米紙ロサンゼルス・タイムズは24日、中国共産党の創建から100周年の記念日が来月に迫る中、中国当局は公式の過ちと不名誉な党史を抹消していると報じた。同時に各種記録や、反体制派を弾圧した司法判決もブロックしたという。
同紙のアイリス・スー記者は2年前の報道について言及した。
天安門事件30周年に当たる2019年6月4日、天安門広場で追悼活動を行う3人の1990年代生まれの若者が当局に拘束された。
その2年後、当局はこの拘束に関する記録を消去した。
スー記者は中国最高裁判所および他の11の裁判所に電話をかけ、その理由を尋ねた。裁判所職員は記録が登録されていることを確認したが、非開示にした理由についての説明はなかった。
職員の1人は、「我々が見せたいと思えば、あなた方はそれを見ることができる。しかし、我々が見せたくないと思えば、それを消去するだけだ」と述べた。
28歳の董澤華(Dong Zehua、音訳)さんは当時拘束された若者の1人だった。彼は天安門広場で、黄色い傘を持った香港を支援する若者、そして天安門事件で死去した人を追悼しようとする別の若者と会った。
彼らは広場にほんの少しの時間滞在しただけで、拘束された。黄色い傘を持った若者は拘束後まもなくして釈放されたが、董さん2人はそれぞれ6カ月と7カ月監禁された。罪名はいつもの「騒乱挑発の罪」だ。
中国人たちはこれを「ポケット罪」と呼んでいる。全てをポケットの中へ突っ込むという意味で、言論、異議を唱える者、反体制派、請願者らを弾圧する際に中国当局が常用する万能の罪だ。
董さんは2020年6月にロサンゼルス・タイムズ紙に自身の拘留記録を送った。当時その記録は裁判所の判決書の公開データベースの中から見つけることができた。
しかし、その1年後(2021年6月)、董さんの判決書はデータベースから消失した。
「彼らは記録を削除した。あたかも中国人全員の記憶までも直接消せると言っているかのようだ」と董さんは憤慨した。
ツイッターアカウント「@SpeechFreedomCN」は、数カ月にわたり、これらのケースを追跡した。2000を超える「言論犯罪」のケースのデーターベースを構築した。
同アカウントによれば、5月に中国のSNSウェイボー(微博)やツイッターなどで「騒乱挑発」「国家指導者」などのキーワードで検索しても結果はゼロ件と表示されるという。通常、同じ検索方法で数千件の結果が出ている。
同データーベースの中には、ウイルスの流行に警鐘を鳴らしていた武漢の李文亮医師などウイルスに言及したため処罰されたケースが600以上ある。
また、ほかにもあまり知られていない数百の判決書もフォルダに収められている。
例えば、あるブロガーが武漢ロックダウン中の新聞報道を集めただけで、当局に6カ月間監禁された。
また、コンピュータープログラマーの2人はGitHubにあるデータベースと、武漢がロックダウンされた初期、検閲された記事のコメント履歴を保存したため、当局によって1年以上も拘束された。2人の罪名も「騒乱挑発」だ。
習政権は、党100周年を国を挙げて盛り上げ、称賛ムード一色に染める一方で、全ての言論や記憶をかき消そうとしている。当局は人々が互いに監視し合い、党史を批判するいかなる言論も告発するよう求めている。
最新版の「中国共産党の党史」では、毛沢東が1960年代と1970年代に引き起こした混乱と虐殺への批判がなくなった。その代わり文化大革命を「腐敗防止策」として称賛し、全国が混乱に陥った原因を「毛沢東の正しいイデオロギーを徹底的に実行しなかったため」とした。
中国当局の目的は、勝利を収めた歴史的物語を作り上げることだ。特に過去数十年の激動を経験していない中国の若い世代にそれを植え付けようとしている。若い世代は自分たちの周りで起こっている鎮圧活動にすら気づいていないことがよくある。
例え、董さん自身でさえ、自分が2019年のあの日に警察から暴力的な扱いを受けるとは想像もしていなかった。
「彼ら(中国当局)がやっていることは、すべての中国人の思想をコントロールし、一人ひとりの歴史を抹消することだ。彼らは自分たちで歴史を書き換えようとしている」と董さんは指摘した。
董さんも他の人々と同じように、中国の新世代が政府の作った物語に惑わされ、プロパガンダの背後にあるものを識別できない。たとえ何かを見つけたとしても、声を上げる場所すらないと懸念している。
(翻訳編集・李凌)
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