抑止強化に向けて、米国が「アペックス・チャージャーII」を実施

2021/05/31
更新: 2021/05/31

2021年5月に実施された「アペックス・チャージャーII(Apex Charger II)」作戦で、米国空軍のB-52H長距離戦略爆撃機(愛称:ストラトフォートレス)により、世界にまたがる作戦を正確かつ同時に実行する最高峰の能力が実証された。これにより、抑止体制が一層強化された。「抑止」とは外交・軍事ルートを通じて国家間の武力衝突を防止する積極的な姿勢を指す用語である。

2020年9月に実施されたアペックス・チャージャー作戦に基づき、今年5月17日、米国国防総省の地域別戦闘軍(GCC)の中の4軍との連携により米戦略軍(USSTRATCOM)がアペックス・チャージャーII作戦を実施した。

今回の爆撃部隊(BTF)の演習では、米国の複数の基地から派遣されたB-52H核爆撃機6機がアフリカから欧州、インド太平洋、そして北米の一部を横断飛行し全世界を巡る任務の訓練に取り組んだ。

同演習により比類のない世界規模で航空同期作戦を計画、指揮、管理、実施できる米軍の能力が実証された。グアムのアンダーセン空軍基地から離陸した爆撃機群は、日本とロシアの太平洋岸に沿って飛行した後、アラスカとカナダを越えて米国本土の基地に帰還した。

ルイジアナ州バークスデール空軍基地から出発した別の爆撃機群は、大西洋を横断してバルト海、地中海、ノルウェー海上空を飛行し、さらにバルト三国、東欧州、北アフリカを横断してスペインのモロン空軍基地に着陸した。爆撃機6機はそれぞれの基地から時差をつけて離陸して指定経路を飛行し世界各地の戦略的要衝に同時に到着することに成功した。

アペックス・チャージャーII作戦では爆撃部隊の運用モデルの柔軟性を実証するため、航空機はインド太平洋地域への展開からの帰投または欧州への前方展開という設定で演習飛行を行っている。動的戦力運用(DFE)戦略が採用される前は、軍は長距離爆撃機をインド太平洋地域で予測可能な領域に継続的に配備しておく必要があった。

同作戦により米国とその同盟・提携諸国の準備態勢、信頼性、回復力、自由に活動できる状態が良好に維持されていることも実証された。

今回の世界的な演習は、中国とロシアの軍隊の軍事演習が静まっている間を縫って実施されたものだ。

また、アペックス・チャージャーIIは世界的に抑止力を行使できる爆撃機機能の敏捷性を実証する機会となった。

地上発射型大陸間弾道ミサイル、長距離爆撃機、潜水艦発射弾道ミサイルで構成される米国の「核の3本柱(三元戦略核戦力)」が世界な軍事抑止の中核としての役割を果たしている。

誰もが発生を望まないような事態に備えてこうした部隊は定期的に訓練や演習を積んでいる。核兵器の保有を表明している8か国のうち、核の3本柱という軍事力構造を維持できる空軍、陸軍、海軍力を備えているのは中国、ロシア、米国の3か国のみである。

最近、米戦略軍の司令官を務めるチャールズ・リチャード(Charles Richard)海軍大将は 米国下院軍事委員会で、「史上初めて、米国は核を保有する戦略的なニア・ピア(同等に近い敵)2か国に同時に直面しようとしている。この2か国には異なる抑止戦略が必要である」と発言している。

抑止の要素は状況によって変化するが、第三次世界大戦の勃発を防止するためには全体的な姿勢を維持する必要がある。

核の3本柱は、世界の競合国間戦争の主要な抑止力となるが、自由国家間の強力な同盟関係も別の抑止力として機能する。

アペックス・チャージャーIIで長距離爆撃機の飛行演習を実施したことで米国は同盟・提携諸国間の協力体制と目的の統一を強化し、平和維持に向けた高信頼性の軍事力を実証することができた。航空機を用いて空軍と陸軍の統合訓練を実施して同盟・提携諸国との協力体制を強化する主な手段が得られる。

今回のアペックス・チャージャーIIにはデンマーク、ノルウェー、ポーランド、スペイン、スウェーデン、英国が参加した。

リチャード大将は、「潜在的な敵を抑止する同盟・提携諸国への揺るぎない支持を示す上で戦略爆撃機の速度、柔軟性、即効性は重要な役割を果たす」と述べており、「こうした演習は同盟・提携諸国との相互運用性を改善する貴重な訓練機会となり、これにより当軍と味方の軍隊が場所や時間を問わずにあらゆる課題に断固として対処できる能力を備えていることを実証できる」と話している。

戦略的競争の新時代において、米国とその同盟・提携諸国は準備態勢を整え、警戒を怠らずに世界平和を維持するための抑止の推進に取り組んでいる。 

(Indo-Pacific Defence Forum)