米軍、過去20年続く「対テロ戦略」から「対中国戦略」に転換 

2021/06/15
更新: 2021/06/15

米国防総省は、過去20年続く対テロ戦略から転換し、対中国戦略に重点を置いた軍内部の組織調整を行なっている。バイデン政権は2月、国防総省に対中戦略専門家チーム「任務部隊(タスクフォース)」を設置し、中国がもたらす課題に対する米軍の対応を強化すると発表している。

国防総省高官は6月9日の記者会見で、ロイド・オースティン(Lloyd Austin)国防長官が対中国戦略を重要視した体制を整えるため、軍事専門教育(PME)を見直すよう、人事等の担当次官に指示したと述べた。

軍事専門教育(PME)の更新は、2001年9月11日に発生した同時多発テロ以降の「対テロ戦略」からの大きな転換となる。米メディア「アーミータイムズ(Army Times)」紙によれば、国防総省は詳細を明らかにしていないが、非対称戦を引き起こすテロ組織よりも、より米国の軍事力に近い装備や指導体制を持つ敵に焦点を当てた教育施策に移行する。

これは、激しさを想定する「対テロ戦争」ではなく、冷戦時代における紛争時のリーダーシップのあり方や、インド太平洋地域に焦点を当てた言語・文化の教育を行うと考えられている。

教育施策のほかに、中国に対応する軍の態勢も調整する。国防総省高官らは近年、インド太平洋地域における中国の影響力を重視して、米軍の配置を見直すことに力を入れている。

オースティン長官は「同盟国とパートナー国との連携・抑止力を強化し、新しい作戦コンセプト、新たな能力、将来の戦力体制、近代化された文民と軍人の力の開発を加速させる」と述べている。

長官は3日の上院軍事委員会で、7150億ドルの国防総省予算案は「中国の明確な軍事力の増強という課題に合わせる」と明らかにしている。さらに、2022年にインド太平洋地域における抑止強化のため、「『太平洋抑止構想』(​PDI)に50億ドル以上」が含まれていると述べた。

この構想は、中国をにらんだインド太平洋地域における米軍の力をアップグレードするために使われる。例えば、グアムのイージス・アショアミサイル防衛システム、ハワイの新しいレーダー防衛、情報・偵察資産の増加、軍需品の増加、地域に駐留する海軍、空軍、海兵隊の増加、同盟国やパートナーとの訓練・演習の増加など。

インド太平洋軍報道官は9月初旬、記者団に対して、太平洋における戦力配置を強化すると語った。日本や韓国のような固定の基地ではなく、南太平洋における小規模なローテーションの展開が検討されている。機密情報に関わるとして、詳細は明らかにされていない。固定基地は、莫大なコストがかかることと、基地設置のための国家間の合意や締結にかける時間の消費から避けるとみられる。

バイデン政権の対中強行姿勢は、トランプ政権から継続している。米議会では共和・民主の両党も、中国の世界的な野心に対抗するため、経済、貿易、安全保障リスクなどのあらゆる面で、米国の対処能力強化に取り組む意向を示している。

しかし、バイデン政権は中国と「熾烈な競争」のための準備をするが、前政権よりも同盟国やパートナー国との緊密な協力を重点に置いている。

(佐渡道世)