束への反対を表明して国際社会の意識を高める狙いがあるだけでなく、過酷な条件での拘禁、弁護士との連絡の拒否、拷問、他の残酷で非人道的または品位を傷つける処遇や刑罰を防止・禁止することを訴えている。

同宣言は世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)、領事関係に関するウィーン条約(ウィーン領事関係条約)で確立された人権の原則と法律を再確認するものである。また、国際連合人権高等弁務官事務所は1991年に恣意的拘束に関する作業部会を設立しており、現在もその活動は拡大を続けている。

英国のドミニク・ラーブ外相は声明で、「法的根拠なしに人の自由を奪うことは基本的人権を侵害する行為である」とし、「今年後半に開催予定のG7開発大臣会合において、日・米・英・仏・独・伊・加のG7諸国の外務大臣が国際法の支持や人権侵害への取り組み、共通の価値観の推進を目的として一層厳格な機構を構築する構えである」と述べている。

(Indo-Pacific Defense Forum)